烈空の人魚姫 第2章 嵐の日のポラリス号 ⑤瞳の奥の炎
水中ロボット研究者、藍澤聡介は体を屈めてデスクの下を覗き込むと、怯え切った少年が身を縮めて丸まっているのを発見した。
『君は・・・、高校生?』
『あ・・・カケルって言います・・・藍澤博士・・・・ぼ、僕・・・博士に相談したいことがあって・・・深海に・・・見つけに行きたいものがあるんです・・・』
ふぅん・・・藍澤博士はそう呟くと目を見開いた。
自分にわざわざ会いに来る高校生がいるとは。
相談とは、何なんだろう。
藍澤博士が完全にしゃがみ込んで高校生の顔を見ると、カケルと名乗る男子高校生もまた真っ直ぐな瞳で見返した。
怯え切った全身状態とは裏腹に瞳の奥には闇から浮かび上がるような炎が見え隠れしているのに気づいた。デスク下の薄暗い視界の中でも藍澤博士にははっきり見えた。
多くの人にははっきりと見えないだけで、結果が伴わないだけで、暗闇の中で足掻くような光のような炎のような、そんなエネルギー反応ーー
『その抱えてるのって、水中ロボットかい?』
「はい、僕、博士のロボット講座をいつも見てます・・・このフレイム1号も、ロボットキットで作ったんです・・・」
カケルはフレイム1号と名付けられた水中ロボットを震える手で抱えながら言った。
なるほどね・・・藍澤博士は手を口元に運び考える仕草をした。
藍澤博士は今回の泡津湾調査であるプラットホームを試したいと考えていた。
【シンクロシステム】
無人探査機に操縦者の精神を同期することで、深海にロボットとともに操縦者の精神もリアルタイムで深海にダイブ出来るようになる。
同期するための【シンクロデバイス】のテストベッドである【シンクロシステム】で利用するテストマインドはもちろん開発者である自身だ。
しかし、何度かやってみた実験での探査機と自分の精神の同期はあまりうまく行ったとは言えない。すぐに弾き返されて同期失敗になる。
根本的に船酔いもするし、海との親和性はあまり高くないのかもしれない。
テストマインドのことは課題だった。
そこへ来て、この少年。
もしかしたらこの嵐はチャンスの前触れだったのかもしれない・・・
このカケル少年は深海に行って見つけたいものがあると、燃えるような意志がある。
この彼なら無人機のテストマインドになれるかもしれない。
藍澤博士は溢れそうになる笑みを堪えた。
『うわ、こっちにも高校生がいる!』
他のデスク下からも高校生が出てきた。この子の友達かな・・・
もう一人の高校生はすぐにデスクの下からのっそり出てきてぽりぽりと頭を掻いた。
『君たち何しにきたの?』
不思議そうに結城さんが聞く。カケル少年は何も言えなくなってデスク下で固まったままだ。
『あー、なんかすみません。トイレ借りたら人がいっぱいやってきたんでびっくりしてつい隠れちゃいました。お騒がせしました。』
もう一人の少年はちらっと黙り込んだカケルの方を見ながら助け船を出すかのように答えた。
藍澤博士はカケルを見た。瞳が潤んでいる。
『まあ、いいか。出ておいでよ。折角だし君たちにも見せてあげよう、【シンクロシステム】をね・・・』
藍澤博士はそう言うとカケルの持っているフレイム1号に手を伸ばした。
『フレイム1号君、ちょっと借りるよ。』
おろおろしてまだデスク下で動けないカケルをよそに藍澤博士は涼しげな顔をしてフレイム1号を抱えると、立ち上がって【シンクロデバイス】の方に駆け寄っていった。
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あらすじと登場人物
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