見出し画像

シンカンセンスゴイカタイアイスが、すごく硬いと知った日

学生の頃は、特に、お金がなかった。日々の食生活では、できるだけ安い野菜を買い、魚は1パック150円のいわし、肉ならグラム45円の鶏むね肉が定番のラインナップ。たまにパンが食べたくなった時は、10円で買えるパンの耳を食べたりしていた。

それでも年に2回は、実家に帰っていた。交通費でお金はなくなるけど、実家に帰れば、思う存分、食べさせて貰える。食事だけの問題ではないけど。

実家へは新幹線で帰ることが多かった。乗っている時間は2時間くらい。何か食べなくても、十分に過ごせる時間しかかからない。それに社内販売の商品は、私にとっては高い買い物だったので、いつも飲み物だけ別の場所で買って、乗り込んでいた。

そのときも飲み物だけ買って、新幹線に乗り込んだ。自由席は、結構、満席で、やっとみつけた席は2人席の通路側だった。窓際には、中年くらいの女性が座っていた。

席に座り、社内で読む本をカバンから取り出そうとしていると、その隣の女性が、「これ、どうぞ」とみかんをくれた。新幹線には何回も乗っていたけど、何かをくれるという人に会ったのは、そのときが初めてだった。

にこにこしながら、女性がみかんを差し出すので、私は戸惑いながらも、お礼を言って受け取った。

新幹線が動き出して、少し経つと切符チェックをする車掌さんが回ってくる。さらに少し経つと、お土産や飲み物を売る社内販売のパーサーが回ってくる。社内販売で買うものなどもないので、車掌さんの切符チェックの後は、そのまま寝るか本を読んで時間を過ごすのが、いつもの流れだった。

切符のチェックが終わり、社内販売の声が聞こえて来た。すると窓際の女性が、社内販売をしているパーサーの女性を呼び止めた。

「すみません!」

私は、座席に背中を押し付けて、窓際の女性に邪魔にならないように、本を膝に置いた。

すると窓際の女性は、こう言った。
「アイスを2つください」

「隣の女性はアイスが好きなんだなあ」と思いつつ、女性が支払いが終えたのを見届け、本を持ち上げた。すると隣の女性は、
「お1つ、どうぞ」
とアイスを1つ、私に差し出した。

「いやいや、、、」と遠慮したものの、女性がにこにこの笑顔で差し出すので、お礼を伝え、受け取った。

「すぐに食べないと溶けてしまう」そう思い、女性に「いただきます」を伝え、蓋をあけた。アイスをすくおうとスプーンを突き刺そうとするも、硬くて全く歯が立たない。新幹線でアイスなんて食べたこともなく、まさかこんなに硬いとは思いもよらず。。。

「めちゃくちゃ、硬いですねー」
と言うと、隣の女性は、
「そうそう、これ、硬いのよねー」
と会話が始まり、女性が降りる駅まで続いた。

女性はアイスを食べ始めて、30分くらいの駅で降りて行った。その後の乗車はいつもより早く、短く感じた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?