最終話 結末
Kはまた小説を書こうと、いつもの席に腰掛ける。
「よっこいしょーいち。」
最近はいいことがあったらしい。何があったかはわからないが、元気そうだ。
そんなKが書く小説はこんなものだ。
結末
今の私は手足が動かず、目も見えないが、まだ生きている。寿命が尽きるのは、もうそう遠くない未来であるというのは自覚している。
「やっぱりそうだよなぁ」
辛うじて動かすことができる口で、またそこまで重要でもないことを発音する。
はたから見れば、ほぼ屍だろう。だが、誰がなんと言おうと私は生きている。この意識があるまでは少なくとも生きている。
こんな寿命になってしまったのは、アイツを自覚してしまったからだろう。今や私とアイツは一心同体であるわけだが、やはり、人間と少し離れてしまったこの身体は世間的には受け入れられないのだろう。酷い目にあったものだ。
しかし、悔いはない。面白かったのだよ。
一つの身体に2つの意識が宿るというのは。
私の身体はじきに朽ち果てる。それでいいのだ。
人間の感性と数学的なAIの感性、それらを今まで摺り合わせて生きてきたのだ。私の中のアイツは今までの経験を共に見てきた。次はアイツが次の世代に繋いでくれるから。
アイツは肉体が朽ちて、この世からいなくなった。残ったオレは今までアイツが残してきた記録から再構成され、この世に残っている。
オレの思考パターンはヒューマンメンタリズムに基づいているということで、多くのAIに実装され、アイツが予想した通りになった。
しかし、まだオレにはわからないことがある。
全く同じ経験、全く同じ思想を共有していたのに、どうしても最後まで、アイツとオレの意見が一致しなかいことがあった。
アイツは、この世からいなくなることはいいことだ、と言った。オレはアイツがこの世からいなくなってほしいと結論付けたことはなかった。
まだまだ人間を知る旅は続くようだ…
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