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櫻坂46『Start over!』感想/ツアー大阪公演1日目の話

清塚さんに弾いてほしいなってMステ見て思いました


櫻坂46 『Start over!』

ざっくりとした感想

 前作『桜月』に引き続きナスカが作曲を手掛けた6枚目シングル表題曲。グループのいまが欅坂46と地続きであることを強烈に提示すると同時に、格調高いサウンドには櫻坂46としての成熟も投影されている。独自のアプローチでJ-popを開拓していくナスカ曲にメンバーのポテンシャルを余さず活用するようなクリエイティブが噛み合ったインプレグナブルな一作。

マニアックな人向け感想

・楽曲のフレーム構造は『条件反射で泣けて来る』と共通している部分も多く、J-popらしい起承転結のはっきりした構成が楽しい。
 ここで『条件反射〜』と『Start over!』を軽く比較すると、『条件反射〜』は例えばサビで出てくるオルタードテンションなど凝ったコードワークがオシャレでかっこいい。未練たらたらな失恋ソングですが、前景化されているのは「楽しかった日々」を歩いて振り返る懐古主義的な主人公の姿で、ぼんやりとした「思い出感」がジャズ寄りな和声の曖昧な響きと好相性。コード単体で見ると『Start over!』はシンプル(トライトーンの濁りが聞こえやすい)な印象で、歌詞で表現されている、無意識のうちにフラストレーションを抱えた現代人に対する、『Nobody’s fault』や『流れ弾』のようなオブラートなしのメッセージが音として強烈に届いてくるような感触がありますね。

・楽曲全体を通して跳ねるリズムが印象的。欅坂時代含めこれまでの表題曲は割と4つ打ちで地に足が着いたような感触のメッセージソングが多かった気がしますが、この軽快なスウィングのリズムの開放感、どこか達観しているような感じに数年間での成長・進化を感じます。

・とにかくダークなイントロ・Aメロで分からせに来るのもアグレッシブで気分が上がる。イントロの息の音やジャンプする振付で音楽と身体に繋がりを感じるのも良い。パフォーマンス版では冒頭のジャンプのところで脈動や画一性を感じて面白い。

・例によってBメロで短三度下に転調してサウンドもがらっと変化。ベースやストリングスの重々しさに散らしピアノが効いていて切ない。Bメロの頭では短調(Aマイナー)から長調(Aメジャー)になっているような雰囲気もありますが結局、物憂げな4563進行に〈こんな〜〉〈コンビニの〜〉〈弁当〜〉〈どんな〜〉とリズミカルに切り取られた日常を乗せて物理的に殴ってくるので、「実生活におけるリアルな苦悩」をバチバチに感じる部分なのかなと思います。

・そこからさらに短三度下に転調してサビへ。サビ前半は短調のクラシックを思わせるコード進行(Ⅵm→Ⅶ7→Ⅲ7→Ⅵm)でエレクトロ・スウィングのような趣があり、ダークな中にも一定の品性を感じてかっこいい(この品格の感じにも「成熟」を当てがいたくなる)。
 サビのフレーズ前半で(いつもと違って)むやみに歌詞が詰め込まれていないのもプラスに働いていると思っていて、休符の多さに懐の深さを感じる。音数が少なめなこの部分でメロディは跳躍上行していて(むしろメロディの大きなジャンプ(アクセント)はここに絞られている)、このメロディの解放感が「やり直せ!」というやや高圧的な主張と良いバランスをとっていると思う。
 サウンドとしてはストリングスの旋律やリズムの揺らぎも聴きごたえに貢献しているので隙がない。〈風に吹かれて〜〉のパートは強進行で繋がっていて、この部分における逆接を推進力に意志を増幅させる歌詞と共鳴しているような気がします。

・2番はAメロからジャズ的なバッキングがシンプルにかっこいいのもありますが、他にも下ハモの追加や弱拍の強調といった変化によってダークさが緩和されている印象があります。2番の攻撃性を少し抑えた内省的な詞との親和性も高そうで、作詞と作曲の手癖すら噛み合ってますね。なんか評論家みたいに上から目線ですみませんが(たぶん謝り足りない)

・Cメロでナスカ曲恒例のパワフル超絶技巧ピアノゾーンに突入。初見ではなかなか追いつけなさそうな転調も聴いていて楽しい。DメロではBメロより明るめな進行の中で宝石のような煌めきがあって、ピアノの聴かせ方が多彩なナスカ曲らしい。
 ラスサビは楽譜に起こしたら6連符祭りになりそうな高速ピアノが圧巻で、それが跳ねるリズムとちょうど合うようになるのは新鮮な発見。

・ここら辺(2番以降)の歌詞については、客観視を経て「本質的に〈君〉も〈僕〉も大して変わらない」という事実に直面した後にただ萎れてしまうのではなく、そこから〈君は僕の過去みたいだな〉〈僕は君の未来になるよ〉と力強く言ってみせているのがひとつ趣向なのかなと感じる(漫画だったら「僕は君の未来になるよ」で見開き1ページ割かれてる)。他人(同志)のためにやり直すという視点が加わり、ラスサビは自分を鼓舞しているようにも聞こえて面白い。

・MVでは〈君〉が夏鈴ちゃん、〈僕〉がそれ以外のメンバーとして描かれていて、〈他人の目気にすんな〉は〈君(夏鈴ちゃん)〉のセリフっぽくなっている。夏鈴ちゃんの肩の力を抜いたニヤリ顔が印象に残る。
 ストーリーに関しては〈君(夏鈴ちゃん)〉の夢?妄想?か、あるいは集団幻覚?(それぞれが夢を見ている?)みたいなことだと考えていて、ひと暴れした後に何事もなかったかのように元のオフィスに戻るけれど、ただ、なんとなくちょっと分かり合えたような気もするし、別にそうでもない気もする、みたいな集団における希薄なシンパシーのようなものを勝手に見出していますね。

・黒を基調としたMVの画は必然的にⅥmが強調されたマイナー系のサウンドに合って心地良い。サビの激しいステップなど、しなやかさよりかはキレが重視されてそうなコレオグラフィーで黒髪ウルフが自然に映えていますが、なんだかんだ他のビジュメン(フロント?)もしっかり映してもらえてる。
メガネ濃いめリップるんちゃん好き。

・1サビのシステマチックな玉座や心臓を表現しているらしいラスサビのGIF的振付(左右で微妙にタイミングずらしてる?ポンプっぽい)も他グルと戦えるようなインパクトがある。しっかりと戦うことに主眼が置かれてるなぁと思う。


・関わった人たちの熱量がガッチリ噛み合った結果いろんな人に作品が刺さって数字も伸びて嬉しい!この調子で頑張ってこう!みたいな今の櫻坂の良い感じの雰囲気の醸成は他の坂でも実現してほしいんですけどね。
 噛み合うカードを既に消費してしまっているみたいな背景もあるだろうとは思いますが、結局現実的に数字を出すにはポテンシャルのある楽曲の連打が必要でしょうと考えているので、やっぱりそこらへんは手を抜かず丁寧に制作してほしい。



3rd Tour 2023大阪公演1日目の話

・というわけで、ツアー大阪公演1日目に行ってきました。写真からも分かるとおり(?)めちゃめちゃの天空席ではあったんですが、初めての櫻坂ライブということで、噂に聞いていた力のこもった演出や会場の雰囲気を体感できて楽しかったです(ただやっぱり防振双眼鏡のレンタルとか3期ドキュメンタリーのチェックぐらいはしといた方がより一層ライブを楽しめただろうな~みたいな反省はある。見たいメンバーのフォーメーションの把握とかも)。

・演出としては基本的にエレクトロニックやアンビエントな感じのものが多くて、ライブを通したコンセプトは「宇宙旅行」みたいなところにあるのかなと勝手に考えていた(オープニングは何らかのシステムの起動時っぽい感じで、そこから楽曲とともに様々な星をめぐり、本編ラストの『桜月』でのスクリーン映像の夜桜で地球に帰ってきたのを実感、みたいな解釈)。全体的にライティングの演出が凝っていてやっぱり格が違うなと思った。
 MCで松田ちゃんが大阪公演1日目のチケットが完売したことについての感謝を述べていて、いろいろ大変なんやなぁと思った(世界観とのギャップも)。

・(大阪公演だけなのかもしれませんが)一貫してサウンド面では低音やリズムに重点が置かれているように感じた。ダンスミュージックで体を揺らすようなイメージで、音源でそこまでハマれていなかった『Dead end』や『Cool』といった楽曲がライブではパワーアップしていてすごい楽しかった(ただ逆に『条件反射で泣けて来る』のコードワークの微妙な味わいとかは消えてしまっていたと思う(それでもいい曲ではある))。

・パフォーマンスにおける存在感は天ちゃんがピカイチだと思った。その日の髪型がハーレークインみたいなハイツインで見つけやすくて印象に残ったのもあるけれど、煽りや表情のひとつにもスター性があるなと感じた。

・例によって3期生の情報はあんまり追えてなかったんですが、『夏の近道』のサビの振り(慣性キャンセルするとこ?)の揃い方は衝撃で。あそこまで気合十分のパフォーマンスができるのはすごいと思った(そういえば周りの席に3期生のペンラを持ってる人が割と多かった印象)。

・『BAN』は最初は3期生がカバーして途中からもともとのメンバー(?)が入ってくる形式で、ご本人登場のるんちゃんには貫禄すら覚えた。

・ライブから結構経って色々忘れてしまっていますが、基本的に一本筋が通っている良いライブで行って良かったなと思いましたね。 おわりです


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