杏仁豆腐と自意識

1人でランチブッフェを食べたなんて白状するのが恥ずかしすぎて、「パスタを食べてきました」と言った。

「お昼何食べたの?」と聞かれた時の返答は用意していたので、非常にスムーズだっただろう。

いつもバイトの昼休憩には複数人でランチに行くのだが、昨日は珍しく1人でランチに出ることになったのだ。

行き先を決めてから歩き出せばよかったが、何が食べたいのかよくわからない日だったので適当に歩きだしてしまった。フラフラと歩いた先にある飲食店でパッと思いつくのは大盛りパスタの店、ちょっといい定食屋、和食ブッフェの店。

最もひとりで入りやすいのはどう考えても大盛りパスタの店だったが、大盛りパスタはお腹がいっぱいになりすぎて、眠気で午後の業務に支障が出るのであまり選びたくなかった。

和食ブッフェの店はランチ代としては少し高くつくものの、とても質が高く、コスパが良い。というか、美味しい和食を好きなだけ食べられるので、好きだ。

お腹がいっぱいになりすぎるとうんたらとか言っていたことはすっかり忘れ、和食ブッフェの店を選ぶことに。いや、正確には忘れたわけではない。

パスタの麺でお腹がいっぱいになるのと、和食のおかずでお腹がいっぱいになるのではわけが違うだろうという理由を自分に言い聞かせることで「ひとりブッフェ」という未知の領域に踏み込むことに成功したのだった。

何度も行ったことのある店だというのに、ひとりで入るとやっぱりなにか違う感じがする。が、そんな感覚お構いなしに食事をたくさん皿に盛って、もりもり食べるだけ。

「わ~それ美味しそう!」「え、取ってないの?絶対取ったほうが良いよ、ほらデザートコーナーの近くにあるからさ」みたいなブッフェによくある会話ももちろん無く「うん、これは正解」「これは1つでよかったな…」という孤独な答え合わせを脳内で繰り返すのだ。

デザートコーナーの杏仁豆腐の横には、いつもどおりイチゴのソースとマンゴーソースの2種類が置かれている。

いままでだって本当は、杏仁豆腐を2つ取って、両方の種類のソースをかけたいと思っていた。

でも、旅行先とかならともかく、仕事の合間のランチでデザートを2つも3つも食べるのは恥ずかしい。そんなデカ自意識のおかげで、いつも結局迷ったすえマンゴーソースを選んで1つの杏仁豆腐にかけてきた。

今日は違う。何個杏仁豆腐を食べたって良いのだ。迷わず杏仁豆腐を2つ取り、それぞれにストロベリーソースとマンゴーソースをかける。

これを両方完食し、はちきれそうなお腹で会計をして仕事場に戻った。

帰路で、この後確実に「お昼何食べたの?」と聞かれるだろうなとぼんやり想像し、「パスタを食べてきました」と答えようと思った。

戻った後は、あまりに想像通りの質問がきたのでスムーズに用意した回答を口にして、それと同時に何のためにこんな嘘をついているんだろう、と変な気持ちになる。

あと、午後はずっと眠かった。

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