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1日の予算2500円で25ヶ国巡って多様性を体感した大学生の話 【週刊新陽 #148】

新陽高校が掲げるビジョン2030『人物多様性』に基づき、年に数回行っている『多様性対談』。多様な生き方や価値観に触れることで生徒が多様性についての感度を磨いてくれたらと、毎回個性的なゲストをお招きしています。

2月2日(金)の全校集会に来てくれたのは、2022年9月から翌年6月までの10ヶ月間で世界一周した馬越陽明(うまごえ ようめい)さん。

今週は、多様性対談で伺った内容のレポートです!


世界一周したワケ

馬越陽明さんは、東京都世田谷区出身の22歳。子どもの頃からクラブチームでサッカーに打ち込み、将来はプロになることを目標にしていましたが、高校生の時に度重なる怪我と手術でサッカー選手になることを断念。

高校を卒業し明治大学に入学した2020年は、折しもコロナの感染が拡大し、様々な社会活動が制限されていた時期でした。次の目標が見えないまま、何をするでもなく過ごしていた時に参加したのが元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが主催するプログラム。

それがオンラインと対面のハイブリッド形式で行われ、愛媛県の今治で行われたリアルイベントに参加した時、「世界一周したことがある」という魅力的な大人たちと出会います。

「コロナ禍に世界一周している学生は少なそうだから面白いのではないか」という気持ちと、純粋に「世界中に友達が欲しい」と思ったことが、世界一周を決めた理由でした。

ちなみに馬越家はお母さんが高校時代にブラジルへお兄さんはメキシコやスペインへ留学した経験があったり、ドイツ人留学生をホームステイで受け入れたりと、海外と距離感が近い環境で育ったことも、陽明さんを旅に向かわせたのかもしれません。

行く!と決めてからは即実行。アルバイトと家族からも少し援助してもらって資金を貯め、ルートもゴールも決めず、2022年9月日本を経ちました。

旅で経験したこと、感じたこと

最初に訪れたのはフィリピンで、このあと世界一周することを考えると多少は英語が話せたほうがいいな、と考え3週間の英語留学からスタート。

そこから、現地のNGO団体や社会起業家、また自分と同じようにバックパック旅行をしている若者たちと出会いながら、ベトナム、インドネシア、カンボジア、タイ、ラオス、とアジアを西に進んで行きました。

北半球の季節は冬。このまま西に行くとアウターを買わないといけないな・・・と思った陽明さんは方向を変え、南アメリカに行くことにします(この発想が面白い・笑)。

なお、とにかくディープなところに行き現地の生活を体験するために陽明さんが自分で決めたルールがこちら。

・SIMカードを買わない
・そこでしかできないことをやり続ける
・誘われたら全部行く

馬越陽明流「旅のルール」

このルールに従って、五感をフル稼働しながら様々な文化に触れました。

ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、さらに中央アメリカのパナマ、コスタリカ、ニカラグア、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ、メキシコと、中南米の国をほぼ網羅。

中でもブラジルは3ヶ月も居たそうです。理由の一つはお金がなくなってしまったこと、もう一つは自分にとってすごく居心地が良かったこと。働く代わりにホテルに泊めてもらい、自分で作ったブレスレットを売って食費や旅費を稼ぎました。

ちなみにフィリピンで学んだ英語は中南米で全く役に立たず(笑)。ポルトガル語が公用語のブラジルでは、最初はサッカーできっかけを作りながら、とにかく話しかけたとのこと。次第に友達や恋人ができて話せるようになりました。語学力のアップには親しい人を作るのがいちばんの近道、というのは古今東西変わらないようです。

またサッカーなどのスポーツ、それからダンスと音楽は世界中で共通の言語で、それができる人は強い、と話してくれました。

その後、ヨーロッパではフランスとイタリアに行きました。宿泊費込みで1日@2500円で過ごしていた陽明さんにとってパリはハードルが高く、それまで滞在した国と先進国(特に都市)との格差を体感したそうです。

そこからアフリカに移動し、ケニアのサバンナで大自然を体験。マサイ族に会いに行って一緒にサッカーをし、身体能力のすごさにも圧倒されました。

最後にインドで日本と全く違う暮らしや社会制度に触れ、人の営みや人の命について価値観が揺さぶられる経験をして、2023年6月末、日本に帰国。世界一周、25カ国を巡る旅を終えました。

(写真提供:馬越陽明さん)

「自分」があるから「多様性」になる

半年ちょっと経ってあらためて旅を振り返り、今なにを思っているか聞いてみると、「一歩出れば、全く違う世界がある」と。

知らない世界があること、そしてそこへ踏み出すことを大抵の人は不安に感じてしまいそうですが、陽明さんはむしろそれを「希望」として捉えているようでした。

高校時代、周りの友達と合わなくて自分の居場所がないと感じた時期もあったそうです。でも大学に進んだり違うコミュニティに入ったりして、他にも居場所はあると思うようになりました。

さらに旅を通して、全然違う世界があることを実感し、自分の当たり前が通じない社会でその社会の当たり前を理解することの大切さを知ると同時に、居場所は必ずどこかにある、と確信したと言います。

少し視野を変えて一歩踏み出すだけで、自分自身のものの見方も変わっていった。今いる場所が居心地が悪くても誰も自分のことを分かってくれないと思っても失望する必要なんてない、と。

また、大自然や地球の大きな力を感じると同時に、人間が持つ「考える力」についても意識するように。もし敷かれたレールを行くとしてもそうすることを自分で決めたのならいい、大事なのは自分でちゃんと考えること、と話してくれました。

多様性も「自分」があるから成り立つ。個が自分の意見や価値観を持たなければ、尊重し合うことも対立することもありません。特にブラジルでは人種やジェンダーの多様性が当たり前で、自分は自分、ありのままでいい、という感覚をブラジルの人たちから強く感じたそうです。

なお、すっかりブラジルの水が合ったらしく、もう1年大学を休学して、4月から1年間ブラジルにある企業でインターンをする予定だとか。

”旅行者”として過ごし楽しい面を知ったブラジルを今度は"働く人"として感じてみたいとのことで、陽明さんにどんな出会いと経験が待っているのか楽しみです。1年後また話を聞けたら、と思っています。

【編集後記】
実は陽明さんは私の親しい友人の息子さんです。以前、彼の経験談を聞いた時、新陽の生徒が年齢の近い"ちょっと先輩"の話をきっかけに越境体験、異文化体験に興味を持ってくれたらいいなと思って登壇を依頼しました。
集会の後「俺、留学しようかな」と言い出した生徒がいるとある先生が教えてくれました。また、帰りがけの陽明さんと廊下ですれ違い「あ、25カ国の人だ!次どこ行くんですか?」と声をかけてきた生徒も。「ブラジル!」と答えると「お土産待ってまーす!」と(笑)。対談を聞いた1・2年次の生徒たちが陽明さんと接したのは短い時間でしたが、この出会いが誰かの何かを変えたかもしれない、と思いました。

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