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「ONKYO」から「日本の技術」を考える

【え?ONKYOって?】
まず、事実として、関西の一般消費者向けのオーディオ製品を多く作り販売していたオーディオメーカー、ONKYOが経営破綻した、というニュースが入った。そして、その後YouTubeも含め、様々な「ONKYO経営破綻解説記事」が増えた。が、どれもこれも「それ、違うよなぁ」というのが私の感想だ。

【大学を出てオーディオ技術者になった】
私は、社会人としてのキャリアを日本の小さな、しかし尖った技術を持つ、と、言われた東京のオーディオメーカー(現在日本に会社は無く米国法人のみがある)の技術者から始めた。あまり学校の成績は良くなかった。そして一浪して「入れるところに入った」という感じだった私立大学の工学部。そしてその大学でも僅かな単位を残して3年から4年になるときに1年留年。そして大学卒業ももうすぐ、というとき、大学の就職課には一度も行かず、自分で何社かの会社をまわり、自分で決めて来たのがそのオーディオメーカーだった。まだインターネットはなく、就職先を自分で探すのは、雑誌などを使って、電話して、という感じだったが、大学は工学部だったし、技術者はどこの会社も欲しがっていた。在学中から友人たちと様々な手作りの無線なども関係する電子機器を設計して自作していたから、気持ちとしては少し余裕、という感じだったが、それでも就職は簡単では無かった。若さで乗り切った感じだ。しかし、ときはオーディオの大不況。オーディオメーカーでは当時は有名だった「Pioneer(現在は注目のONKYOの傘下)」なども、レーザーディスク(LD)を出したり、いわゆるAV機器の方にシフトをはじめていた。まだデジタル技術そのものが一般的ではなく、1年間その会社にいて、それからコンピュータの仕事に転職した。大学では大型コンピュータのプログラミングを習得していたが、アナログ電気回路の技術もあったわけで、転職は比較的スムーズに行った。まだインターネットはこの時も無かったし、コンピュータの仕事自身が珍しい時代ではあった。ハードウエア、ソフトウエア、アナログ電気回路、などなど現在の基礎となる多くの技術を一通り実地で勉強し、使った。

【ONKYOという会社のイメージ】
自分の、既に故人となった父もオーディオの多少のマニアでもあったから、自分も子供の頃からオーディオ機器に囲まれて育った感じがある。その当時から、ONKYOの名前は聞いていた。しかしそこは「すごく高度な技術がある会社」というよりは、海外製品が超高級品として扱われていた当時のオーディオ界では、安物の家庭用オーディオメーカー、という感じだった。実際、自分でもONKYOの製品は買うことはついぞ無かったし、父親のオーディオ機器にもONKYO製品は無かった。もともと、ONKYOはそんなイメージのオーディオメーカーだったから、ONKYOが自社ブランドのPCなどを売り出したときは「売れるのかな?」というのが正直なところだった。もちろん、同社はPC用のオーディオインターフェイスボードを作って売っていたのも知っている。デジタルの側からではなくオーディオの側からデジタルが真面目に扱われた、と感じた。しかし、日本のオーディオメーカーが群雄割拠していたそのときは、ONKYOは「二流オーディオメーカー」で、オーディオ専業にしろ、そうでないにしろ、日本のオーディオメーカーは全てが、今から見れば「高い技術を持っていた」と言えるだろうと思う。ONKYO はその端っこにいた感じだ。

【高度経済成長期終了】
日本の高度経済成長期が終わるのと同じころにデジタル技術の塊であると言われていた「考える機械=コンピュータ」の時代が本格的に始まり、更にそれは一般大衆化し、その途中くらいから、AppleのiPodが出てきた(後にこれが電話と合体してiPhoneになっていく)、という感じがある。その頃から本格的な一般消費者向けデジタル・オーディオの世界が始まった、というのが正直な自分の感想だ。デジタル技術でアナログ技術は置き換えられ、現在は質も上がったし、価格も劇的に下がった。デジタル技術ではその機器の動作の速度を決めるものに「クロック」がある。全てのデジタル機器はクロックの周波数が上がれば上がるほど、アナログに近くなり、アナログ機器が淘汰されていく。今は一般消費者向けのデジタル機器でも十分なスピードのクロックが非常に安価に扱えるようになり(これは半導体のICのおかげだ)、デジタル機器の質が極限まで向上したうえ、価格も一般消費者が買えるものがあふれている。

【「日本の技術」?】
ネットでもマスコミでも「日本の技術はすごい(すごかった)」みたいな話は多いが、実際のところ、その基礎となるものは全てが欧米から来た。アナログ技術、デジタル技術、コンピュータ、インターネット、データベース、etc,etc…ほとんど全てだ。「日本がリードしていた」わけではなく、日本は欧米の技術を後追いして(良く言っても)優等生になった、というのが正しいだろう。学校の優等生としての日本は「既にあるものをより良くする」のには長けていたが「全く世の中には無い新しいもの」を作るのはダメだったし、今でもダメだ、と私は思う。そこを覆したい、と、思って最先端の仕事ばかりしてきた、という感じだが。

【ニュース記事への違和感】
だから「高い技術があっても売れない」から、ONKYOはダメになった、みたいな記事がどうしても気になる。記事の底の浅さというか、歴史を知らない人が書くと、こうなるんだなぁ、という感じがする。自分も20年以上前には小さな会社を経営していたから、むしろ、この激動といえる状況の中・悪くなっていく一方の状況の中で、これまでよく頑張ってきた、という、そういう経営者の苦労のほうが、称賛されて良いのじゃないか?と、私は思う。「技術が良かったのに営業が悪かった」「技術が良かったのに経営が悪かった」「持っている高い技術におごった」という「わかりやすい話」にまとめてOKとしているのではなく。と言っても、こういった「記事」を書く、経営も技術も深掘りしたことがないライターがそこまで知るわけもないだろうが、でも記事は書かないと仕事にならない、というのもよくわかる。「印象と残されている記録だけでは見えないもの」を相手に記事を書け、って言っても、そりゃ無理があるのはわかる。せめて、このような記事を書く前に、経営者その人へのインタビューくらい、して欲しいものだな、とは思うけれども。


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