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なんとなく言語 (学) に興味がある人のためのブックガイド

「なんとなく言語 (学) に興味がある人のためのブックガイド」をつくりました。

  • 「なんとなく言語 (学) に興味があるのでもうちょっと読んでみたい」

  • 「言語学にどんな分野があるのか知りたい」

  • 「専門的に勉強したいというほどではないのだけれど、もうちょっと何か読んでみたい」

という人のために、言語 (学) についての入門的な本を紹介します。

これらの本を読んで言語 (学) っておもしろいなと思ったら、ぜひ大学などで言語学の授業を受けたり、専門的な入門書を読んだりしてください。

あるいは、以下の記事を参考に自分で言語学を勉強してみるとよいでしょう。

あくまで、なんとなく言語 (学) に興味がある人のためなので、注意点がいくつかあります。

  • 網羅的なリストではありません。まだまだ編集中です。おもしろかった本があったら教えてください。

  • 基本的に和書で、一般向けの本を紹介しています。

  • 出版年順に並べてあります。

それでは、テーマごとに紹介していきます。


世界の言語の多様性が気になる

言語 (学) に興味をもつきっかけはいろいろあると思いますが、自分の母語以外の言語の存在がきっかけとなることも多いと思います。

この地球には6,000から7,000もの言語が話されており、その構造は極めて多様です。

  • 井上優 (2013) 『相席で黙っていられるか: 日中言語行動比較論』岩波書店.

  • ニコラス・エヴァンズ (2013)『危機言語: 言語の消滅でわれわれは何を失うのか』京都大学学術出版会.

  • 木村英樹 (2017) 『中国語はじめの一歩 (新版)』ちくま学芸文庫.

これらの本には私も大きく影響を受けていますが、なかでも木村先生の本は思い出深いです。

旧版は1996年にちくま新書として発表されたのですが、私は高校生のときにこの本を読んで、語順類型論やテンス・アスペクトなどについて学び、興奮したのを覚えています。

日本語の多様性も気になる

世界の言語も多様性にあふれていますが、日本語にもさまざまな方言・バリエーションがあります

  • 金水敏 (2003)『ヴァーチャル日本語役割語の謎』岩波書店.

  • 小林隆 (2006)『方言が明かす日本語の歴史』岩波書店.

  • 工藤真由美 & 八亀裕美 (2008)『複数の日本語: 方言からはじめる言語学』講談社選書メチエ.

  • 小林隆・澤村美幸 (2014)『ものの言いかた西東』岩波新書.

  • 井上史雄 (2017) 『新・敬語論: なぜ「乱れる」のか』NHK出版新書.

  • 窪薗晴夫 (2017) 『通じない日本語』平凡社新書.

私が西日本出身 (岡山県) であることもあって、昔から日本の東西の歴史・文化・言葉の違いには興味があるのですが、まさにその問題を扱ったこの本、おもしろかったです。

言語はどのように変化するのだろう

現在の姿が過去の出来事の反映であることはよくあることですが、言語もまた例外ではありません。

  • 山口仲美 (2006)『日本語の歴史』岩波新書.

  • 寺澤盾 (2008)『英語の歴史: 過去から未来への物語』中公新書.

  • 堀田隆一 (2016)『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』研究社.

このジャンルでは、堀田先生のこの本が最近のおすすめです。

英語に関する素朴な質問に答えていく形式で英語の歴史 (および言語変化一般) を学ぶことができます。

言語と思考の関係はどうなんだろう

話す言葉が違ったら、世界の見え方も違うかもしれない。そんなことを思ったことはないでしょうか?

  • 井上京子 (1998)『もし「右」や「左」がなかったら: 言語人類学への招待』大修館書店.

  • 今井むつみ (2010) 『ことばと思考』岩波新書.

  • ドイッチャー, ガイ (2022)『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』ハヤカワ文庫.

我々の話す言葉が思考や認知に影響を与えているかもしれないという考え方は、サピア・ウォーフの仮説とか言語相対論と呼ばれます。その分野に興味のある方はとりあえずこちらを読んでみてはいかがでしょう。

「未知の言語」を調べたくなった

世界には数え切れないほどの言語がありますが、実はあまり「未知の言語」というのはありません。少なくともその存在は知られているからです。

しかし、「まだよく調べられていない言語」ならたくさんあります。言語学者の使命のひとつはそのような言語を記述し記録し保存するところにあります

  • 梶茂樹 (1993) 『アフリカをフィールドワークする: ことばを訪ねて』大修館書店.

  • 中川裕 (1995) 『アイヌ語をフィールドワークする: ことばを訪ねて』大修館書店.

  • 青木晴夫 (1998) 『滅びゆくことばを追って: インディアン文化への挽歌』岩波書店.

  • 呉人恵 (2003)『危機言語を救え! ツンドラで滅びゆく言語と向き合う』大修館書店.

  • エヴェレット, ダニエル L. (2012)『ピダハン: 「言語本能」を超える文化と世界観』みすず書房.

  • 大角翠 (2018) 『言語学者のニューカレドニア: メラネシア先住民と暮らして』大修館書店.

  • クリック, ドン (2020)『最期の言葉の村へ: 消滅危機言語タヤップを話す人々との30年』原書房.

このジャンルの本はどれを読んでも面白いのですが、最近のおすすめは大角先生の本です。

「『天国にいちばん近い島』では多くの先住民の言語が消滅の危機に瀕している」。どういうことでしょうか? 気になりますね。

意味が気になる

我々が今使用している日本語も、よく知っている英語も、改めて観察してみると奥が深いです。

そもそも意味ってなんでしょう?

  • 鈴木孝夫 (1973) 『ことばと文化』岩波新書.

  • 佐藤信夫 (1992)『レトリック感覚』講談社学術文庫.

  • 池上嘉彦 (2006) 『英語の感覚・日本語の感覚: <ことばの意味>のしくみ』NHKブックス.

  • 寺澤盾 (2016)『英単語の世界』中公新書.

このジャンルにもおすすめの本がたくさんありますが、狭義の言語学者による本ではないものの、この本はおすすめです。人生観が変わると思います。

文法も気になる

もしかしたら無味乾燥に感じられるかもしれない文法も、言語学の視点から観察するととてもおもしろいです。

  • ベイカー, マーク C. (2010) 『言語のレシピ: 多様性にひそむ普遍性をもとめて』岩波現代文庫.

  • 高橋英光 (2010)『言葉のしくみ―認知言語学のはなし』北海道大学出版会.

  • 西村義樹 & 野矢茂樹 (2013)『言語学の教室』中公新書.

  • 野村益寬 (2020) 『英文法の考え方: 英語学習者のための認知英文法講義』 開拓社.

このなかで特におすすめするのが野矢茂樹先生と西村義樹先生の共著の『言語学の教室』です。

野矢茂樹先生は私も駒場のときに記号論理学や科学哲学の授業でお世話になりました。西村義樹先生は私の先生です。

そのお二人が認知言語学をヒントに言語のさまざまな側面について議論しているのがこの本です。私も一部話題を提供しました。

『言語学の教室』に関連して西村義樹先生の東京大学朝日講座での講義「“文法”に意味はあるのか?」が UTokyo Open CourseWare で視聴できます。

こちらもあわせてご覧ください。

音にも興味がある

ふつうの言語学入門書では十分に触れられていないような感じがしますが、音もびっくりするほど不思議です。

  • 田中 真一 & 窪薗 晴夫 (1999)『日本語の発音教室: 理論と練習』くろしお出版.

  • 窪薗晴夫 (2011) 『数字とことばの不思議な話』岩波ジュニア新書.

  • 川原繁人 (2015) 『音とことばのふしぎな世界 岩波書店.

  • 窪薗晴夫 (編) (2017)『オノマトペの謎: ピカチュウからモフモフまで』岩波科学ライブラリー.

この分野では窪薗晴夫先生の本が特に好きです。

問いがいいですね。この本の裏表紙にはこう書いてあります。「20」を読むときには「にじゅう」なのに、「10」は「いちじゅう」とは読まないのはなぜ? なぜなのでしょう?

まだまだ興味がある

言語学のおもしろい世界はどんどん広がっていきます。

うまくジャンルごとに分けられていませんが、他にもたくさんあります。

  • 白井恭弘 (2013) 『ことばの力学: 応用言語学への招待』岩波新書.

  • 広瀬友紀 (2017) 『ちいさい言語学者の冒険: 子どもに学ぶことばの秘密』岩波科学ライブラリー.

  • 針生悦子 (2019)『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』中公新書ラクレ.

  • 川添 愛 (2020)『ヒトの言葉 機械の言葉: 「人工知能と話す」以前の言語学』角川新書.

  • 今井むつみ・秋田喜美 (2023)『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか』中公新書.

  • エンフィールド, ニック (2023)『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』文藝春秋.

私自身が自分の研究で著者の研究をよく参照していることもあって個人的に好きなのは次の本です。

駒場の1年生向けの授業でも紹介しています。

よくわからない用語がでてきた

言語学の用語を調べたいときはとりあえずこちらをおすすめします。

  • 斎藤純男・田口善久・西村義樹 (編) (2015)『明解言語学辞典』三省堂.

私も32項目書いています。この辞書についてはこちらのサポート記事もあります。

おまけ

このページ以外にも言語学の入門書のリストがたくさんあります。そちらも参考にしてください。

追記

このブックリストはもともと私の Google Sites で2020年9月から公開していましたが、2024年4月に note に引っ越してきました。

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