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烈空の人魚姫 第2章 嵐の日のポラリス号 ④侵入者、発見

『うあああ、もうダメ。船酔いきっつい・・・俺本当にもう無理です』

『何言ってんだ、藍澤。さっきもデッキで変なことしてたし・・・。まだ調査航海は始まったばかりなんだからへばってる場合じゃないぞ』 

『もう船の上が気持ち悪くて、海中の方がましだって思って。タイタニック序盤のローズみたいな気持ちでしたよ』

『ポラリス号にはいないぞ、ジャックは・・・』

明かりが付けられた室内は研究者たちが入室し一気に賑やかになる。
カケルは部屋のデスクの下に潜り込み、フレイム1号を抱えながら息を殺していた。
心拍数は今や張り裂けそうなレベルに達している。
幸い研究者たちはカケルたち侵入者には気づいていないがデスク下を覗き込めばすぐバレてしまう状況だ。
隣のデスク下から小さな音がするのはどうやら満堂君もデスク下に隠れたからのようであった。
カケルの計画としては、トイレから出て偶然を装って藍澤博士と話せたらと思っていたのだ。
しかし慌てて部屋に入ってしまったせいでおかしな展開になってしまった。
これじゃあどこからどう見ても潜り込んだネズミに見えるだろう。


部屋に滑車の音ががらがらと響いた。重量のある荷物が運び込まれたようだ。

『しかし、藍澤。この【シンクロデバイス】・・・今回は大型の無人探査機で海底の様子をスキャニングするわけだし、【シンクロシステム】運用テストはないはずなんだが、なんで持ってきたんだ?』

一人の研究者が今しがた運ばれた来たらしいとある装置の前まで来て言った。
どうも【シンクロデバイス】と言うのはこ今の部屋に置かれた装置の名前らしい。

『いえ、結城さん。時間があればこの泡津海洋センターにある小型の無人探査機で【シンクロシステム】を試すつもりです。無人機とシンクロさせるテストマインドはまず私で・・・』

静かで熱のこもった怜悧な声が部屋に響く。先ほどの船酔いで弱った声とは打って変わった声で藍澤博士は言った。
どくん、カケルはシンクロシステムという初めて聞く名称に胸が高鳴るのを感じた。

『時間があればいいけどな。今回の焦点になってる【海底ワープゾーン】・・・アメリカのメイン湾で巨大な深海ザメが海底に吸い込まれていくのをアメリカの無人探査機が捉えて以来、世界各国で【海底ワープゾーン】の研究に乗り出し始めたわけだが・・・メイン湾からかけ離れた距離にあるこの泡津湾にそのワープゾーンが潜んでいるというのは信じがたいがなあ』

結城博士はあったら面白いけど、と付け加える。
【海底ワープゾーン】は世界中の海底にあるらしい。それならダイオウイカ先生がそのワープゾーンを潜ってこの泡津湾にやってきた説はやはり濃厚ではないか。
博士たちが訝しがるのをよそにカケルは一人納得していた。
足音が近づいてちょうどカケルの潜むデスクの前で止まる。
カケルはひやりと全身に緊張感が走る。
藍澤博士は言った。

『もしかしたら泡津湾の海底の一部が深く沈み込んでいる箇所があるのかもしれないですね。我々の開発したレーザースキャナーで海底を可視化すれば何かわかるかもしれません・・・』

その時だった。

『カケル!!7時ニナッタ!!!オキテ!オキテ!!』


・・・最悪だ。フレイム1号の朝7時を知らせるアラームが耳をつんざくような大音量で鳴り始めた。朝7時に設定したはずが間違えて夜の19時に設定してしまっていたようだ。

なんだこの音・・・と明らかに周囲がざわつき始める。
カケルは鳴り止まないフレイム1号を抱えながら頭が真っ白になった。
冷や汗が噴き出し手は震え始めた。抱えているフレイム1号は手の汗で滑り落ちそうになる。
ふと影がデスク下を覗き込み、カケルと目が合った。

『あ、侵入者はっけーん。』

藍澤博士がにやりと笑った。

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