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烈空の人魚姫 第3章 海底ワープゾーン ⑤海の世界へ

ゆっくり、ゆっくりと目を開く。

きらめく光の粒と淡いエメラルドブルーの世界。

色とりどりの魚たちは群れを作って渦巻いてーーーー

カケルは「ふぅ」と息を吸い込んだ。

今、僕は海の中にいる。


息が苦しくないのは、目の前に潜航する水中ロボット、フレイム1号とカケルの精神が同期シンクロしているからだ。
それはフレイムシステムは正常に作動していることを意味している。初めての同期シンクロテストは成功したのだ。

魚の群れがある一定の方向に向かって降下していくのが見える。
その先にある海底には琥珀色をした海藻がまるで森のように生い茂り、海中にまで伸びてあたり一面に広がりを見せている。
その海藻の森の中に吸い込まれるように魚たちは進んでいく。


『スイシン50m』

フレイム1号がふいにアナウンスする。

「この大量の海藻は何なんだろう・・・」

『これはアカモクですね。泡津湾で養殖されている海藻です。でもこんな水深の深い海底に・・・しかもこんなに広範囲に自生してるなんて・・・!』

カケルが呟くと、日高さんの感嘆の声がフレイム1号の方向から聞こえてきた。
陸からもフレイム1号を通して通信できるようになっているようだ。
夢の中にいるような気分だったものの、日高さんの声でようやく同期シンクロしているんだと実感が沸く。おそらく地上の自分は幽体離脱をしたみたいに寝ている状態になっているのだろう。


カケルはあたりを見渡す。

いた。

魚の群れに混じって巨大なイカが降下して海底のアカモクの森に入って行こうとしている。
ダイオウイカ先生だ。

何とかして止めなくては。
でも、どうやって?


(・・・考えている時間はない・・・!)

「フレイム1号、速度を上げるぞ」

カケルがそう言ったと同時にフレイム1号は急加速する。
フレイム1号と今同期シンクロしていることをカケルは実感した。
精神体のみの今の状態なら、溺れることはないし、傷つけられることもない。ある意味無敵かもしれない・・・
カケルは勇気が湧いてくるのを感じた。


ちょうど上田の胴体を腕で巻き付けたダイオウイカ先生は悠々とアカモクの森の中深く進もうとしていた。

「ダイオウイカ先生、そこまでだ!」

カケルは叫ぶ。
地上でならこんなことを言ったり出来ないだろう。


『お前はあの時の少年・・・?そのロボット・・・大学に連れて帰ろうとしたら途中で見失ってバブルが保護したやつなのだ・・・何とも懐かしい再会ではないか!!バブルが研究室を去ってからとっても大変な状態なのだ。お前たちも我が研究室に連れて帰るのである!!!』

「バブルだって??バブルを知っているのか?!」

カケルがそう言うと同時にダイオウイカ先生の長い腕がフレイム1号に迫る。

情報を聞き出したいけど、今はだめだーーー

「ダイオウイカ先生、悪いけどまた会おう!フレイム1号、フラッシュだ!」

フレイム1号の左右のライトが最大限の電光を放つ。

『ま、眩しいのである!!!』

ダイオウイカ先生は思わず、握り締めていた上田を手放す。

「今だ!!!浮上!」

カケルの号令に答えるようにフレイム1号は上田を下から押し上げ急浮上する。
その時だった。

『カケル、コノサキ、キョウリョクナジュウリョクハアリ。モクテキチニムカエル。』

フレイム1号がまた言葉を発した。
小学校の時と、泡津海洋センターの動作実験の時に続いて3回目だ。

目的地って、バブルのいるリベルクロスのことだろうか。

同期シンクロしてるから僕の行きたい場所がわかるんだね」

カケルは言った。


『カケル君、もうすぐ海面だよ!頑張って!』

満堂まんどう君の声がフレイム1号を通して聞こえてくる。
淡い青の世界から脱出するように、太陽光のきらめきが強くなる。
海面が近い。

『うううう・・・・とんでもない目にあったのである!!疲れたから言ったんアトランティス大学に帰るのである』

ダイオウイカ先生は呻きながら、浮上していくカケルたちとは反対にアカモクの森の中を降下していく。
アカモクの森の奥にある海底には強力な重力波がある。
カケルはダイオウイカ先生の降りて行ったルートを目に焼き付けた。


フレイム1号と上田が海から海面に出たと同時にカケルは自動的に目が覚めた。
どうやら地上に戻ると、そのままフレイム1号とカケルの精神の同期シンクロも解除されるようだった。
防波堤にもたれて寝ている格好になっていたことに気づく。
式阿弥しきあみさんたちの歓声が聞こえる。

『うわわん、上田君!!!!』

救助隊とともに式阿弥さんは上田に駆け寄った。

『カケル君、グッジョブだよ』

潜航の様子をモニターから見ていた満堂君がカケルに向かってにっこり微笑んだ。

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