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前鋸筋が及ぼす「オーバーヘッドプレス」への影響

オーバーヘッドプレス(以下、OHP)は、バーベルで行う真上に押していくプレス動作です。OHPは「三角筋や僧帽筋」を鍛えるメニューとして知られていますが、前鋸筋も同時に鍛えることで「肩甲骨の可動性」を改善させつつ「肩甲骨の安定性」も向上させ、オーバーヘッド動作(投球動作や、日常での腕の挙上動作)が自然に行いやすくなります。

ダンベルを使ったショルダープレスでは、僧帽筋や前鋸筋への負荷を高めることが難しいため、OHPが推奨されることが多いです。

今回はOHPによる関節の運動と実際の筋活動について、前鋸筋の機能解剖学について解説していきます。


OHPによる関節運動と筋活動

OHPにおいて、スタートポジションでは「胸椎の伸展」「頭部後退」「肩甲骨下制+下方回旋」「肩関節内転+軽度外旋」のポジションとなります。抽象的にいうと「胸を張って顎を引く、脇を絞って肩を落とした」フォームとなります。

次にトップポジションでは「胸椎の伸展」「頭部軽度前突」「肩甲骨挙上+上方回旋」「肩関節外転+軽度内旋」のポジションで、抽象的にいうと「胸は張ったまま頭を腕より少し前に出す、肘は伸ばしきって肩甲骨を挙上した」フォームとなります。

OHPのスタートからトップにかけて「肩甲骨下制+下方回旋」→「挙上+上方回旋」が起こっており「ダンベルショルダープレス(以下、DSP)」でのトップポジションとはフォームが変わっています。DSPでは、肩甲骨の姿勢をできるだけ変えずに肩関節を外転させることで、三角筋に焦点を当てて鍛える事ができますが、OHPは「肩関節の外転」と同時に「肩甲骨の上方回旋」が働くことで『上方回旋』させる僧帽筋と前鋸筋の活動が高まります。

DSPでは、肩関節の運動が優勢となり肩甲骨の可動性が向上させるのは難しいです。上半身のプッシュ種目において肩甲骨が固定されているベンチプレスやDSPばかりしていると、自然と肩甲骨の可動性が低下して「肩甲上腕リズム」が崩れる原因となり、肩関節を痛める原因にも繋がります。

肩甲上腕リズム:「肩甲骨の上方・下方回旋」と「肩関節の外転・内転」が「120:60」のバランスで動くリズム。

前鋸筋の機能解剖学

前鋸筋は肋骨から肩甲骨の裏を通り、肩甲骨の内側にかけて付着している筋肉で、肩甲骨を支える筋肉となります。

「前鋸筋」
起始部:第1~9肋骨側面
停止部:肩甲骨内側縁
作用:肩甲骨外転、(上部)下方回旋、(下部)上方回旋

前鋸筋は、肩甲骨を外転させる唯一の筋肉で、腕立て伏せや「前方に押し出す運動」をする際には「肩甲骨が内転」しないように前鋸筋で耐え続ける作用が働きます。

小胸筋にも肩甲骨の外転作用がありますが、主な作用としては呼吸補助筋や肩甲骨の下方回旋になります。

肩甲骨の上方回旋

前鋸筋下部(肩甲骨下角から起始する部位)の作用の一つに肩甲骨の上方回旋があります。腕の挙上の際には「前鋸筋」と「僧帽筋」が同時収縮することで肩甲骨が上方回旋され、肩甲上腕リズムが保たれます。

僧帽筋の中部や下部は機能低下が起こりやすく、その代償で「僧帽筋上部」が過活動になり、肩こり症状(頚肩腕症候群)へ繋がります。そうなると前鋸筋の柔軟性が低下していき、肩甲骨が外転方向へ誘導されます。いわゆる「巻き肩」のような姿勢です。

この症状を改善するためにもOHPを含め、僧帽筋と前鋸筋を協働させながら肩甲骨を上方回旋へ誘導するエクササイズを推奨します。

OHPと前鋸筋の活動について

OHPでは、先程から肩甲骨の上方回旋が働くと解説しましたが、実際にどのように前鋸筋が活動していくのか見ていきます。
OHPの「トップポジション」では、肩甲骨の上方回旋とともに腕が挙上していきます。もし顎を引き続けながら肩甲骨を挙上させると、僧帽筋上部の活動が高くなります。「シュラッグ動作」に似た体の使い方になります。

スタートポジションからバーが頭を超えたら、そのまま頭を前に出していきながらバーを押していき、トップポジションに近づいてから肩甲骨を挙上させることで、僧帽筋上部以外の中部や下部、前鋸筋を活動させることができます。

真後ろから見ると「バーの重量」を肩や肩甲骨で受けますが、このときに前鋸筋の作用である「肩甲骨の外転」が働き続けることで、肩甲骨が内転方向に誘導されることなく耐え続けることが可能となります。そして前鋸筋による外転作用と僧帽筋との協働による肩甲骨の上方回旋が働くことで、健康的にOHPの動作が可能となります。

このような力の働き方になると、OHPの動作中には肩甲骨の内側や脇腹辺りの収縮感を感じる人もいてると思います。

ちなみに前鋸筋の筋走行と外腹斜筋の筋走行は似ています。前鋸筋の活動を高めるためには外腹斜筋を含めて体幹部の安定性が必要となります。OHPで腹圧がうまく働かない人は、前鋸筋も同時に働きにくい傾向になります。

まとめ

OHPにおいて前鋸筋は僧帽筋と協働しながら働くことで「肩甲骨の上方回旋」が可能となり、フォームの安定性や日常生活の質を高めることが可能となります。
OHPで肩や肩甲骨の姿勢がしっくりこない人や、動作途中で肩・首の痛みや違和感を感じる人はバーを押し出すときの頭の位置の調整を試してみてください。
以前に動画でも、OHPでの背中の使い方についても解説しているので参照してください。

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