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台湾の日式建築が危機に瀕する?当世老建築保存事情~保存の前に立ちはだかる数々の問題

日本における台湾人気はいまだ衰える気配を見せない。テレビ番組で台湾特集が組まれれば、多くの台湾ファンがテレビにくぎ付けになる。そんな台湾ではこのところ、日本統治時代を中心とした老建築を保存・修復・活用する動きが非常に活発になっている。

このようなニュースを見ると多くの日本人が「台湾人は日本の建物を大切に守ってくれている」「さすが親日」といったコメントを寄せてくるのだが、実は日式建築の保存は思ったよりも難しい問題をはらんでいる。

先日、このような記事を目にした。

引用元は、クーリエジャポンの2月15日の記事。実はこのところ、台湾の日式建築ファンの間で、台中の天外天劇場という日本統治時代に建てられた劇場の取り壊し問題がホットな話題になっている。

これを見ると、行政当局はこの建物を文化財に指定しようとしたものの、地権者が猛烈に抵抗していることが分かる。実は、日本向けのニュースで華々しく「〇〇という町で新たに日本家屋の修復を終え、公開されますorカフェやレストランとして営業を始めます」というのを見るが、その陰で、地権者が文化財指定を拒むケース(日本でも同様の問題は多いらしい)、公有地ゆえに破壊は免れているものの、修復・保存の見通しが立っていない日式宿舎なども少なくない。

筆者は、台湾各地に残る日本家屋を見るのが趣味で、それなりの数の建物を見てきたつもりだが、建物が荒れ放題になっているものもあれば、修復が終わっているのに、利用法やテナントが決まらないためか、公開に見通しが立たないものある。(表紙の写真は、花蓮市にある「台鐵花蓮管理處處長官邸」。これも修復が終わっているにもかかわらず、公開の見通しが立っていない)

地権者の言い分ももっともな面がある。不動産は高く売ったり、効率的にリースしたりして収益を上げてナンボの世界。文化財に指定されたら、利益はほとんど期待できない。建物に手を入れることにも厳しい制限がつけられ、よほどその建物に思い入れがあり、採算を度外視して守ろうとでも思わないと、さっさと売却したり、新しいビルを建てたりしたくなるのも理解できなくはない。

つまり、台湾で日式建築が数多く残っているのは、おもに地方自治体が非常に熱心に修復・保存に取り組んでいることと、地権者などの関係者、そしてそこに入るテナント業者の多大なる理解と協力があってはじめて実現するものなのだ。それを思うと、改めて「台湾の皆さん、使い勝手が悪く、維持費用も修復費用も非常に高くつく日式建築を残してくださってありがとうございます」という気持ちに立ち戻ることになるだろう。

台中・天外天のケースは不幸な実例になってしまったが、われわれ日本人の側も、ただ感謝するだけでなく、日式建築を守り、活用することに積極的にかかわっていく必要があるかもしれない。台湾の日式建築は、台湾人の歴史であるとともに、日本人の歴史の一部とも言いうるのだから。

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(同じ台中市内で今も往時の雄姿を残す旧台中駅舎。こちらは幸運なことに再利用計画が着々と進行している)

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