新番組「ジョンソン」のキーマンはモグライダー・芝大輔。ライバルはかつての「リンカーン」と、現在放送中のあの番組だ

 10月23日(月曜日)に始まった新番組「ジョンソン」(TBS)。初回放送の冒頭でも触れられていたが、この番組は単なる新番組ではない。2005年10月から2013年9月まで同局で放送されたバラエティ番組「リンカーン」の正統な後継番組だ。「リンカーン」のDNAを引継ぐ番組。ひと言でいえばそうなる。番組開始前からの告知や触れ込みなどからその期待の程が窺い知れたものだが、かつての「リンカーン」を頻繁に視聴していた筆者のようなお笑い好きにとっては、できれば目を凝らしておきたい番組のひとつだ。

 伝説と言われた番組「リンカーン」終了から10年ーーとは、先日の「ジョンソン」の冒頭で述べられたナレーションだが、あの「リンカーン」がいまや“伝説”と言われるほどの番組になっていたとは、率直に驚いた。筆者は当時、比較的番組を熱心に視聴していたファンのひとりだったが、決してそこまで視聴率が高そうな番組という印象はなかった。実際、筆者の周りにも「リンカーン」の視聴を次第にやめていく人は結構いた。この番組を視聴し続けているのは余程のお笑い好きなんだろうなとは、当時まだ学生だった筆者が抱いていた感想になる。それだけマニアックというか、独自色を強く感じた番組だった。

 昔自分が見ていた番組がいまや伝説と言われることに隔世の感を感じるが、やや持ち上げ気味とはいえ、そう言いたくなる気持ちもよくわかる。筆者の記憶に強く残っていることはもちろんだが、なによりまず出演者が凄かった。以下は「リンカーン」開始から丸8年間、番組のレギュラーを務めたその顔ぶれになる。(年齢は番組開始の2005年10月時点)

・ダウンタウン  浜田雅功(42歳)
         松本人志(42歳)

・さまぁ〜ず   三村マサカズ(38歳)
         大竹一樹(37歳)

・雨上がり決死隊 宮迫博之(35歳) 
         蛍原徹(37歳)

・キャイ〜ン   天野ひろゆき(35歳)
         ウド鈴木(35歳)

 今改めて見ても豪華な顔ぶれだ。そして何よりその年齢に驚かされる。「リンカーン」開始時はダウンタウンの2人でさえまだ42歳。その他は皆まだ30代半ばだった。「リンカーン」といえばレギュラー陣を含む数多くの芸人が体を張っていた姿が印象に残るが、その年齢を見ると思わず納得する。さまぁ〜ず、雨上がり決死隊、キャイ〜ンらはこの頃からすでに他の若手や中堅より立ち位置的には少し上の存在だったが、それでも最近の芸人に比べれば圧倒的に若くして売れていたことがよくわかる。メインキャストであるダウンタウンからの無茶振りに応えていたその姿がいまでは懐かしい。

 かつての「リンカーン」も4組のコンビがレギュラーとして出演していたが、実績や芸歴、年齢的にも、当然のことながらダウンタウンがトップだった。いわゆる1強(ダウンタウン)3弱(さまぁ〜ず、雨上がり決死隊、キャイ〜ン)の状態だったが、では、新番組「ジョンソン」ではこうしたレギュラー陣の上下関係はどうなのか。そのキャリアや年齢など、ここでもう一度確認しておきたい。(年齢は2023年10月時点)

・かまいたち  山内健司(42歳)
        濱家隆一(39歳)

・モグライダー 芝大輔(40歳)
        ともしげ(41歳)

・見取り図   盛山晋太郎(37歳)
        リリー(39歳)

・ニューヨーク 嶋佐和也(37歳)
        屋敷裕政(37歳)

 「ジョンソン」レギュラー陣の平均年齢は39歳。これは「リンカーン」開始時のメンバーより若干高い。今回の「ジョンソン」のメンバーが、実は思ったほど若くないことに気づかされる。そして芸歴の順番はかまいたち(2004年デビュー、NSC大阪26期)と芝(2004年デビュー、NSC東京9期)が一番上。以下はともしげ(2005年デビュー、スクールJCA13期)→見取り図(2007年デビュー、NSC大阪29期)→ニューヨーク(2010年デビュー、NSC東京15期)の順番になる。

 かまいたち、見取り図、ニューヨークの3組は吉本興業所属。その実績や芸歴を踏まえれば、上下関係はわかりやすい。かまいたちが頭ひとつ抜けていて、その少し下に見取り図とニューヨークがほぼ同格で並ぶ。そこに唯一、他事務所(マセキ芸能社所属)のモグライダーを組み込んだのが今回の「ジョンソン」の顔ぶれになる。

 名前や実績から見ても、この中ではかまいたちが大きく抜けた存在であることはもちろんわかる。先日放送された初回の芸人大運動会でも、山内組と濱家組にそれぞれ分けられるなど、かつてのダウンタウン的な扱いを受けていることは誰の目にも明らかだった。だが、それがいささか持ち上げすぎに見えた人も多分それなりにいたのではないか。かつてのダウンタウンのような特別な存在感を初回放送のかまいたちに感じたかといえば、ノーだ。山内、濱家ともに、松本さん、浜田さんにはまだ程遠い。つまらなくはなかったが、ダウンタウン不在の穴を埋めるようなパワーを見せつけることはできなかった。ここにダウンタウンやさまぁ〜ずがいたほうがたぶんもっと面白かったとは、初回の放送を見て思った率直な感想になる。

 かつての「リンカーン」にあったのは、そこでしか見られないオリジナルな企画はもちろんだが、最も先に来るのは、そこでしか見られない笑いそのものだった。具体例をひとつ挙げれば、ダウンタウンとさまぁ〜ずの共演になる。他の番組ではまず見ないこの2組の共演によって生み出される笑いは、他で見る笑いとは少しレベルが異なっていた。褒めすぎを承知で言えば、さまぁ〜ずはダウンタウンと同じくらい(「リンカーン」で)存在感を際立たせていた。少なくともダウンタウンと同じ吉本所属の雨上がり決死隊より、その力は明らかに上だった。僕的に「リンカーン」は、さまぁ〜ずの実力を見せつけられたと番組と言い換えることもできる。

 そうした視線を今回の「ジョンソン」に傾けたとき、レギュラーメンバーのなかで浮上するのはモグライダーだ。大袈裟に言えば、番組の鍵を握る存在。このレギュラー陣の組み合わせを見ると思わずそう言いたくなる。

 かまいたち、見取り図、ニューヨーク。この3組の吉本芸人の組み合わせはここ数年筆者もよく目にしてきたが、あえていうならば、そのマックス値はすでにある程度見えている。どれくらい面白くなりそうか、だいたいその見当はつく状態にある。だが、モグライダーは違う。この4組の中ではブレイクが最も遅かったためか、まだ芸人としての底は見えていない。上記の3組はうっすらその天井が見えてきたような気もするが、モグライダーはいまだ発展途上。少なくとも僕にはそう見える。

 「ラヴィット!」(TBS)の正式なレギュラー加入、そして今回の「ジョンソン」レギュラーへの抜擢など、ここ最近またさらに目に見えた飛躍っぷりが目立つモグライダー。昨年から頻繁に出演してきた「ラヴィット!」はともかく、「ジョンソン」は彼らにとっておそらくこれまでの芸人人生のなかでも最大の見せ場となるのではないか。「ジョンソン」で最も活躍したがっているコンビに僕には見える。

 かまいたちを「ジョンソン」におけるダウンタウンとするならば、モグライダーはパッと見、キャイ〜ンに見えなくもない。ともしげとウド鈴木、芝と天野。どちらもそれぞれ似たようなキャラクターだが、少なくともモグライダーは「リンカーン」におけるキャイ〜ン以上の活躍ができるとはこちらの見立てになる。特に芝は、かつての天野より芸人としての潜在能力は高いと見る。(芝は)芸歴的にもかまいたちと同期のため、メンバー全員に気兼ねなく鋭いツッコミをかますことができるはずだ。
 2年前のM-1以降、ここまでジワジワとその評価を高めてきた芝だが、この「ジョンソン」でまた一段とその価値を高める可能性は高い。「ジョンソン」レギュラーのなかでその活躍に最も目を凝らすべき存在。モグライダーは“キャイ〜ン”ではなく“さまぁ〜ず”になれるか、注目したい。

 「リンカーン」は丸8年続いた。その間、ある程度のマイナーチェンジは行われたが、番組としての基本的な方向性やコンセプトはそれほど変わらなかった。「他の番組がやらないようなことをする」。オリジナリティ溢れるその企画力こそ、「リンカーン」最大の特徴だった。そしてその番組としての遺産は、同じTBSの「水曜日のダウンタウン」にしっかりと引き継がれている。「リンカーン」なくして、「水曜日のダウンタウン」はなかった。バラエティ番組の最高値を更新し続ける現在の「水曜日のダウンタウン」を見ると、思わずそう言いたくなる自分がいる。

 筆者は「水曜日のダウンタウン」が実質的に「リンカーン」の後継番組という認識だったのだが、どうやら少し違ったようだ。「ジョンソン」こそが正真正銘の後継番組。そしてその比較対象はかつての「リンカーン」であり、現在放送中の「水曜日のダウンタウン」もその大きなライバルとなるに違いない。

 「水曜日のダウンタウン」は来年の3月でついに放送から丸10年を迎える。名実ともにすでに「リンカーン」を超えたと言ってもいい。ダウンタウンの2人が50歳の時に始まった「水曜日のダウンタウン」だが、まさかその後10年も続く番組になると予想した人ははたしてどれだけいただろうか。
 新番組「ジョンソン」はそんな「水曜日のダウンタウン」より先に終わるわけにはいかないはずだ。仮にもし早期に番組が終わってしまえば、華々しく始まっただけに格好は悪い。地味なスタートながらも徐々に評価を高めていった「水曜日のダウンタウン」との差が顕著になる。「ジョンソン」スタッフにかかるプレッシャーは大きいとはこちらの勝手な推察だ。

 「ジョンソン」ははたしてどのくらい続くのか。「リンカーン」は8年続いたが、いま振り返ればよく8年も持ったなと、思わず拍手を送りたくなる。だが、夥しいほどの娯楽が溢れるいまの時代で8年以上も続く番組はそうそうない。今回始まった「ジョンソン」の合格ラインは4〜5年とは、筆者の見立てになる。最低でも3年は持たなければ、期待値が大きかっただけに少なからずのダメだった感が漂うだろう。目標は「リンカーン」の8年かもしれないが、レギュラー陣の年齢的に、8年はさすがに厳しい。今後それぞれのメンバーが出世しすぎて、収録のスケジュールを合わせることが難しくなる可能性も否めない。それが要因で終わるのならば格好はいいかもしれないが。

 まずは半年。その辺りの出来栄えを見れば、今後の存続の可能性はある程度占うことができる。「リンカーン」の後継番組に恥じない、質の高い面白い内容を期待したい。

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