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大規模言語モデルで進化するロボティクス

はじめに

筆者は、人間が「暇」を取り戻すために、自律型ロボットはじめとするAIサーバントの社会普及を心待ちにしています(詳しくは、こちらの記事に)。しかし、自律型ロボット(ティーチングではなく、AIにより自律的に稼働するロボットを指します)の開発における難題のひとつに、「フレーム問題」があります。

フレーム問題とは、Wikipediaを引用すると、「人工知能における重要な難問の一つで、有限の情報処理能力しかないロボットには、現実に起こりうる問題全てに対処することができないことを示すもの」です。

本稿では、GPT-4に代表される大規模言語モデル(LLM)がフレーム問題にどのように貢献できるのかを考えてみたいと思います。

フレーム問題が発生する理由と課題

ロボティクス関係者には釈迦に説法ですが、ロボット工学では、実環境の複雑さと計算機システムの限界から、フレーム問題が発生してしまいます。このフレーム問題を克服することは、自律型ロボットの大量導入・社会普及(特に、環境が整備されない家庭内などに普及するため)に不可欠ですが、そもそもなぜこのような問題が起きてしまうのか。思考の整理のために、フレーム問題の克服が難しい理由を念のために以下に整理します。

  • 無限の可能性があること:実世界の環境は非常にダイナミックであり、ロボットの状態や行動に影響を与える要素が無数にある。

  • 知識が不完全であること:ロボットは、環境、環境中の物体、自分の行動の結果について、限られた知識しか持っていないか、不完全な知識しか持っていないことが多い。

  • 外界の不確実性が高いこと:実世界の環境は、センサーのノイズや予測不可能な外部事象など、あいまいな要素が多く本質的に不確実。

  • 計算の限界があること:ロボットが処理・保存できる情報量には現実的な限界があり、データ量が増えれば増えるほど難しくなる。加えて、時間の経過や環境の変化についても推論する必要がある。

  • 行動表現が困難であること:行動とその効果を簡潔かつ一般的な方法で表現することがこれまでは困難であった。

  • スケーラビリティに難があること:フレーム問題は、環境中のオブジェクトやインタラクションの数が増えるほど難しくなる。

フレーム問題への対処と普及の加速におけるLLMの役割

LLMは、フレーム問題の完全な解決策を提供するわけではないかもしれません。残される数%の問題はテレオペレーションなどによる人間の介入で処理されることを想定しています。しかし、LLMはフレーム問題に含まれるハードルを少なくとも軽減することに大きく貢献し、今後数年間で自律ロボットの広範な普及への道筋をつくることができるのではないかと考えております。

LLMがフレーム問題に対処するアプローチとしては、(非技術者の思いつきレベルですが)「外界のセンシング→video to text→LLMでの処理→text to actionで運動系に反映」という流れになると思われます。そしてここでいう「LLMでの処理」としては、例えば以下のようなものが考えられます。

  • 知識表現:LLMで、世界のコンパクトで効率的な表現を作成し、意思決定プロセスの計算量を減らす。

  • コンテキストを考慮した推論:NLP機能を活用することで、状況やコンテクスト(文脈)をよりよく理解し、情報の優先順位をつける。

  • 確率的推論:LLMによる確率的推論で、ロボットが環境の不確実性を管理する。

  • 階層的プランニング:LLMで、複雑な問題をより単純な下位問題に分解して、階層的な行動計画を立案する(Say-Canなどで実証済み?)

要するに、フレーム問題の本質が実環境の複雑さと計算機システムの限界にあるのだとすれば、LLMを活用して実環境をシンプルな記述に変換し、計算システムのキャパシティーに収める、というアプローチも成り立つのではないか、ということです。

もちろん、これらは言うまでもなく、これはすでにGoogleがSayCanなどを通じて先進的にLLMをロボティクスに応用(ローレベルのアクションへの落とし込み)しはじめていることに着想を得ています。

Googleがロボティックスへの開発投資を減速しており、また、OpenAIもいったんはロボティックスから撤退済みであることを考えると(そしてしばらくはGPTに専念することを期待すると)、フレーム問題の軽減というアングルで技術やプラクティスを確立することで、世界レベルで頭ひとつ抜き出ることができる可能性があるのではないでしょうか。

さいごに

自律型ロボットが広く普及するかどうかは、フレーム問題のような課題を克服できるかどうかにかかっていますが、筆者個人としては、今後3~5年でのブレークスルーに期待しています。

フレーム問題は依然として根深い課題ですが、LLMは、実世界の複雑な環境を整理・管理ことに長けており、この問題に対処する上で重要な役割を果たすことができるはずです。もちろんLLMだけでなく、センシング、ロボット工学、コンピュータサイエンスも同時に進歩することにより、自律ロボットはここから急速な進化を遂げていくことが期待されるので、自律型ロボットが私たちの日常生活に不可欠な存在となる未来はそう遠くないのではないでしょうか。

最後にお願いですが、LLMを活用してロボティクスのフレーム問題にチャレンジしている研究者の方、スタートアップがいらっしゃいましたら、ぜひディスカッションさせていただければ幸いです。(なお、フレーム問題と双璧をなすロボティクスの技術的課題としては、「手先の器用さ」があると考えています。こちらにアプローチしている方ともぜひディスカッションさせていただきたいです。)

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