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『鎖鎌探偵 鋼』 第百六十六幕 「筆談と響く湯」

『鎖鎌探偵 鋼』
  第百六十六幕 筆談と響く湯

クサリガマタンテイ ハガネ
  ダイヒャクロクジュウロクマク ヒツダントヒビクユ


 

【登場人物一覧】

①亜川 鉛児(アカワ エンジ)31歳 男
普段は塩ビ管を扱う工場の製造部で、原材料の梱包材の廃棄や、完成品の梱包、荷役等をしている。この秋は虹色のツナギを着ている。黒髪のモヒカン。

②惰宮 呑流比(ダミヤ ノンルヒ)51歳 男
十年前から亜川にはいろいろ頼みごとをしていたり。警視正だが、警視庁からも岐阜県警(またおかけんけい)からも軽んじられているおじさん。威嚇射撃がしたくてたまらない困ったおじさん。この春も警官の制服を着ているおじさん。白髪まじりのリーゼント。

③原尿 工(モトバリ タクミ)21歳 男
ヌートリア養殖業の会社で働く係長。海に入るわけでもないのに白いウェットスーツを着ており、スキンヘッドだが、気性が荒いわけでもなく、特に目立った個性はない。併し、人を一人捕まえて、「この人の個性はこうこうこうです。」等と断言出来るようなことなど、あるのだろうか? 仮にその紋切り型で言い切ってしまえば、必ずその人の人格の他の側面を見落とすことになると思うが……。

④設楽 建健爬(シタラ ケンケンパ)41歳 男
「ちんぽこ塾」を駅前でやっている。駅前といっても無人駅の前であり、人間より鹿やカモシカがよく通る。カモシカは漢字では「羚羊」と書くが、羊の仲間でも鹿の仲間でもなく、牛の仲間である。「羚羊」と書いてレイヨウと読む場合があるが、これはオリックスやインパラなどといった、ウシとヤギの中間のような連中であり、カモシカと全く同じ概念というわけではないのでややこしい(カモシカと遠い概念でもないので余計ややこしい)。カモシカは兎も角、設楽建健爬は「ちんぽこ塾」で合気道と、ついでに英会話を教えている。英会話の方がオマケの筈が、英会話の部門のおかげで、何とか糊口(ここう)を凌(しの)げている現状である。スポーツ刈りに、透明なタンクトップのおかげで変質者だと誤解されやすいが、このタンクトップは透明ではあるもののビニールではなく肌に優しいらしいのでかぶれの心配は無く、更には英会話も空港での実践的な会話から、TOEICやTOEFLに完全対応している、なかなかのものらしい。

⑤葉茶 眞(ハサ マコト)28歳 女
28歳ではあるが、いろいろあって女子短大に通っている。漬け物が得意。幽霊に異様な執着を見せるが、それ以外は普通と言える人物だ。残念ながら子どもの頃から顔面が崩壊しており、彼氏など出来た例(ためし)が無いが、あまりそこには触れるべきではない。緑のウインドブレーカーに、茶髪のポニーテール。スタイル抜群。

⑥ミカラム ?歳 雄
熊。

⑦アヌツク ?歳 雌
熊の霊。

⑧トーアテラ河野(こうの) 166歳 男
実直な青年。麦茶が好き。普段は清掃員として、ゴミを交換しているが、本日は休日。見た目は黄色人種そのもので、黒髪だが、眼が赤で、舌が青で、血が緑。休日だが、職場であるサービスエリアに来ている、奇人。宇宙人。

⑨ルドンハ平岡 ?歳 女
長身貧乳の美女。生前は或る百人一首の大会で、優勝したことがある(なお、その百人一首の大会で、唯一、彼女はルールを知っていた。)。短髪。なお、宇宙人の霊。トーアテラ河野とは特に面識は無いようだ。別の星雲の宇宙人の霊なのだろう。

⑩来島 鹵簿(クルシマ ロボ) ?歳 男
燕尾服の老爺。槍を構えている。霊。稍(やや)透けている。

⑪来島 芽華(クルシマ メカ) 32歳 女
背が低い貧乳の美女。造船会社の事務を馘首され、介護の夜勤を鬱病で退職後、再び大学へ行き、助動詞を研究中。来島鹵簿は父の母の父。

⑫広田 金子(ヒロタ キンコ) 21歳 女
中ぐらいの背の巨乳の美女。武骨な鉄パイプを常に携帯している以外は、一般的な美女といった感じだ。長髪のポニーテール。臙脂色のスカジャンが良好(グー)。

⑬口田 日大(クチダ ハルバル) 51歳 男
筋骨隆々。常に灰皿を携帯しているが、その灰皿は携帯灰皿ではない。また、口田は喫煙者ではない。黄土色のトレンチコートが渋い。得意技はタックル。

⑭二木 図(ニキ パカル) 31歳 ?
中性的な人物。しかし、中性的だからといって、美形であるとは限らない。実際、二木の顔面はルッキズムに一石を投じるような出来映えである。残念乍ら、人間というより、痩せたゴリラなのだ。勿論、極端に外見の美醜を尊重する現代社会が悪いのであって、二木に罪は無い。声も中性的。性自認は不明。誰も触れない。服はお洒落だ。


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「ちょっと待て、状況を整理させてくれ!」
 そう怒鳴ったものの、惰宮警視正はもう、極限の泥酔状態だ。胡座をかいたままよろよろと揺れ、背後で寝ているミカラムに凭(もた)れかかる形で、入眠した。
 深夜。
 豪雨。
 雷鳴こそ三十分程前に止んだものの、篠突く雨の音(ね)は窓の外の駐車場を目視することすら難しくさせていた。


  『鎖鎌探偵 鋼』
    第百六十六幕 筆談と響く湯


 飛び石連休の開闢(はじまり)を来週に控えた、四月も終焉(おしまい)に垂(なんな)んとする或る深夜。曜日も判然とせぬこんな豪雨の丑三つ時は、全ての人々の一人称が、〝私〟で統一されそうな雰囲気だ。
 雷神や風神は段々と休み気味であるが、雨が酷い。この興居島SA(サービスエリア)・下り──以下、本SA──が今にも宵闇の中、水没してしまいそうな錯覚に陥る。
 私達は、本SAの唯一の施設、〝情報コーナー〟との名が付いている、待合室めいた空間──当施設──で憩っている。若(も)しも此処が待合室ならば、私達は何を待っているのだろうか。夜明け? ──いや、雨が止むのを待っているのだろう。少なくとも、当面は。
 一応この施設は、屋根も壁もあり、暑くも寒くも無い。有難いことだ。
 駐車場側の一面は殆どが嵌め殺しの硝子の大窓なのだが、先述の通り、窓の外の駐車場は全く見えない。白浪(しらなみ)と見紛う如き雨。

 勘違いしてもらっては困るが、私はルドンハ平岡。簡単に云えば、宇宙人の霊だ。亜川鉛児(アカワ エンジ)ではない。渠(かれ)は腹の具合が悪いのか、便所に籠もりっきりだ。
「はああ……。漂白剤を使っても、落ちないんじゃないかなあ……。」
 今、聞かれてもいないのに独り言を漏らしたのは、原尿工(モトバリ タクミ)。宇宙人の霊なので姓名ぐらいは分かるが──簡単だ、運転免許証を透視すればいい──その人物の詳細は分からない。詳細は分からないが、この原尿という男は、白いウェットスーツにココアを溢してしまったようで、ずっと意気消沈して、当施設の片隅の椅子に座って不貞腐(ふてくさ)れている。その近くで、野良の熊のミカラムと惰宮警視正が高鼾(たかいびき)。

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   (以降の本編は、書くのが面倒な為、省略されました。)

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「まさか、こんなことになるなんてな……。」
 そう独り言ちたのは、パイプ椅子探偵の広田金子だ。泥酔状態の惰宮呑流比警視正が運転するパトカーに乗せられた灰皿探偵を見乍らの、一言であった。
 豪雨は未だ衰えることを知らない。
「でも、あれが最後の偽造硬貨だった、っていう証拠は無いですよね? それに、口田さんに共犯者が居たら……。」
 そう言い淀みホットココアの紙コップを撫でる芽華の傍らで、鹵簿翁は相変わらず槍を構えている。
 私はそれとなく、〝鋼〟に訊いてみた。
「ねえ。そのクワガタロボって……事件の予兆があったから、撒いたの?」
「いいや、事件の有無に関わらず……じゃないのか?」
 口を挟んで来たのは設楽建健爬だ。黒髪モヒカンの亜川鉛児は──ただにっこりと、天井を眺めて微笑んでいる。目を開けたまま、寝ているのかもしれない。
 設楽建健爬は偶然とはいえ、事件解決の直接の糸口となった。メリケンサックに洗濯機用の超強力磁石をひっつけて背嚢に入れていたのだ。だから私は彼に、ブラックコーヒーを奢ってやることにした。
「有難いけど……平岡さん、それも、偽造硬貨じゃないよね?」
 やっぱり、奢るのは中止にした。

 ふぁ~あ、と、ミカラムとアヌツクが大欠伸をした。軈て渠等は、我々に向かって、明確に、
(あ、美味しそうだな。)
といった表情を向けた。

 自分用に冷たい缶のお茶を自動販売機で買った。豪雨の音に負けかけ乍らも、珍しく自動販売機は、当たりのファンファーレを得意げに歌い始めた。
 背後で、熊達が遂に歩き始めた気配がした。
 扨、もう一本は、何を買って、誰にあげようかな。

                       〈了〉


『鎖鎌探偵 鋼』第百六十六幕「筆談と響く湯」 ── 非おむろ(2024/04/27)



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