見出し画像

Brancusi 2024 Tokyo

芸術家が人生で出会いと経験を繰り返して作風を変えていくように、見る側も内面の成長や老いと共に触れたいものが時間と共に変わって行くのはごく自然なことだ。

2023年1月に愛知の豊田市美術館までリヒター展を追いかけて行った時には、それを実感したのをよく覚えている。
リヒターがキャンバス上に重ねる強い色彩が決して私には癒しになるどころか、むしろ辛いほど強い刺激であったはずなのに、帰り道の夕暮れではなんとも言えない豊かな気持ちになったものだ。

豊田市美術館のリヒター展の入り口で私のハートを射抜いたのが、
ブランクーシの「雄鳥(The cook )」だった。

「The Cook」1924 (1972年鋳造)・ブロンズ 
冷たさは感じさせない、触れたくなるような柔らかいフォルム

吹き抜けの広いホールで、高い在座に乗り刺すように上方を向いた美しいブロンズ象に、私は美しさ、清々しさと崇高さを感じて、瞬時に惚れ込んでしまったのだ。

今回、この「雄鶏」が、東京のアーティゾン美術館(旧、ブリヂストン美術館)で出品されている。

大きな台座に乗ると一際美しいが、近寄り難くもある(アーティゾン美術館)


「空間の鳥」1926年(1982年鋳造)横浜美術館所蔵
「空間の鳥」東京都写真美術館



「Carving teh Essnce- ブランクーシ 本質を象る」
 2024年3・30ー7.7

写真、フレスコなどを含む90点の作品が日本で展示される彼の美術展は日本では初と知って驚いた。

美しく、撫でたくなるようなフォルムや頭部へのこだわりは、彼がエジプト、インドなどで得た崇拝対象(偶像)、特にそれらの頭部に強く影響を受けたことがわかる

「接吻」は、古代エジプトの発掘物である夫婦象や石像に見られるように、男女が等しい高さで仲良く、ピッタリと体を寄せ合っているイメージを思い起こさせる。

「接吻」(The Kiss) 1907-10 、石膏
正面から見ると、背中を包む指先は全く見えない



「眠れるミューズ」1910-11年頃 石膏、大阪中之島美術館
ブロンズの頭髪部は削られており、顔部分の艶とのコントラストが面白い


彼が初期に師事したロダンとは違い、ブランクーシは手仕事の荒々しさや生々しさは残さない。余計な痕跡は一切消し去り、根源にある本質のみをデフォルメ化して表す。そしてそこに私たちは視線を奪われる。

ルーマニア生まれのブランクーシはパリで芸術活動を続け、マルセル・デュシャンら友人らの紹介でアメリカでも有名になった。
最後はパリで没し、彼の遺体はモンパルナス墓地に眠っているのだが、その同じ墓地で彼の作った墓碑ー「接吻」にまつわるスキャンダルが起きたのは近年のことだ。2021年に裁判所が判決を下しているので、詳しくはこちらを。

https://ksm.fr/archives/600514
(ブランクーシが生前一般女性の墓の為に制作した墓碑「接吻」が歴史的建造物と認められ、遺族は請求権を持たず)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?