山種美術館を訪ねて vol.4
10月のおわりに、東京広尾にある山種美術館を訪れました。
新宿から山手線で恵比寿駅まで向かい、そこからは歩いて10分ほど。年に数度訪れる恵比寿駅ですが、ホームで流れるあのヱビスビールの音楽を聴くのが、実はひそかな楽しみだったりします。
今回もホームへ降り立ち音楽を聴きながら、チャララ~ララララ~♪と心の中で一緒に歌っていたところ、隣のホームへ新たな列車が到着。そしてそちらでも同じ音楽が鳴り始めたのですが、
?!
調がちがう!
先に流れている音楽に、新たな音楽が被さってきて、さらに調までちがうとは・・・気分よく歌えていたのはほんの数秒でした。
都会は音が多いですね。
さて、気を取り直して山種美術館。今回の企画展はこちら。
北海道から沖縄まで、日本画家たちが実際に訪れ描いた場所を『聖地』として、画家たちが見つけたとっておきの場所を美術館にいながらにして味わい、日本全国を旅しようという企画です。
必然的に風景画が多くなるので、旅好き・風景画好きのわたしにとってはこれ以上ない企画。とても楽しみにしていました。
では、さっそく展示室へ行きましょう。
地下展示室へ入ってすぐ、まず最初に目に入る場所に飾られているウェルカム絵画(勝手に命名)が、なんと今回わたしが最も楽しみにしていた鳴門だったのです!
奥村 土牛(1889-1990)
ポストカードの写真ではなかなか迫力が伝わらないのですが、実際の絵はもう少し明るめの色で、大きさは想像していたよりも大きく、両腕を広げたくらいのサイズでした。
これが鳴門の渦潮かぁ
海だけれど、青ではなく緑で描かれた渦潮はゴォゴォと音をたて、飲み込まれそうな迫力です。解説には、土牛自身が制作当時を振り返った言葉も紹介されていました。
当然ながら、当時は写真をとってそれを参考に描く、なんてことはできません。スケッチをするとはいえ、対象物と対峙しているその瞬間いったいどれほどの集中力で五感を総動員していたのか、想像もできない世界。画家の執念を感じました。
いつか、本物を見てみたい。
最初の1枚でひとまず今回の目的は果たしたので、あとはご褒美の出会い。毎回楽しみにしている撮影OK作品、今回の絵画は・・・
これもまた、奥村土牛!
この絵、大好きなんです。というのも、4月に初めて山種美術館を訪れた際に一番印象に残ったのがこの作品で、奥村土牛という名もこのとき初めて知りました。私にとっては思い出深い絵、半年ぶりにまた会えて嬉しい。
北海道から南下して、そろそろ長野県が登場するかな?と思っていたところ、ありました、長野市ゆかりの作品が。善光寺にまつわる牛を題材にした『聖牛』という作品名で、作者は・・・奥村土牛。
今日はもう奥村土牛まつりということですね、なんだか楽しくなってきました!
ここで土牛の紹介文を読んでみると、「自身も丑年生まれで、号に”牛”を使い、生涯多数の牛を描いた」とありました。そうだったんですね、土牛さん。
聖牛の向かいには、広い壁一面をひとりじめしたひときわ大きな作品が。ここだけすっかり秋模様です。
ちょうど作品の正面に椅子があったので、腰かけてゆったりとした気持ちで作品と向き合いました。奥入瀬はいつか行ってみたいところ。ザーザーと勢いよく水が流れる音が聴こえてきそうな渓流と、美しく色づいた紅葉の世界に引き込まれ、しばらくのあいだ秋の奥入瀬のなかに身を置きました。
次の展示エリアは関西ですが、ここはさすがに作品が多い。なかでも京都がもっとも展示数がありましたが、わたしが気になるのはやっぱり奈良。どこが描かれているのだろう?とワクワク。
室生の弥勒摩崖仏、実物もこの絵も、どちらもとても素敵。初めて見たときはその大きさに圧倒された摩崖仏、また会いに行きたいなぁ。
そして奈良の作品のなかで一番心をぐっと掴まれたのは『吉野』です。見た瞬間、わぁ~!と心のなかで感嘆しました。気になる作者は・・・はい、奥村土牛さん。
土牛は吉野山を二度訪ね、歴史的な厳しさや寂しさを感じるうちに、まるで歴史画を描いているような気持になり、目頭を熱くしながら制作に取り組んだそうです。
桜で有名な吉野山、わたしも一度だけ訪れたことがあります。
天武天皇、後醍醐天皇、源義経、知らないだけで吉野が舞台となったできごとが他にもあるかもしれません。
吉野の桜は山桜。一目千本と言われるほど多くの桜の木が春に咲き乱れるようすは華やかですが、それは古来、吉野山へ参詣した人々が植えていったもの。観賞用ではなく祈りの桜です。
勝者の思い、敗者の思い、そして参詣者の祈りを包み込む吉野山。この作品を見て、あらためて歴史を学んでからまた訪れたいと思いました。
今回の企画展『聖地巡礼』、とても楽しめました。
そして、どうやら私は奥村土牛が好きなんだということも判明しました。笑
気になる次回企画展は、こちら。
奥村土牛まつり、まだまだつづきそうです。
さいごは、いつもの一服。
山種美術館さん、いつもすてきな時間をありがとうございます。
また土牛さんに会いに来ます。
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