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迷い猫小次郎の物語2章

僕は少しずつご飯を食べながら
一睡もせず朝を待ちました
眠ると、そのまま死んでしまうかと怖かったのです

ルルはもうすぐ8歳。
達観したような口ぶりだったが
僕は人間にしたらまだ18歳そこそこ
これから先、もっと恵子さんや
恵子さんおご家族と一緒に暮らせるものだと思っていた。

それにお正月になれば
恵子さんの初ひ孫さんも来られると喜んでいたのだ。

朝がまだ明けきらぬうちに奥様は起きてきて
カーテンを窓の端に寄せ 
ガラス戸を勢いよく開けました。

そしてまだ僕が昨日のままでいることを確認し、
ご飯とお水の量を見て、
「お水は少し飲んだのね。ご飯は食べらえないのね?」
そう言って
チューブに入ったとっておきのおやつを出してくれました。
恵子さんも、ときどきくれたチュールです。
それなら少しは食べらえれました。
「あら、やっぱりあなた飼い猫なのね。
恵子さんちのこじゃないの?あの近くのお家なのかな?
この味は野良猫にはわからないんだよ!
どうして、ここに迷い込んできたの
おうちのは誰もいないのかな?」
僕の目を見て、ゆっくり背中を撫でながら
まるで子供のように笑いながら、そう言った。
僕が答えられないことをしてるくせに・・・

その後、朝ご飯のためにキッチンで働き始めた。
この家では奥様とご主人様の起床時間が随分と違うようだ。
奥様は4時にはもう外に出っらえる格好をしていますが、
ご主人は7時過ぎまで起きてきません

奥さんの生活時間と 
ご主人のそれとがあまりに違うから
この家では二人の寝室は別々にしたようだ。
 
          *

恵子さんは、息子さんが結婚した50歳の時に
最初の猫、小太郎くんをペットショップで買いました。
小太郎君はアメリカンショーヘアーの男の子でした
最期は腎不全で、16歳で亡くなったそうです。

恵子さんはその時、66歳になっていたので、
もう猫を飼うのは諦めていました。
でも、
猫を飼うことで諦めていた
外国旅行などを旦那様と何年か楽しんでいたようだ。
アルバムを開いては
懐かしそうに写真をなぞりながらみていた。
お気に入りの籐椅子に座り・・・

そんな御主人が4年前に亡くなって、
また寂しくなったのだろう。

でも、ご主人も亡くなり貰える年金もぐっと減ったので
ペットショップで猫を余裕はなかったようだ。
そこで譲渡会に行くことに決め、そこで僕と出会った。
その時も、お嫁さんが一緒についてきて
同意書に判子を押してくれた。
そしてすぐに小太郎の弟の小次郎になった。

恵子さんは、最愛のご主人を亡くし
またその看病も一人でして、
疲れがたまっていたのだろう。
僕がお宅に入って1年くらい経った頃から
物忘れが多くなった。
「歳だから、しかたないわよね」
と、いつもため息交じりに呟いていた。
それが、日に日にひどくなり
とうとう僕のご飯の時間も忘れるようになった。

          *

ようやく起きてきたご主人に向かって
まず奥様が言ったことは、おはようではなくて
「ねえ、おとうさん。あの子きっと動けないのよ。
夕方から少しも動いていないみたいなの」
と僕のことだった。

ご主人は朝から何だか機嫌が悪く
「分かったから、まず朝ご飯を作ってくれよ」
と、怒ったように言うのだ。

奥様は
怒りもせず、黙って無限ゆで卵にサラダなど付け
コーヒーの豆を煎り
朝ご飯の準備をしました。

その間に、顔を洗い、着替えをしたご主人も
僕の様子をのぞき込み
「こいつ、さくらのキャリーバックじゃ無理やなあ」
と呟いて、朝ご飯をたべにダイニングに消えてしまった。

1時間ほど経つと
大きなしろいゲージ抱えてやってきたご主人は
下に尿取りパッドを敷いて、僕をその中に入れた
奥さんも助手席に乗り込み、

「捨てなくて良かったね。さくらが半年まで使ってたやつ」
「そうやなあ。まさかこんなことに役立つなんてなあ」
ルルの言っていたように、ここのご夫婦は底抜けにお人よし
自分たちの生活もままならないのに
僕を病院に連れて行ってくれるなんてとは
いくらかかるかもわからないのに・・・

奥さんは受付のご婦人とは、昔からの顔なじみなようで
「また、のりさん猫来たんですか?
どんだけ、集まるんですかー」

「ちゃんと地域猫活動に登録すれば、補助金も降りるんだから
そうすればいいのに」
と、横から若い方の受付の方が付け加えた。

「すみません。
飼い猫じゃないと、どんな病気があるか分からないので
車で待っててくださいね」

「あっ!順番が来たら呼びに行きますからね」
そう言われて、

「はい、わかりました」
と、何でもないように奥さんは車に戻ってきて
ご主人にその旨を伝えると
ふたりは車に乗り込んで
それぞれのスマホを開き
それぞれの世界で時間を楽しんでいた。

最近は人同士のコミニュケーションは
近くにいる人とだけ取れるものではないのだなあと
僕は少しだけ違和感を持った。
やっぱり、一番近くにいる人を
大切にするのが大事なんじゃないかと思うんだ。
恵子さんの人生のようにね。

1時間ほど待って、ようやく名前を呼ばれた。
先生はまだ若い女の先生だった
僕が前に見てもらっていたのはおじいさん先生だったので
ちょっと恥ずかしいような、嬉しいような気がした
「だいたいのことは聞きました。それで今日はどうしましょかね」

「まずは耳の治療をして、ワクチンを打っていただきたいのですが
それと、病気はないかも調べてほしいのですが」
と、奥さんが言うと、先生は
「この子の耳は、
おそらくノミ・ダニのせいで自分で傷つけたものですね。
それが治りきらず、化膿して
意外と深い部分まで回ってしまっているのかもしれませんね
だからこの傷が治るまでワクチンは打てません。
まず、化膿止めの抗生物質とノミダニ除去のワクチンだけ打ちましょう」
先生は、若いけれどてきぱきと診察されました。

「わかりました。きょうはそれでお願いします」
2本の注射はあっという間に終わった。
「先生、それでこの子は男の子でしょうかね。大きいので」
「そうですね。男の子です。
でももう去勢してて、放浪してから1年くらいは経ってるので
飼い主さんになにか、あったのか?
この子が勝手に出て行ったのかはわかりませんね」

「え!もう去勢もしてるんですか。じゃあやっぱり飼い猫だたんですね
最初から触らせてくれる子はなかなかいないので、
そうだと思ってました。それでこの子は何歳くらいでしょう?」
と、奥様が尋ねると、
「そうですね。歯の汚れからみて3歳から3歳半くらいでしょう」
やぱり優しい手で触れながら先生は言った。

「この子の名前、もみじにします」
「あら、のりさんもう飼う気満々じゃないですか」
先生はクスッと笑われた。
「いいえ。預かるだけですよ。先生」
「そうなんですですね」
「飼い主さんがおられるなら、その方にお返しするのが
わたしたちの役目です」

「了解です。まあどちらにしても2週間後に見せてくださいね」
そう言われ、ハイありがとうございましたと頭を下げ、
7700円払ってお二人は病院を後にしました。

                           続く

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