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「スーパー・ロボット・マン」制作ノート(その1)

 新年早々、Forbesでこんな記事が掲載されていました。

 気になったのが、記事の締めにある「手書きとくらべて手抜きに感じる」の言葉。未だ3割の人たちがそんな違和感を持っているのだから、3DCGを使った私のイラストが受けないのも頷ける。確かに手で描くよりは楽かもしれないが、前回の記事でご紹介した「正12面体」のモデリングは図学のテクニックと幾何学の基礎知識、アイデアと知識と研鑽とを兼ね備えたものなのです。決して「手抜き」と称されるものではない。

 正多面体のモデリングは、手っ取り早くは手計算で二面角を算出し、得られた値からモデリングするという手法もありますが、私と同様に図学を用いてモデリングしている方の中には3D-CADの中だけで二面角を作図している方もいて、多種多様です。モノの考え方の中に個性が反映されていて面白い。出来上がるのはみな同じモノなんですけどね。

 マンガ「スーパー・ロボット・マン」ではメインキャラのロボットの他に宇宙船、ロケットブースターなどの3Dモデルが必要になりました。2つとも大まかなデザインをスケッチして、モデリングしながらその時のフィーリングで継ぎ足し継ぎ足しで仕上げています。

 私がモデリングに使っているのは、構造解析ソフトAbaqusについている3Dエディタです。仕事でPTC社の「Creo」という3D-CADを使っているので、Abaqusにも使われている「パラメトリックモデリング」という入力方式に慣れてしまい、「ダイレクトモデリング」を採用している他の3D-CADに食指が伸びないのです。

サンプルとして、「賽は投げられた」のダイスの入力画面を

 「パラメトリックモデリング」とは、大まかな形状を一旦入力した後に寸法値(パラメータ)を修正して形状を整えるという操作方法で、都度入力の履歴を記憶するので手直しが容易な特長があります。対して「ダイレクトモデリング」は、都度入力した状態のみを留めるので、後からの修正が面倒ではありますが、粘土の塑像のようなイメージ感覚で操作ができるので作業が容易で、且つデザインを掴みやすい特長となります。

3の目は中心から対称拘束を使って3つ並べ、ピッチと半径を後から入力しています。

 私の場合、先ず大まかな構造を2D-CADで検討してから3Dモデリングに着手、という順序で作業を進めているので、「パラメトリック」のほうが性に合っていた、という次第です。
 「ダイレクトモデリング」を採用した3D-CADでは、Creo Direct ModelingやFusion360など、無料で使えるソフトが豊富です。

 3DCGの場合、形状入力が終わったところでレンダリング出力用のファイルを生成します。ファイル形式は画像出力するソフト次第ですが、大概は「.obj」ファイルが対応しています。最近では3Dプリンタ出力用の「.stl」ファイルを扱えるものも増えています。
 ファイルが出来たところで、レンダリングソフトを使って画像として出力します。このレンダリングソフト、無料で使えるものが少なくて悩ましいところですが、私はWindows10から標準で実装された「3Dビューア―」を使っています。エクスポートできる画像の解像度が4,096x4,096dotの制限になりますが、A4サイズ600dpiの漫画原稿であれば充分なサイズです。
 パースを決めたら、画像エクスポートで3種類の画像を出力します。

・先ずは、ライトで照らしたレンダリング画像
・次に「網かけ」からスムースシェード画像
・最後に、これも「網かけ」から反射色画像

こんな感じで3種類。

 反射色で黒ベタにした画像はマスクに使います。これを基にレンダリング画像から背景を消去したり、色を変えて合成して調色したり。スムースシェードは光沢を足したいときに使います。

元画像にほかの2つ(黒マスクは赤に変えて)をオーバーレイで合成した例

 もう一つ裏技として、私はモデルに質感を加えるために表面にメッシュを施してレンダリング画像に加えています。メッシュ細分化は、レンダリングソフトでよく発生する「R局面の簡略表示(多角形化)」を抑制し、なめらかな曲面表示に直したりすることも。

メッシュ生成の図

 こうして調整した画像を、大きさ・位置・角度を変えながら原稿に落とし込みます。

 3DCGを使う利点として、パースを変えることでキャラの表現にバリエーションを持たせるという効果があります。3Dビューアーには建築モデルのような大きな構造物の表示に使う「パースペクティブ」という遠近感を出す投影法があります。「スーパーロボットマン」はパースペクティブを多用して、あたかも重機のような大型機械に見せかけてオチで正投影に戻す、という小技を使ってみました。こうした3DCGならではの表現方法も、アイデアひとつでマンガの表現に幅を持たせることができるのです。

左が正投影、右がパースペクティブ

 「スーパーロボットマン」は所々で手書きを加えながらも、概ね3DCGを使ったマンガ作品となりました。冒頭の「手抜きを感じる」事のないように、質感に注意して仕上げたつもりです。
 
 メインキャラのモデリングについては概ねこんな感じ。次の機会では背景や効果に使ったCGについてご紹介したいと思います。

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