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侠客鬼瓦興業75話「追島さん、ひどすぎる・・・」

(お慶さんには、僕らが夕べソープランドに行ったこと・・・)
僕はお慶さんの様子を伺ったあとそっと横目でめぐみちゃんを見た。そこには僕を信じきって幸せそうに微笑んでいる彼女の姿が
(ごめんね、めぐみちゃん・・・、知らなかったとはいえ君の事を裏切ってしまった。ご、ごめん・・・)
僕は罪の意識をひしひしと感じながら、心の中で一生懸命謝り続けていた。

「あら?どうしたのかな吉宗君、さっきからおとなしくなっちゃって」
お慶さんが僕に話しかけてきた。
「え!?」
「えって、他に質問はもうないのかな?」
「あ、あの」
「何?」
「あの、やっぱりお慶さんにとっても追島さんがソープランドに行った事って、重罪だったんですね」
「重罪?」
お慶さんは一瞬目を見開くと、くすくすと笑いながら
「そうね、重罪ね、だから君も変なこと見習わない方が良いわね、でないと、めぐみちゃんとの仲も終わりになっちゃうわよ」
「う!」
「お慶さん、吉宗くんが見習うわけないじゃないですか」
「あらあら、めぐみちゃん、そうね、この子が行くわけないわね」
再び笑顔で僕を見た。
ぼくはそんなお慶さんの様子に、ふっとある疑問を感じた。

(どうして?お慶さんこんなに落ちついて笑ってるんだろう、僕がめぐみちゃんに嘘をついてる事わかってるはずなのに、まるで怒っているようには見えないなんて)
そんなお慶さんを見ていて、追島さんとの破局がソープランドだけが原因でないように思えてきた。

と、その時、、
「ホーーホホホホホ」
隣にいた栄ちゃんが甲高い声で笑い始めた。 
「何よ、栄ちゃん!急に変な声だして」
「ホホホホホホー、だってさ、お慶ちゃん、あんた大事なこと隠しちゃってるじゃない」
「大事なこと?」
「そう、あんたが追島ちゃんと別れたのは、それだけじゃないでしょ」
「・・・・・・」
お慶さんは一瞬動揺しながら無言で栄ちゃんを見た。

「お嬢様だったあんたが惚れ込んで、親に勘当されてまで一緒になった男じゃない、追島ちゃんは、その男がたった一回ソープに行っただけで別れるなんて、ありえへーんよ、ホホホホホホホホホ!」
「ちょっと、栄ちゃん!?」
「確かに原因はソープにあっても、その先があるでしょ、その先が」
「・・・・・・」
お慶さんは今までの笑顔から一転した険しい顔で、ぎりぎりと唇をかみしめた。 
「それじゃ、お慶さんが別れた原因って他に?」
僕とめぐみちゃんはきょとんとした顔でお慶さんを見た。

「私に内緒で、ソープに行ったのも腹が立ったけど、でもそれ以上に許せなかったのが・・・」 
「そのことで追島が起こした、例の傷害事件ね」
「!?」
「何て顔してんのよお慶ちゃん、知らないと思って?こう見えても私は風俗の闇に生きる女衒の栄ちゃんよ、ホホホホホホホ!」
「やっぱり、知ってたんだ、、、、」
お慶さんはじっと目を閉じた後、不意に僕達を見て、悲しそうに笑った。

「あまり・・・、話したく無かったんだけどね・・・」 
「えっ!?あ、はあ」 
「ソープに行ったのは腹がたったけど、やつの仕事がらそんな事は仕方ないって私も思ってた。でもね、あいつ・・・、追島のやつ・・・」
お慶さんはしばらく言葉なく苦しそうに遠くを見つめていた。そしてその目には大粒の涙があふれていた。
「続き、私が話そうかしら、お慶ちゃん」
栄ちゃんの言葉にお慶さんは無言でうなずいた。
「追島ちゃんね、そのソープ嬢に惚れて、その子のヒモ男を相手に傷害事件を引き起こした。そうでしょお慶ちゃん」
お慶さんは黙ってうなずいた。 
「えー!?えー、えー!そ、そんなーー!!」
僕は栄二さんとお慶さんの顔を交互に見ながら大声で叫んでいた。

「許せなかったの、あの時・・・、ユキがあんなとき・・・、あいつ」
お慶さんは大粒の涙を拭うと、やっとの思いで声をしぼりだした。 
「追島がその傷害事件を起こした、その時・・・」


(ピーポーピーポー)
救急車がサイレンをならしながら夜の病院へと到着した。
(ユキー!しっかりしてーユキー!)
お慶さんが、救急車から運び出されてくる小さなユキちゃんに大声で叫んだ。
(ハア、ハア、ママ・・・、ママ・・・)
(ユキー、ここよ、ママここにいるわよ)
(ママ、ハア、ハア、パパは?)
(もうじき来るから、パパも来るから)
(ハア、ハア・・・、ユキ、早くパパに会いたい)
(大丈夫、もうすぐ来るからね)
 
(お母さん、後は私達に)
病院から出てきた医師はそう告げると、ユキちゃんを乗せたタンカーを押して処置室へと入っていった。
(ユキーーー!)
お慶さんは病院の廊下でひざまずくと、泣きながら必死に手を合わせていた。


「ユキ、小さいころ体が弱くてね、病院に運ばれることが何度もあったの・・・、その日も肺炎にかかって本当に危ない状態だった」
「そう言えばユキちゃん、何度も入退院を繰り返してましたね」
めぐみちゃんの言葉にお慶さんはそっとうなずくと
「めぐみちゃん、よく来てくれてたよねユキの病院、退屈しているユキに折り紙を教えてくれたり、いっぱい遊んでくれて」
 
「それなのに、父親のあいつときたら・・・」

病院の入り口には、泣き顔で携帯電話を耳にあてたお慶さんの姿があった。
《おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません。おかけになった電話番号は・・・、プツ!》
(あの人、いったいどこほっつき歩いてるの・・・、ユキがこんな時に)

(おーい!お慶ちゃん!!)
(あっ!親分さん、姐さん!)
心配して駆けつけた、親父さんと姐さんにお慶さんはあわてて頭をさげた。
(どうなの、ユキちゃんの様子は?)
(それが姐さん、今日は様態がひどくて、ユキも苦しそうで)
(まあ、可愛そうに)
(で、追島から連絡は来たのか?)
(それが、ずーっと圏外なんです)
(何処行ってんだ、あのバカ、こんな時に!)
親父さんは怖い顔で、病院の外を見た。

(とにかく慶ちゃん、追島のやつはうちの連中も手分けして探してるから、あんたはユキちゃんのそばについていてあげなさい)
(はい、ありがとうございます。親分さん)
お慶さんが病院に入ろうとしたそのときだった!
ピリリリリー、ピリリリリー
(045・××××・0110!?)
お慶さんは手にしていた携帯の着信番号を覗いて一瞬首をかしげ
(あの、もしもし、え!?警察!?)
目の前の親父さんと姐さんを見た。
(警察って、どうしたの慶ちゃん?なに?何があったの?)
(はい、はい・・・、追島竹男は私の夫です。は、はあ!?)
しばらくしてお慶さんは電話を切ると、真っ青な顔でその場にたたずんでいた。
 


「その日、追島の携帯がつながらないと思ったら、あいつ留置場にいたんだよね・・・、笑っちゃうでしょ、ユキの様態はどうにか落ち着いてくれて、それから私あの子のそばに付き添ってたんだけど、でも、頭の中はぐちゃぐちゃで・・・」
お慶さんはカウンターにあったタバコを取り出すと、そっと火をつけた。

「まあ、それでも当時は愛する夫だったしね・・・、次の日着替えと差し入れを持って警察署に行ったんだけど、そこで担当の刑事から詳しい話を聞かされて・・・」

・・・・・・・・・・・・


(あんたが追島の奥さんかい?こんな綺麗な奥さんがいながら、しょうがねえな、あいつ)
(は?)
(何も聞いてねえのか?今回のこと)
(え?)
お慶さんは大きな紙袋を抱えたまま刑事を見た。


「そこで、その刑事さんから詳しいことを聞かされたのよ・・・、あいつがソープランドの女の人に夢中になって、それでその人の男に危害を加えたって」 
「ひ、ひどい!追島さん、ひどすぎる・・・」
僕はカタカタと震えながら、お慶さんを見つめていた。

「ひどいでしょ、さすがに私も頭の中が真っ白になってしまってね、留置場の中にいる追島とガラス越しで会った時、本当に悔しい気持ちがこみ上げてきて・・・」


(あなたがここに入ったその時ね、ユキ、また肺炎になりかけて、救急車で運ばれたのよ)
追島さんはお慶さんから話を聞くと
(ユ、ユキが?おい、ユキは、ユキはそれで・・・)
ガラスごしに青ざめた顔をうかべた。
(ユキのこと、もうあなたに話す必要は・・・、無いんじゃない)
(な、何!何言ってんだ慶、ユキは無事なのか?)
(それじゃ、最後に教えてあげます。ユキは先生の処置のおかげで無事にしています。)
(はあ、そうか・・・、よ、よかった・・・)
追島さんは静かに頭をさげたあと、お慶さんの顔を見てはっとした。
彼女の目からは大粒の涙がとめどなく流れていた。
(慶、すまない、本当にすまなかった)


「彼は、留置場のガラスごしに必死に頭をさげていた。でも、私は・・・、彼を許せなかった。そして私は泣きながら彼に・・・」
 
(もう、だめ・・・、私、あなたの事を・・・、もう愛せない)
(!?)
(ユキは私一人で育てます・・・)


「追島はガラス越しに戸惑いの顔を見せたあと、ぐっと頭をさげて黙っていた」
お慶さんはそうつぶやくと同時に、さっと僕達に背をむけ
「さあ、つまらない話はこれで終わり、終わり・・・、そうだ、おいしい手作りケーキがあるから食べてみて」
気丈に振舞いながらケーキの用意をはじめた。
しかし、僕とめぐみちゃんには、背中ごしにお慶さんが、泣いているのがわかった。
 
「お慶さん・・・」
めぐみちゃんもそんなお慶さんの背中を見ながら泣いていた。

「ひどいよ、追島さん、ひどすぎるよ」
僕がそうつぶやいたそのとき、隣で話を聞いていた栄二さんが首をかしげながらお慶さんに声をかけた。 
「あら?それだけ?お慶ちゃん」 
「えっ!?」
僕とめぐみちゃんはきょとんとした顔で栄二さんを見た。
「それだけって、何?」
お慶さんもむっとした顔で振り返った。

「栄ちゃん!それだけって、何よ!?そんなひどいことされれば、お慶さんだって怒るにきまってるでしょ」
「あら、、めぐっぺ、私が言いたいのはそういう意味じゃなくて、追島ちゃんがどうして、そのソープ嬢のヒモ相手に事件を起こす事になったか、それを聞いてるんじゃない」
お慶さんは栄ちゃんの言葉に不思議そうに目を見開いた。
「お慶ちゃん、だってあんた、追島ちゃんが喧嘩した相手知ってるんじゃないの?」
「え?警察の話では相手はヤクザだって、それだけで詳しくは・・・」 
「えー!?それじゃあんた、知らなかったの?」
 
「知らなかったって?ちょっと栄ちゃん何?」
「追島ちゃん、あんたに大切なこと何も話してないの?」
 
「大切なこと?」
お慶さんが戸惑いの顔を浮かべたそのときだった。

カランカラン
入り口のドアが開き一人の見覚えのある男が入ってきた。 
「あっ!」
僕は思わずその男を指差してさけんでいた。
それは、お慶さんの婚約者、沢村研二だった。
 
「け、研二さん!」
お慶さんは沢村の顔を見て、何故かいっしゅん申し訳なさそうな表情を浮かべた。
沢村はそんなお慶さんの事を、青ざめた氷のような目でじっと睨みすえていた。

つづく

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました^^
※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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