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ショートショート 合気道

合気道。
それは、植芝盛平が日本古来の柔術剣術など各流各派の武術を研究し、独自の精神哲学でまとめ直した、体術を主とする総合武道である。(Wikipediaより)

ここはある道場。道場には師匠と弟子。そして、近所を徘徊する老人がたまたま、道場に迷い込んできた…かと思っていたが、『道場破り』をしに来たというクソジジイだった。

弟子「困ります。いきなり来られて、道場破りなんて。テレビで健康番組でも見すぎたんじゃないですか?」

クソジィ、老人「わしは、健康番組なんて見ない。最近見てた、アニメでな、相手に触れただけで、相手が倒れるシーンを見て、これじゃ!と思ったんじゃ。」

弟子(結局テレビじゃねぇか!)

師匠「確かに、合気道も触れただけで相手を倒す体術です。そこに共通点を見出すのはとても洞察力がある方なのだろうと感心しました。」

弟子(し、師匠⁉ 師匠、感心してる?)

師匠「しかし、道場破りとは、穏やかではありませんねぇ。どうして道場破りをしようと?」

老人「わしは今まで合気道などやったことがない。だが、あのアニメを見て、物事の本質に気が付いたんじゃ。力の流れを感じ、相手の方向に合わせる、いなす、跳ね返す、今のわしにはその力の流れを感じ取ることができる。そして、近所を徘徊していた時によく見ていたこの道場。稽古を見る限り、その本質に気づいているようには思えなかった。だから、わしは道場破りを挑んでいるのだ。」

師匠「話は理解りました。では、受けましょう。しかし、今までに合気道をやったことがないとのことでしたが、お身体はよろしいでしょうか?」

老人「わしは大丈夫だ!独り身。ここで死んでも本望!」

弟子(おい!ガチでクソジジイだなッ!テメェは良くてもテメェが死んだ後の片付けどうすんだよ。師匠。頼むから早く追い返して…え)

師匠:ニッコリ笑顔

師匠「いいでしょう。その心意気、気に入りました。では、○○(弟子)、相手して差し上げなさい。くれぐれも手を抜くことのないように。ここで手を抜いてしまうと、貴方の人生に一生の悔いが残るでしょう。」

弟子(え~!…けど、ここまで言われたらやるしかないか。師匠もいつもと眼が違うし…)

弟子「承知いたしました。 遅くなりましたが貴方の御名前を伺ってもよろしいでしょうか?私は小暮弥彦と申します。」

老人「わしは九祖慈々慰だ。よろしくな。」

弟子(いや、クソジジイじゃねぇか!せっかく、人が真剣にやろうとしてたのに、笑わせに来るなよ。…いや、これもクソジジイの術中か?合気道で大切なことは精神を平常に保つことだぞ。ひとまず落ち着け。深呼吸だ。)

師匠「では、お互い、準備はよろしいですか? …では、始め!」

試合が始まるや否や、弟子は軽く跳ね飛ばされ、ねじ伏せられていた。

弟子「痛い痛い痛い!」

師匠「そこまで!」

師匠「いやはや、驚きました。まさか、ここまでとは。アニメの力は恐ろしいですね(笑)。」

老人「わしは道場破りをしに来たのだ!何をヘラヘラしているんだ。次はあんたの番だよ!」

師匠「そうでしたね。あまり、やりたくはありませんが、受けましょう。私の名は杉下右近と申します。」

弟子(あっさり受けちゃったよ…。まぁ、師匠であれば負けることはないだろうけど、あのクソジジイ、何だったんだ?何されたのか全くわからなかった。)

弟子「では、両者、用意は整いましたか?…では、始め!」

今度は、試合が始まった直後に老人が気絶していた。それも、口から泡を吐いて。弟子が慌てて救急車を呼び、老人は病院へ運ばれた。結果は、ただ気絶しただけで身体に問題はなかった。

師匠「いや~一般人をいじめるなって、こっぴどく叱られてしまいましたね(笑)。ただ、あのご老人は一般人ではありませんでしたよね。少なくとも合気道経験者。もしくは、本当に合気道の本質を理解していた可能性があります。」

弟子「そうですよね!あれが一般人なわけがないですよね!(笑)。」

師匠「そうですね~。しかし、弥彦君。君はもっと合気道の本質に触れるべきだよ。彼女の一人でも作りなさい。」

普段は穏やかな口調な師匠の語気が、少し強くなったように感じた。私が老人に負けたからだろうか?合気道と、彼女を作る、がどうしてもつながらない。

弟子「…はい。精進します。」

弟子「しかし、師匠はなぜ、あんなにあっさり勝てたのですか?」

師匠「さぁ、なんででしょうかね。勝負は一瞬なので、わかりませんが…。しいて要因があるとするのならば、あのご老人が『道場破り』をしに来たといった時点で、彼は私に勝つことはできなかったでしょう。」

弥彦には全く意味が理解らなかったが、少なくとも師匠が負けないことだけは理解った。それ以来、弥彦は稽古に今まで以上に打ち込むようになった。

クソジジイ「おう!道場破りに来たぞ~!」

弥彦「懲りないねぇ~。また、相手してやるよ。」

現在、弥彦の対クソジジイ成績は41勝9敗32連勝中だ。


あとがき

最近見たアニメ『地獄楽』は『丹』という力を知覚することで、人間が人並外れた力を発揮し、敵を倒していくという話ですが、この『丹』というのが、気、殺気、気配などにあたる、「見えはしないが感じることができるもの」の正体のようです。その正体を掴むためには、強い、弱い、を受け入れ、波のように荒波と静寂が入り混じることを許容する感覚を認知することが必要でした。そして、合気道の世界でも、「柔よく剛を制す」と言葉があり、このアニメ『地獄楽』の力と合気道の力の意味するところは似てるのではないかと考え、このショートショートを閃きました。ちなみに私は合気道をしたことがないので、できれば達人級の方の技を受けたいです。高校の帰り道には、よく塩田剛三先生の動画や、柔道の三船久蔵先生の動画を拝見しており、戦後の方々はやはり違うなと感じていました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
したらね~!


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