如月桃子

美術館の学芸員。Artがあなたの心のよりどころになってくれたら。いつも誰かにそっと手紙…

如月桃子

美術館の学芸員。Artがあなたの心のよりどころになってくれたら。いつも誰かにそっと手紙を書くような、そんなnoteでありたいな。

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  • 晴れの日も雨の日も

    そのとき感じたことを感じたままに綴るエッセイ集。晴れの日のように澄みきった気分のときも、雨の日のように翳りに覆われるときも、その気持ちを、透明な言葉で伝えたい。

記事一覧

固定された記事

水色の朝

朝起きたときから、目のまえの景色がうっすらと青みがかっていた。 頭にはもやがかかったようで思考がまとまらず、身体も重い。 なんとか身体を起こし、朝ごはんを食べた…

如月桃子
2年前
184

「つづかない」私がつづけている朝の習慣

継続は力なり、という言葉がちょっぴり苦手だ。 なにかを毎日コツコツとつづけられる人たちには、あわい憧れを抱いているものの、自分ではつづけられたためしがなく、いつ…

如月桃子
6日前
83

5月の日常

晴れた日の図書館 晴れていたある休日、私と夫は近所の図書館へ行く。 こんな天気のいい日は遠くへ出かける人が多いのか、いつもよりも図書館は空いていた。いつもは貸出…

如月桃子
13日前
64

最高だったよ。—おやきと文学—

微熱ブックカフェに行ってきました。 微熱ブックカフェでの時間は、まだ自分のなかにしまっておきたいような気もします。 でも、やっぱり、最高だったよ、と伝えたくなり…

如月桃子
1か月前
75

青葉きらめく街へ帰る

ゴールデンウィーク前半、夫とともに帰仙した。 仙台に帰ることを、帰仙と言う。 正確に言うと、私の実家は仙台市ではなく、宮城県内の田舎の町なのだが、通っていた大学…

如月桃子
1か月前
134

花桃の風に吹かれて

桃の花を見にでかけた。 その名も、「花桃の丘」へ。 見上げると、青空を背景に桃の花が咲き誇る。 桃の花は、桜よりも少し濃い色。 そうか、これが桃色なのか。 桃の…

如月桃子
1か月前
101

いつのまにかもう3月の日記

いつのまにか3月になっていました。 3月から私の担当する展覧会がはじまりました。 展覧会がはじまる前も、あちこち走り回る日々でしたが、展覧会がはじまってからも、息…

如月桃子
2か月前
56

父の就活

最近父が就活をしていると、母からの連絡で知った。 「いい職場が見つかるといいね」と返信をしながら、娘としては、内心複雑な気持ちを抱いている。 父は3年前に、長年…

如月桃子
3か月前
130

如月の日記

2月1日 30歳になった。 夫が出張で遅くに帰ってくるため、家に帰るとひとりきり。 私は結婚して初めて実家を出るまで、いつも家族に誕生日を祝ってもらっていた。 こん…

如月桃子
3か月前
73

日々、いとおしさが積もっていく

夫と付き合いはじめて間もない頃、私は夫にこう言った。 「私、すごく飽きっぽいです。熱しやすくもないので、つねに冷めています。」 私の性格をわかってもらおうとした…

如月桃子
4か月前
75

1月のきまぐれ日記

毎日のようにコツコツ日記を書くのも楽しかったけれど、今月は書きたい日だけ書くきまぐれスタイルでお送りします。 ・ぺこりんが実家から帰ってきた夜の話おだんごさんか…

如月桃子
4か月前
58

大叔母の品格

実家に帰省していた夜、「明日、初江おばさん(仮名)の家に一緒に行かないか」と父から誘われた。 初江おばさんは、父にとっての叔母。私にとっては大叔母に当たる。 私が…

如月桃子
4か月前
51

美術館の学芸員を目指す人へ

今年度学芸員になったばかりのひよっこ学芸員が語るには、題が重すぎるという気もするのですが。 ここ最近、年度末にさしかかって学芸員の募集の案内をたびたび目にするな…

如月桃子
4か月前
123

今年やりたい25のこと

昨年から、年初めに、ぺこりんとその1年のやりたいことビンゴをつくっています。 うえはらけいたさんのアイデアをお借りして。 しかし、昨年は、ハードルを高くしすぎた…

如月桃子
5か月前
86

年末年始の日記

どんな言葉から書きはじめようか、少し迷いながらパソコンに向かっています。 実家で過ごした数日間は、穏やかで、あたたかくて、しあわせなひとときでした。そんな数日間…

如月桃子
5か月前
87

12月前半の日記

今日も日記を綴ります。 今回も長いので、つまみ食い推奨です。 つまみ食いのおともには、この曲を。 12月のある日 お昼やすみに、久しぶりに後ろの席の人と美術館のま…

如月桃子
5か月前
87
固定された記事

水色の朝

朝起きたときから、目のまえの景色がうっすらと青みがかっていた。 頭にはもやがかかったようで思考がまとまらず、身体も重い。 なんとか身体を起こし、朝ごはんを食べたものの、またすぐにソファーに横たわる。 朝のテレビは、ニュース、ドラマ、生活情報番組へと移り変わってゆく。 テレビを消したい、と思いながらも、リモコンを探すことすら面倒で、ソファーに寝ころんだまま、顔をテレビから背ける。 ソファーの背もたれと向き合いながら、目を閉じ、足元に転がるブランケットを引きずり上げて頭まで

「つづかない」私がつづけている朝の習慣

継続は力なり、という言葉がちょっぴり苦手だ。 なにかを毎日コツコツとつづけられる人たちには、あわい憧れを抱いているものの、自分ではつづけられたためしがなく、いつも自分の力不足を実感させられるから。 なかでも、特に苦手なのが、いわゆる「朝活」。 朝を気持ちよく過ごせたら、きっとその日はいい時間を過ごせるのだろう。 頭ではわかっている。 でも、目覚ましを止めてからの数分間、お布団のなかで背徳感を抱きながらまどろむ心地よさに抗えず、朝活をしようと幾度となく試みては断念してき

5月の日常

晴れた日の図書館 晴れていたある休日、私と夫は近所の図書館へ行く。 こんな天気のいい日は遠くへ出かける人が多いのか、いつもよりも図書館は空いていた。いつもは貸出中の雑誌『天然生活』も、その日は1冊本棚に残っていた。 屋内とはいえ、晴れた外の空気が図書館の中にも満ちていて、本の森のなかを歩くのは気持ちのよいものだ。 雨の日の湿っぽい空気と雨の音が図書館には似合うような気がしていたけれど、晴れの日の図書館もいい。 図書館からの帰り道、少し遠回りをして、ネモフィラが咲く丘に

最高だったよ。—おやきと文学—

微熱ブックカフェに行ってきました。 微熱ブックカフェでの時間は、まだ自分のなかにしまっておきたいような気もします。 でも、やっぱり、最高だったよ、と伝えたくなりました。 行きたくても行けなかった方、羨ましがらせてしまったら、ごめんなさい。 先に謝っておきます。 東京のとあるビルに向かって私は走っていた。 ワークショップのはじまる時間ギリギリになっていたから、かなり焦りながら。 部屋の前で、ここで合っているかな、と扉の前でスマホを取り出して確認しようとすると、扉が開い

青葉きらめく街へ帰る

ゴールデンウィーク前半、夫とともに帰仙した。 仙台に帰ることを、帰仙と言う。 正確に言うと、私の実家は仙台市ではなく、宮城県内の田舎の町なのだが、通っていた大学や以前の職場が仙台にあるし、宮城というよりも仙台といったほうが県外の人には伝わりやすいようなので、仙台出身ということにしている。 それはともかく、私の住む街へ帰るときにも仙台を経由する。 仙台に到着してすぐ、私と夫は、メーナという小さなレストランへと向かった。 駅から少し離れていて、奥まった場所にあるこのレスト

花桃の風に吹かれて

桃の花を見にでかけた。 その名も、「花桃の丘」へ。 見上げると、青空を背景に桃の花が咲き誇る。 桃の花は、桜よりも少し濃い色。 そうか、これが桃色なのか。 桃の花言葉は、「あなたのとりこ」「チャーミング」「気立てのよさ」。それから、「天下無敵」。 そんな花言葉を私が知っているのは、自分の名前には「桃」の漢字が当てられているから。 でも、桃の花をじっくりと眺めるのは初めてのことだ。 「あれは桃の花だよ」と両親に教えられても、ふーんと聞き流して梅や桜との違いもわか

いつのまにかもう3月の日記

いつのまにか3月になっていました。 3月から私の担当する展覧会がはじまりました。 展覧会がはじまる前も、あちこち走り回る日々でしたが、展覧会がはじまってからも、息をつく暇もなく、関連イベントの準備や取材の対応に追われていました。 先週の土曜日に作品解説会を終え、ようやくふうと一息つけました。 はじめて展覧会を担当して、改めて感じたのは、展覧会は自分一人でつくるものではないということ。 上司や、同僚、美術館ボランティアさん、印刷や会場作成の業者の方々、広報してくれるメ

父の就活

最近父が就活をしていると、母からの連絡で知った。 「いい職場が見つかるといいね」と返信をしながら、娘としては、内心複雑な気持ちを抱いている。 父は3年前に、長年勤めていた会社を定年退職した。定年まで勤め上げたとはいっても、父はその仕事が好きなわけではなかった。父がそこで働いていたのは生活のため。私たち家族のためだった。 コンクリート工場の作業員をしていた父は、汚い・きつい・危険の3Kが揃った仕事だといつも言っていた。 給料も高くはなかった。 退職金も僅かにしか出なかっ

如月の日記

2月1日 30歳になった。 夫が出張で遅くに帰ってくるため、家に帰るとひとりきり。 私は結婚して初めて実家を出るまで、いつも家族に誕生日を祝ってもらっていた。 こんなにも静かな誕生日を迎えるのははじめてかもしれないなと思いながら、前の日の夜につくっておいたカレーを温めてひとり夕食をとる。 夕食を終えて、母に電話した。 朝に、母から「誕生日おめでとう」とLINEが来ていた。 ありがとう、とすぐに返事をしたあとで、「私を産んでくれて」と続けた。 いつもなら言わないけれど

日々、いとおしさが積もっていく

夫と付き合いはじめて間もない頃、私は夫にこう言った。 「私、すごく飽きっぽいです。熱しやすくもないので、つねに冷めています。」 私の性格をわかってもらおうとした言葉だが、今思い返すと、なんとも可愛げのない台詞だ。 そのときは、そっか、と相づちを打っていた夫だが、このときの台詞をのちのち夫は何度も引用することになる。 「ももは飽きっぽいはずなのに。全然ぼくに飽きないね?」とか。 「あれれ?つねに冷めているのは誰だっけ」などと、にやにやしながら言ってくるのだ。 あの頃

1月のきまぐれ日記

毎日のようにコツコツ日記を書くのも楽しかったけれど、今月は書きたい日だけ書くきまぐれスタイルでお送りします。 ・ぺこりんが実家から帰ってきた夜の話おだんごさんからの年賀状がテーブルにおいてあった。微熱さんイラストのかわいい年賀状にはおだんごさんの美麗な字でコメントが添えてある。 そこに「ももちゃん、愛してるよー」という一文を見つけてしまったぺこりん。 「ももが、ぼくの知らない人に愛されてる…!」と少し困った顔をしている。 これは、もしかして、もしかすると…やきもちかも

大叔母の品格

実家に帰省していた夜、「明日、初江おばさん(仮名)の家に一緒に行かないか」と父から誘われた。 初江おばさんは、父にとっての叔母。私にとっては大叔母に当たる。 私がいいよ、と答えると、父は少しほっとしたように見えた。 我が家は、親戚との付き合いが希薄だ。 特に父方の親戚とは、ほとんど連絡を取り合っていない。 もともとお盆や法事の際に顔を合わせるくらいだったが、私の祖父母が亡くなってから、さらに顔を合わせることが減った。 伯父が永代供養をして、墓をなくしてから、墓参りに行

美術館の学芸員を目指す人へ

今年度学芸員になったばかりのひよっこ学芸員が語るには、題が重すぎるという気もするのですが。 ここ最近、年度末にさしかかって学芸員の募集の案内をたびたび目にするなか、少しでも学芸員を目指す人の役に立てるならと思い、筆を執ることにしました。 ベテラン学芸員さんだからこそ書けることもあれば、最近受験したばかりの私だからこそ書けることもあるかもしれない、と思って。 学芸員試験を間近に控えている方向けの話もしつつ、将来美術館で働いてみたいなとぼんやり思っている方たちに向けてのお話

今年やりたい25のこと

昨年から、年初めに、ぺこりんとその1年のやりたいことビンゴをつくっています。 うえはらけいたさんのアイデアをお借りして。 しかし、昨年は、ハードルを高くしすぎたせいで、なかなか達成できず。 冷蔵庫に貼って毎日見ていたんだけどなぁ。 今年はハードルを高くしすぎず、かといってあまり低いものだけでもつまらないので、少し難しいものも混ぜながら、ビンゴをつくってみました。 それがこちらの25個。 ・部屋に飾る絵を描く フレームは用意しているんだけどね… ・農家レストランに行

年末年始の日記

どんな言葉から書きはじめようか、少し迷いながらパソコンに向かっています。 実家で過ごした数日間は、穏やかで、あたたかくて、しあわせなひとときでした。そんな数日間の思い出を書き残しておきたい気持ち。 実家から遠く離れた場所で起きたことでも、他人事とは思えなくて、かといって何を語ればいいのかわからない気持ち。 そんな二つの気持ちのあいだを揺れています。 両方のきもちを一つの記事にするのは、少し乱暴かもしれないとも思うのですが、今感じていることをそのまま言葉にしてみようと思

12月前半の日記

今日も日記を綴ります。 今回も長いので、つまみ食い推奨です。 つまみ食いのおともには、この曲を。 12月のある日 お昼やすみに、久しぶりに後ろの席の人と美術館のまわりを散歩する。朝晩は寒いけど、昼間はポカポカしている。 夕方、次の日の美術館のパフォーマンスのリハーサルをしていて、美術館に不思議な音が響いていた。 夜ごはんはイワシパスタをつくる。 オリーブオイルをフライパンにたらして、ニンニクを炒めてから、玉ねぎとイワシの水煮缶を炒めて、さっとお醤油をかける。梅干し