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侠客鬼瓦興業74話「ソープランドに行くなんて許せない」

どれくらい泣いたか・・・、僕が我に帰ったとき、奥にいた数名のお客さんの姿はなくなっていた。
「あ!」
思わず飛び出した僕の声にお慶さんが
「あら、やっと泣き止んだのね、えっと吉宗くんだったっけ」
「す、すいません」
「ふふふ、まったく面白い子ね、君って」
「お、おもしろい・・・ですか?」
「面白いじゃない、昨日の縁日でもそうだったけど、何ていうか心が熱いっていうか、ふふふ」
お慶さんはうれしそうに僕を見た後、隣のめぐみちゃんに
「ところで、さっきから気になってたんだけど、めぐみちゃん、あなたこのお兄さんとどういう仲なの?」
「えっ?」
「えじゃないでしょ、めぐみちゃん正直におっしゃい」

「あ、あの・・・、実は、私の大切な人、なんです」
めぐみちゃんは恥ずかしそうに微笑むと、そっと僕の腕に手をまわした。
「大切な人!?まあ言うじゃない」
お慶さんは目を大きく見開くと、改めて僕の顔を真剣に見た。 
「確かになかなかの男前だけど、でも、めぐみちゃんにここまで言わせるなんて、ねえ君どんなマジック使ったわけ?」
「ま、マジック?」
「そうよ、このお堅いめぐみちゃんをどんな手を使って口説いたわけ?」
「口説くって、別に、その」
 
「お慶さん!!」
めぐみちゃんは少し怒った顔で立ち上がると 
「別に私は吉宗君に口説かれたわけじゃありません」
「えー?」
「吉宗君に出会った瞬間から、この人は運命の人だって・・・、そう思って」
「運命の人!?」
「あっ!!」
めぐみちゃんは急に恥ずかしそうにうつむいた。お慶さんはそんな彼女をうれしそうに見た後、いたずらな顔で僕を見ると
「めぐみちゃんに運命の人なんて言われちゃって、あなたすっごい幸せものねー」
その言葉に僕もあわてて立ち上がると
「は、はい!すっごい幸せ物だと思ってますです!」
直立不動でそう叫んでいた。

「あらまあ、自分から幸せ者だなんて素直だ事」
お慶さんが笑うのを横目に、めぐみちゃんはそっと僕にささやいた。
「吉宗くん本当?本当に幸せって思ってる?」
「あ、あったり前じゃないか、めぐみちゃん」
「うれしい・・・」
ホンワカ~
僕とめぐみちゃんはお慶さんやみんなが見ていることも忘れて、ピンクのお花畑の背景を背に見詰め合っていた。
「まあ、二人そろって幸せいっぱいだこと・・・、まいっちゃうわね、ねえ栄ちゃん」
お慶さんは笑いながら栄ちゃんを見た。しかしそこには四角い顔を引きつらせながらピンクのハンカチを噛み締めている女衒の栄二さんの姿が・・・ 
「なーにが幸せいっぱいよ、勝手に背景に花畑なんて浮かばせちゃって、冗談じゃないわよ!」
「え?」 
「ヨッチーちゃんのことを心から愛しているのは、めぐっぺだけじゃなくてよ、私だって出会った瞬間に運命を感じちゃったんだから、それなのに、キーく、悔しい!」
栄ちゃんは僕とめぐみちゃんの幸せそうな姿を見ると、噛み締めていたハンカチをガリガリ食いちぎり、ついにはペロッとすべて飲み込んでしまった。
お慶さんは、冷や汗を流しながら
「ははは、栄ちゃんまで、複雑な三角関係だったのね」
呆れ顔で笑ったあと、僕のことを真剣に見て 
「でも、君」
「あ、はい」
「めぐみちゃんは私にとって、妹同然のとっても大切な子なんだからね、泣かせたりしたら承知しないわよ」
「は、はい!!」

「そんな事言って裏切って変なところ行ったりしてないでしょうね?」
「え!?変な所とおっしゃいますと?」
「この店の周りにある、ちゃらちゃらしたネオンのお店とかよ」
「んぐ!?」
僕は思わずがちがちに固まってしまった。お慶さんはそんな僕を見て楽しそうに 
「まさか行ってないでしょうね、お風呂屋さんなんて」
「お、おお、お、お風呂!?」
「そうよ、お風呂、ソープランドよ」
「ソ、ソーーープって、あ、い、いや、あの、あの・・・」
「何、、どうしたの?急にしどろもどろしちゃって」
お慶さんがいたずらな笑顔で追及してきたそのとき、隣にいためぐみちゃんが大声で 
「お慶さん!」 
「えっ?あら、めぐみちゃん、どうしたの真っ赤な顔して」
「真っ赤じゃないです、吉宗君はそんなところに行くような人じゃありません!!」 
「それはどうかしら?だってこのくらいの男の子って行きたいんじゃない、そういうところ」
「い、行きたいかも知れないけれど、吉宗君は私と約束してくれたんだから、絶対にそんな所には行かないんです!」
めぐみちゃんはそう言うと真剣な顔で僕を見た。
「ね、そうでしょ?吉宗君、私との約束を破ってお風呂屋さんなんて行ったりしないよね」 
「えっ!あ、当り前じゃないか~、はははは」
僕はそう言いながらも彼女の顔がまぶしく、思わず目をそらした。

(ご、ごめん、ごめんよ・・・、めぐみちゃん)

「やっぱり愛する人がソープランドなんて行ったの知ったら、許せないでしょ、めぐみちゃんも」
お慶さんはむっとした顔で腕を組むと、めぐみちゃんにそう尋ねた。
僕はそんなお慶さんの怖い顔をこっそり見た後、今度は恐る恐る隣のめぐみちゃんを見た。するとそこにも、お慶さんと同じ怖ーい顔のめぐみちゃんが立っていたのだった。
そして、めぐみちゃんは一言 
「ぜーったいに、許せないです!!」 
「・・・ぐっ!!」 


僕は冷や汗を流しながら無言でめぐみちゃんを見ると、ふっと昨夜銀二さんが言った  
(風呂に行ったこと間違っても、めぐみちゃんに話したりするんじゃねーぞ)
そんな言葉と、その後の銀二さんとの会話を思い出した。


(バカ正直なお前の事だからよ、白状せずにいられなくなっちまって口滑らすんじゃねーか、ちょっと心配になったからよ)
(それはもちろん、僕だって言いません)
(あれは一夜の夢だ、若頭も明日になったらその話には絶対に触れねえし、鉄には後で釘をさしておくからな)
(はい、お、お願いします) 
(俺も追島兄いの二の舞は、もう御免だからよ) 
(は、はい・・・、え!?) 
(追島さんの二の舞っていったい?) 
(さっきの話の途中だがよ、追島の兄いがお慶さんと別れたきっかけ、俺が風呂に、つまりソープランドにさそったのが原因なんだよ)

・・・・・・・・・

「あっ!」
(そうだ!そう言えば銀二さん、追島さんとお慶さんが別れた原因がソープランドだって!) 
「あの、お慶さん・・・、聞きたいことが」
気がつくと僕は、お慶さんに尋ねていた。

「あら、なに吉宗くん、急に真剣な顔をして」
(いけない、こんな失礼なこと、それにめぐみちゃんの前でこんな話題は危なすぎる)
そう思った僕は、思わず言葉をにごした。
「あっ!?いや、何でも無いです、はい」
「何よどうしたの?遠慮しないで言って御覧なさい」
「えっ!でも、あの、失礼すぎる事なんで、だから・・・」 
「何?吉宗君、失礼って?」
「め、めぐみちゃん!いや、なんでも」 
そんな僕の様子にお慶さんはむっとした顔で
「ちょっと、そんな中途半端に終わらせられたんじゃ気になって仕方ないでしょ、この際何でも気にしないで話してご覧なさいよ」
「で、でも」
「話しなさい!!」
「は、はい!」
お慶さんに叱られ、僕は思っていることを思い切って話し始めた。

「あの、お慶さんと追島さんが別れた理由って本当にソープランドが原因なんですか?」 
「えー!?」
お慶さんは一瞬目をぱちぱちさせながら僕の顔を見た。

「あー、すいません。変なこと聞いたりしちゃって、いいです、こんなこと答えなくていいですから、ははは」
僕は手をバタバタさせてごまかそうとした。
ところがお慶さんは、真剣に僕を見ると 
「だれ?・・・銀ちゃん?それって銀ちゃんから聞いたわけ?」 
「あ、いや、あの」
「隠さなくってもいいわよ、やっぱり銀ちゃんでしょ」
「は、はい」 
お慶さんは僕の返事に、思わずくすくすと笑い出した。そしてしばらくしてそっと目をとじると 
「あの子まだ気にしてるんだね、あの時のこと・・・」
小さな声でそうつぶやいた。

「あの時って・・・」 
「銀ちゃんが鬼瓦興業に入ってきたばかりのころだったかな」
お慶さんは遠くを見つめながら静かに話をはじめた。

「そう、府中の競馬場で、たしか天皇賞だったかな・・・、追島のやつすごい万馬券当てちゃって、たまたま一緒にいた銀ちゃんがね」 
(うおー、すっげえ追島の兄い、配当三万二千円、すげえ、すげえ、大万馬券じゃねえっすかー!)
(おう、どうだー銀二、俺の実力思い知ったかーははははーー!)
(すっげえー追島の兄い、ねえねえ、ご祝儀でいいとこ連れてってくださいよー)
(いいところ?)
(いいところって言えば、すべるすべるしか無いでしょう、兄い、いよっ太っ腹!) 
 

「そんな訳で追島のやつ、銀ちゃんを連れて、この川崎に繰り出したんだって」 
(それって、何処かで見たパターンだ・・・。うぐ・・・)
僕は思わず、昨夜の高倉さんと銀二さんのそっくりな会話を頭に浮かべた。同時に青い顔でお慶さんに訪ねた。

「あ、あのー、お慶さん」
「何?」
「それで追島さんと銀二さんは、もしかして、ソ、ソープランドに?」
「ピンポン、正解!」
お慶さんは眉間にしわを寄せながら、僕に指をさした。 
「あの、それが原因で追島さんと・・・ですか?」
「そう、そう言う事・・・、だってさ私というものがありながら、そんな所に行くなんて絶対に許せないじゃない」
「やっぱり許せないですか?」
「当たり前じゃないの、ねー、めぐみちゃん・・・、貴方だってもし吉宗君がそんな所に言ったってしったら絶対に許せないでしょ?」
お慶さんはめぐみちゃんを見た。同時に僕も恐る恐る彼女の様子を伺った。

「吉宗君が、ソープランド!?」 
めぐみちゃんは真剣な顔で僕を見ると、ぐっと怖い顔で
「許せないです!私も絶対、絶対、ぜーったいに許せないです!!」
そう叫んだのだった。

(ぐわー!やっぱりそうだよなー、知らなかったとはいえ、もしも昨夜のこと、めぐみちゃんにばれたりしたらいっかんの終わりだー!)
僕は額から数本の青筋をたらしながら、心の中で恐怖におののいていた。
と、そこへお慶さんが 
「分かった?吉宗くん・・・、そう言うわけだから、間違っても君はそんな所行ったりしちゃダメだぞ」
そう言うと僕の肩をぽんぽん叩いて、めぐみちゃんに分からないように小声で
「これから先は、絶対にね・・・」
こっそりささやきながら意味深なウインクをした。
(えっ!?) 
同時に僕は、昨夜ここへ来たときの僕たちが、明らかに以前の追島さんと同じそんな雰囲気をたーっぷり醸し出していたのに気が付いた。 
(お慶さんは、僕たちが昨夜ソープランドに行ったこと、すべてお見通しなのか!?)
僕は背中に寒ーいものを感じながら、真っ青な顔でお慶さんの事を見ていたのだった。

つづく
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました^^
※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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