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烈空の人魚姫 第2章 嵐の日のポラリス号⑦Nightmare

『ふっふっふ・・・・乗り気になってくれて私も嬉しいよ』

藍澤あいざわ博士が笑うと横にいた結城ゆうき博士はため息をついた。

『いや、テスト出来るのが嬉しいの間違いだろ・・・』

カケルはヘッドホンを付け終えると、ヘッドホンから藍澤博士の声が聞こえてきた。

『聞こえるかい?カケル君。今からフレイム1号と君の精神を同期シンクロするため、まずは君の精神をスキャニングする作業を行うよ。』

藍澤博士の声が聞こえた後、キーンという聴覚検査で聞こえてくるような微弱な音が鳴り響いた。

『スキャニングは完了。ここまでは私でも問題なかったんだけどね。ここから同期シンクロに入るから夢の中にいるような気分になると思うけど、ここにいるフレイム1号を通した映像が見えたら同期シンクロ成功だよ。実際深海に行ったら君は地上では寝ていることになるから、パソコン前にいてフレイム1号がどこまで潜ってるのか潜航の行方を確認する人が必要だよ。浮上する時も地上から信号を送る必要があるから。私も他の研究があるから付き合えないし、この場合はこのお友達がナビゲートしてくれることになるのかな。じゃ、同期シンクロするよ』

このお友達というのは満堂君のことだろう。満堂君が何と返事したのかは聞こえてこなかったけど、カケルは間も無く猛烈な睡魔が襲うのを全身で感じた。
テスト勉強に疲れて敢えなく机に突っ伏した時の感覚だ。
ぐにゃりと視界が歪む。
海の中で揺蕩たゆたうように全身が弛緩し、カケルはゆっくり目を閉じた。



ーーーーーカケルはただ一人深い海の中に落ちていく感覚がした。
無数の色とりどりの魚が海中で螺旋を描くように泳いでいる。
ダイオウイカ先生もその渦の中にいやしないだろうか。
その螺旋の中央を通るようにどんどん体が下降していく。
深い青の世界。見上げると地上から漏れる光が徐々に減光していくのが分かる。
魚たちの群れはやがて、海底目掛けて吸い込まれていく。

(海底の、ブラックホール?)

海底に空いた真っ黒な穴。こんなものが海底にあったなんて。
カケルはきっとこれが海底ワープゾーンに違いないと思った。
真っ暗な世界に吸い込まれていく。きっとより深い深海底に繋がってるんだ。
どこに通じているんだろう・・・

しかしカケルはふと疑問に思った。

(フレイム1号と同期シンクロしているはずなら、今フレイム1号はこの半球体のシンクロデバイス内にいるのだから、映し出される光景は博士と満堂君のはずなのに、どうして今海の中にいるんだろう)


カケルは不思議に思ったものの、同期シンクロ失敗で普通に寝てしまってただ夢の中にいるだけなのかも知れないと思った。
その証拠にバブルが見える。
闇の中にたった一人バブルが・・・

バブルを猛烈に手に入れたいと思っている自分がいる。いや、この感情は本当に自分なのか?
カケルは今見ている光景が本当に自分の夢の中の光景なのか信じられなかった。
というのも、バブルはただそこに佇んでいるわけではなかった。
黒いフードを被った魔導師・・・みたいな人達が大勢倒れている。
深海底の街は破壊されてーーー倒壊した建物や倒れた人々、死に絶えた深海魚、逃げていく白いカニの群れーーーー見渡す限り殺伐とした光景が広がっている。
悪夢のようなーーーこの状況を作り出した本人、バブルは荒廃した世界をただ一人見つめている。
このバブルならこの世界をどんな風にでも作り替えることができるだろう。
戦慄とともにバブルを見て僕は美しいと思った。
バブルと2人だけの世界を作る。
・・・これは僕の隠された欲望?


いや、待て。これは僕の感情じゃない!絶対。

そもそもバブルはこんなことしないだろう。
でも何なんだ、この情景は・・・


ーその時突然どこからか電子音が聞こえてきた。

『カケル、ボクトイッショダカラダイジョウブ。バブルヲイッショニスクウ』


これは、あの時の・・・小学校の頃ダイオウイカ先生に海に引き摺り込まれた時に助けてくれたあのフレイム1号の声。
あれ以来アラーム音を設定する時以外は何も応答することはなかったフレイム1号・・・聞き間違いだと思っていたけど・・・

「本当に君なのか?フレイム1号。バブルを救うってどういうことなの?」

カケルは思わず叫んでいた。
すると意識が急激に海の中を上昇するように舞い上がっていくように感じた。
いや、まだ上がっちゃダメだ。何があったのか確かめないと。
上昇する意識とともに無数に湧き上がる泡。そして同時にきらめく無数の光の粒子・・・これは・・・


『クウカンジョウニタダヨウキオクのカケラヲカンチシ、シンクロガオクレマシターーータダイマ、シンクロカンリョウ』

空間上の記憶のカケラって何だ?
カケルがふと思ったのも束の間、フレイム1号のその声とともに、カケルの視界が開けて光が目の前に広がった。



『カケルくーん、大丈夫だった?』

満堂君が見える。藍澤博士も。そうか、同期シンクロが成功したんだ。
カケルはひとまず安堵した。

(さっき見た光景はやっぱり悪夢だったんだ・・・)

胸を撫で下ろすと改めて今の自分の状態を認識した。
シンクロデバイスの半球体の中にカケルは精神体だけ浮いているような格好になっている。
幽体離脱みたいな状態なのだろうか。寝ている自分の姿も見えていて、カケルは不思議な気分になった。
どうやら藍澤博士や満堂君にはこちらの姿は見えていないようだった。カケルからの応答を待っているようにシンクロデバイス内を見回している。


カケルはカケルはふと目の前のシンクロデバイスに入ったフレイム1号を見やると、フレイム1号の双眸に取り付けられた照明の周りに、さっきの夢の中で小さな粒子が眩い光を放ってきらめいていることに気づいた。

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