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音声(ボイス)を録ってくれる会社なのですか?

答:はい。コトリボイスはお客さんから注文を受けて、ゲームソフトに登場するキャラクターの声やプロモーション動画のナレーションを提供しています。"音声制作(音響制作)"という仕事です。今回はこの仕事を説明します。

これまでの記事は、声優や声優志望の方、また声優の世界に興味のある人たちを対象にしてきました。一方で今回は、映像作品のディレクターさんや個人、少人数でアニメやゲームを作られているインディー系クリエーターの皆さんに向けて書かれています。ご自分の作品にキャラクターボイスやナレーションを入れたい、と思ったことはありませんか?この記事を読んで、ご希望通りの音声を手に入れるまでの過程をイメージしてもらえれば嬉しいです。会社のPRになってしまうと面白くないので、出来るだけフラットな視点で書こうと思います。やや長い記事になりますが、最後までお付き合いください。

アニメーション作品のアフレコや洋画の吹き替えを録音する会社があります。あまり一般の方には馴染みがありませんが"音響制作”会社と呼ばれています。お客さんのリクエストに応じてキャスティングをして収録。編集した音源データを提供してくれる会社です。面倒な権利関係の処理も引き受けます。

よくアニメやゲームを作っている方に見られるのが「ボイスを入れるなら声優プロダクションに相談すればいいんでしょ?」という誤解です。"声優プロダクション"は、あくまでも声優をマネジメントする事業会社です。キャスティングや音声収録は専門外で、音響制作会社からの依頼を請けて声優を派遣することが主な役割です。ですから、ボイスを入れたい時は声優プロダクションに依頼するのではありません。この"音響制作"事業を行っている会社に依頼することになります。

音響制作会社を経由して、各キャストの所属する声優プロダクションに出演が打診されます。どんなキャスティングを実現したいのか、先ずは窓口である音響制作会社によく相談してみましょう。(ただし、声優プロダクション事業と音響制作事業は一つの企業が両方をカバーしているケースもあります。コトリボイスも例外ではありません。この点のメリットやデメリットについては、次回の記事で詳述したいと思います)

厳密に言えば、BGMや効果音まで、サウンドトラックの全てを含むのが"音響制作"なのです。しかしながら、音声だけを扱う仕事も"音響制作"と呼ぶのが慣例になっています。BGMや効果音についての知識がゼロの"音響監督"もたくさんいらっしゃいます。この点も紛らわしい。多くの誤解を呼んでいます。そこで選曲や音響効果の専門家の方に敬意を表して、本稿では音声を中心に扱う仕事を"音声制作"と呼びたいと思います。これから、この"音声制作"という仕事のお話をします。

最初は、皆さんの一番気になるところ。「一体いくらかかるの?」というお話から始めましょう。

あなたはゲームを一本作りました。メインのキャラクターがニ体。幕間に寸劇が入るのですが、これにボイスを付けたいと思います。全編を合わせると、各キャラクターそれぞれ200個(200ワード *脚注をご参照ください)のセリフを喋ります。さてこのボイスを導入するために、予算をいくら用意しましょうか?

A. 百万円/B. 十万円/C. 一万円

Aを選ばれるのはかなり予算の大きなプロジェクト、もしくはご自分の作品が大ヒットすることを確信されている方だと思います。有名な声優の方を呼んで、大きなスタジオで収録が出来ます。出演料は一人あたり数十万円。出演交渉やブッキングの手数料も掛かります。スタジオの利用料やスタッフの人件費は一時間あたりニ〜三万円で、 二人分で四~八時間の収録を行います。編集料金も含めると、ちょうど百万円くらいですね。

価格例A)キャスト費用:30万円 x 2名/収録費用:3万円 x 4時間/編集費用:6万円/キャスティング・管理費用:20万円 = 98万円

続いてCのケース。近頃は便利なツールが次々に生まれ、自分の声を録音して編集することはとても身近になりました。いわゆる”宅録"です。ご自宅で自分の音声を録って楽しまれているアマチュアの方も多く、たとえ無報酬でもボイスを提供してくれる方々はたくさんいらっしゃいます。各種クラウドソーシングのサービスやSNSで募集するのがよいでしょう。キャストの方々と直接やり取りすることになるので、一緒に作品を仕上げる空気が生まれ易いと思います。これも一つの醍醐味ではないでしょうか。

価格例C)声優への謝礼:5,000円 x 2名 =

最後にBのケース。松竹梅の竹コースです。有名でなくとも、上手なプロの声優が呼べます。そして、小さいながらも本物のスタジオで収録が出来ます。本職のスタッフが対応します。派手ではなくとも、プロフェッショナルのクオリティを求められている方。コトリボイスのサービスは、そういった方々に向けられています。

価格例B)キャスト費用:2万円 x 2名/収録費用:1万円 x 4時間/編集費用:3万円/管理費用:3万円 = 14万円

すみません!10万円は少し言い過ぎました。少し足が出てますね…。こここからは"竹"コースを例に、音声制作の課程を解説します。最初はキャスティングから。

自分で作ったキャラクターに声を付けたい。さて、どんな声にしましょう?真っ先に思い浮かぶのは、好きなアニメのキャラクターではないでしょうか。あのアニメのあのキャラの声なら、このキャラにもピッタリなはずだ。声優は〇〇さんか・・・それじゃ○○さんに自分のこのキャラも演じて貰おう・・・最もシンプルな発想だと思います。

人気アニメのキャラクターを演じるような有名声優の方は、とてもお忙しいです。スケジュールも過密です。何にでも出演してくれるわけではありません。仮に出演OKでも、出演料はとても高くなります。人気アニメのメインキャラクターを務めるような方は、一言喋ってもらうだけでも基本料金の二十~三十万円掛かることがあります。

出演料はセリフの量や拘束時間が増えれば高くなります。概ね基本料金は一時間の拘束、100ワードのセリフを想定しています。これを超える場合は、依頼する分量に応じて料金が加算されます。

その他にも、ゲームであればリリースする媒体(PCやスマホ、各種コンシューマ機)や配信する地域(日本国内だけか、世界中か)で出演料が変化します。例えば日本国内だけでリリースされる場合は二十万円、世界中でリリースされるとなれば+50%の三十万円。何故でしょうか?

お客様から頂戴した"キャスト費用"。提供されるのは、あくまで"音声を使用する権利"なのです。決して"音声"そのものが丸ごと販売されるわけではありません。あらかじめ定められた範囲内でのみ、ボイスを使用することが許諾されます。例えば無断で別の作品に使い回すなど、自由に使ってよいわけではないのです。絵や音楽、効果音などの素材集にも"使用規定"はありますよね?それぞれの素材は、作った人のモノです。音声は、声優さん自身のモノ。ご留意いただければと思います。(もちろん権利を全て買い上げる契約も可能ですが…とても高額になります)

新人声優の方の基本料金は、一万五千円です。業界の標準価格として広く認められています。上記の竹プランでは200ワード=2時間の収録を想定し、二万円に設定しています。どうでしょう。このくらいであれば、手の届く範囲ではないでしょうか?有名な作品に出演している人気声優の方と違い、名もなき新人声優の方がどんなお芝居をするのか、よく分からないと思います。果たして、誰が自分のキャラクターに相応しいのか?プロダクションのホームページでは所属声優のサンプルボイスを参照できますが、そうそう簡単にピッタリ合うものは見付かりません。

そんな時は、"オーディション"をお薦めしています。オーディションと言えば、テレビ番組の企画を思い出しますよね。胸にエントリー番号を付けた若い女の子や男の子が、偉そうな人たちの前に順番に出て来るとっていう。もちろん、そんな本格的なオーディションを開催するのは大変です。お金も時間も掛かります。

私がお薦めするのはオーディションの中でも、"テープオーディション"という方法です。予めキャラクターの代表的なセリフをいくつか選んでおく。そのセリフを、エントリーを希望する声優の方々が自身のスマホや宅録で(もしくは弊社スタジオまで来て貰って)収録し、弊社へ送ってくれます。各キャラクター毎に数名~数十名の候補者の音声サンプルを聴き、一番自分のイメージ近い候補者をキャストとして採用することが出来ます。

人気声優の方を指名しても「何だか思ってたのと違うな」というケースは少なくありません。しかし"テープオーディション"で選んだ場合は、その心配が不要です。これまでのお客さんには、確実にご満足をいただけています。しっかりキャラクターに生命を吹き込むことが出来る、お薦めの方法です。

以上がキャスティングのお話でした。人気声優の方と出演交渉をしたり、オーディションの手配をするのは手間が掛かります。また、キャストが決まったらお客さんやスタジオ、スタッフともスケジュールを調整したり、台本を作って配ったりしなければなりません。これも、人手の要る作業です。"キャスティング&管理費用"として予算に計上されているのは、これらを担う費用です。お仕事のご相談をいただくところから、ご希望の形式でデータを納品するところまで、お客さんの身近でサポートをするのが"音声制作"の仕事です。

さて、キャストも決まり台本も準備、スケジュールも調整出来たので、無事に収録当日を迎えることが出来ました。コトリボイスは主に自社のスタジオで収録を行っています。

一階がオフィススペースで、地下にスタジオがあります。静かなのはもちろん、夏は涼しく冬は暖かいです。

収録ブースは畳三畳分くらい。二人でラジオを録ったり、三人で吹き替えを録ったりも出来ます(コロナ禍では複数人の利用を中止しています)。近頃はダミーヘッドマイクも導入し、バイノーラル録音も出来るようになりました。

コントロールルームです。Macには業界標準の録音編集ソフトProtoolsが入っていて、音の出入り口オーディオインターフェースはドイツの名機UCXです。音声収録に特化したスタジオなので、機材類は至ってシンプルです。

お客さんには、ミキサー席の隣でご監修をいただけます。備え付けの窓を通して、ブース内の様子もよくご覧いただけます。コロナ禍ではオンラインのご監修を推奨していますが、スカイプやZOOMを使えば中々クリアに聴こえますよ。

さて、無事に収録が完了しました。収録された音声データは、編集に回されます。唇のノイズやマイクに空気が当たった音などを処理し、聴き易くなるように音量や音圧を一定に調整します。ゲームの場合は台詞を一つ一つ切り分けて、お客さんが指定したファイル名を付けて整理します。

地階のMacに加えて一階にも二台あり、いずれもProtoolsとiZotopeのRX8がインストールされています。これは色々なタイプのノイズに対処できる最新のソフトです。一昔前はノイズが混入したら録り直しだったケースも、現代では編集で取り除けてしまうのです。技術の進歩はすごい。完成したファイルをお客さんに送り、OKが出れば納品完了。スタッフの皆さん、どうもお疲れさまでした。

以上で"音声制作"という仕事の流れは、一通りご理解いただけたと思います。こうしたサービスを行なっている事業者は私たちだけでなく、日本中にたくさんあります。ぜひご希望に添った制作会社を探してみてください。とにかく安い会社、親身になってくれる会社、得意な分野もそれぞれ異なります。大手の制作会社さんは、たくさんのスタッフを擁し、広いスタジオを構えてテレビアニメや大作ゲームをバンバン録っています。一方で、私たちの会社はスタッフも少ないし、大きなスタジオもありません(必要な場合は借りています)。大手の制作会社さんが扱わない小さな仕事でも、面白そうな作品であれば、どんどん手を上げてやらせて貰っています。(ごく一部ですが)コトリボイスがお手伝いした作品はこちらでご覧いただけます。

ホームページでもはっきりとアピールしている通り、コトリボイスはインディー作品の音声制作を得意にしています。お一人や、もしくは少人数のチームで作られるゲームやアニメのことです。決して趣味の集まりではなく、一方では大きな組織が生み出す商品でもなく。その狭間の作品。インディー作品が大好きな創業者、私の趣向です。

中学生の頃はTRPGやボドゲのイベントに出かけ、高校生になってからはパソケットや武尊(タケル)で同人ゲームを物色していました。一人でゲームを完成させるのは大変だと気付き、近所の国立大学のサークルに押しかけました。自分の参加したゲームがテクノポリスに載った時はメチャメチャ嬉しかったですね。まだインターネットはおろかWindowsすら出回っておらず、NECのPC-98で動くソフトを5インチや3.5インチのフロッピーディスクに焼いていた頃です。二次創作ではなく、いわゆる”オリジナル”と呼ばれていた一次創作のオタクカルチャーの中で過ごしてきました。今でも、一次創作の同人誌即売会”コミティア”だけは出来るだけ時間を作って通っています。

あの熱量や、ワクワクする感じ。クリエイターの個性がストレートに現れるので、尖った作品や挑戦的な作品がどんどん生まれます。商業的に成功する作品は極一部ですが、お金には代え難い価値があります。そういう作品を"音声"の面からサポートしたくて、私はコトリボイスというチームを作りました。

ボイスを付けたらもっと面白くなるんじゃないかな!という作品を見付けると、居ても立ってもいられず・・・こちらからお願いしてコラボさせて貰ったこともあります。こんな取り組みも、どんどん重ねてゆきたいですね。

ひと頃に比べれば「声優さんにボイスを入れてもらう」ことは随分と身近になりました。長編のノベルゲームでなくともいいんです。キャラクターをちょっと動かした時に、掛け声があると操作が気持ちいい・・・そのくらいで構いません。試しに声を入れてみませんか?ご相談をお待ちしています。(つづく)

* 一つながりのセリフを1個として"○ワード"と数えます。セリフが200個=200ワードですね。アドベンチャーゲームではクリックする度にテキストが切り替わるので、数え易いと思います。「あ・・・」でも1ワード。2~3行あっても1ワード。あまりに長いのは分割して数えます。100ワードを一時間で収録するのが標準的なスピードです。



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