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《卒業記念インタビュー》 正しさを探し、もがきながら道を拓く。 【週刊新陽 #48】

3月1日、札幌新陽高校の第62回卒業式が行われ、269名の新陽生が旅立っていきました。「自主創造 この道は自ら拓くべし」という校訓のとおり、一人ひとり自分の道を進んでいってほしいと思っています。

卒業にあたって、皆勤賞や貢献賞など様々な賞を授与された生徒がいましたが、中でも『一水(いっすい)賞』という新陽独自の賞があります。

これは、初代校長水沼與一郎先生の雅号『一水』にちなみ名付けられたもので、『成績・人物ともに優れ、模範となる生徒のうち、校長が特に優秀と認めた者』に授与されます。

今年度の一水賞に選ばれた吉居イコロさんに、話を聞きました。

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(初代校長の水沼先生)


「ふさわしい」ということ


-- 『一水賞』の受賞おめでとうございます。選ばれた時の率直な感想を聞かせてください!

最初はとにかく驚きました。そしてすぐにとても光栄だと思いました。

ただ、そのあとじわじわと賞の重みというか・・・なぜ自分が選ばれたのかを考えているうちに、逆にちょっと分からなくなりました。

『一水賞』は、学校の理念に基づいて、それにふさわしい生徒が選ばれるのだろうと思ったんです。一般的な賞の場合、作品があって評価されたり成績の良し悪しで授与されたりしますよね。でもこの賞は単純な優劣ではないのだろうと思った時、賞に対する自分の価値観が変わるような感覚がありました。選んでいただいた理由を、自分で見つけなければいけないと思いました。

「ふさわしい」とか「賞に適している」と評価され、選んでいただいたのだろうなぁと。では、ふさわしいとは何か。今は「偉業を成し遂げた人ではなく、誰よりも道を切り拓こうともがいている人」が選ばれるのではないか、と考えています。

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私が3年間過ごした探究コースは、いわゆる知識を問うペーパーテストがなく、様々な観点から評価されましたし、自分自身の評価も重視されていました。

一水賞に選んでいただいたことで、あらためて新陽での評価軸のようなものを感じ、同時に評価軸は多様であることを実感しました。これから大学に行き、その軸がさらに増えていくことにワクワクしています。

-- 校訓の「自主創造」、探究コースでは「生きたいように生きる」という教育目標として掲げられていますが、どのように捉えていますか。

そうですね。自分が選んだ道で、望む姿が鏡に写っているような生き方ではないか、と思います。鏡を見たときに誇れる自分であるか。

逆に縛られている自分が見えたり、望んでいないのにやっていることもあると思うのですが、そういうものを減らしていくことではないかと思います。

3年間を振り返って。そして、これから。


-- 新陽での3年間はどうでしたか。

入学した頃を思い出すと、とにかく無我夢中でした。一般的あるいは社会的に"正しい”とされるものを信じていましたし、それを一所懸命やっている自分に満足していたところもあったと思います。

例えばSDGsと言われれば、掲げられている課題を扱い、それに向かって行動すれば良かったのでとてもシンプルでした。

ただ、今は真逆です。1年生の夏以降だんだんと、そう思えなくなったんです。シンプルで即行動に移していたのが徐々に複雑になり、考えてから動くようになったというか・・・「この視点でいいのだろうか」と一旦立ち止まってみるようになりました。

今見ているものを真実と捉えすぎないようにしている感覚です。全部を疑っているし、全部を信じている、ような。

思考一つ取っても、今の自分は「正しいもの」を探そうとしています。正しいものなど存在しないと思っている一方で、あると信じたいから探し続ける。到達することは難しいけど、向かうことが大切と思っている自分がいます。ちょっと何言ってるか分からないですよね(笑)。


-- いえ、イコロさんとの会話はいつも哲学対話みたいな感じなので(笑)。以前にも、分からないということが分かる、というような話をしてくれましたね。

2年生になる頃、自分の話すことも考えることも全部、見る視点が変わって信じるものがなくなって、形が崩れてしまった感覚がありました。それを元に戻すのがいいのか分からないし、何をやっても正解じゃない、という苦しみの始まりでした。

分かっていたのは、「分からなくなってしまった」ということ。

私のことをよく知っている友達からは「解決しないから、考えないでとりあえず休みな。」と言われたりしました(笑)。

「考えすぎ」と言われることも多いのですが、考えようとしてやっているのではないのでそれ以外の選択肢はないんですよね。一人で考えて、誰かにちょっと話して、シェアしながら考えて、また一人に戻って、、、の繰り返しです。

そういう点で言うと、オンライン授業は生活形態として私に合うものだったような気もします。だから、「考える時間ができた」というのがコロナ禍での2年間の大きな変化です。

もちろん想像していた高校生活とは違った、という感覚はあります。でも誰の責任でもなく、受け入れるしかないことです。そして、歴史に残るようなパンデミックが自分が生きている時代に起きたことや、一瞬で世界が変わることを体験したのがまだ信じられないような、「不思議」に近い感覚かもしれません。

-- イコロさんはICU(国際基督教大学)に進学されますが、大学ではどんなことを学びたいですか。

知識を得ること、考えることについて学問的視点を取り入れること、人間の心を学問的視点から学ぶこと、これらが大学でやりたいことです。もっと勉強しなきゃって思ってます。

いま自分が考えているのとは違う視点が生まれるだろうという期待は大きいですね。そういう大学を選んだし、行けることになったので、環境を十分に活かして人間というものを見る視点を増やしていきたいです。

ICUでは、入学時に専門とする分野を決めるのではなく、1〜2年次に幅広い分野の科目で学問的基礎力を養い、2年次の終わりに専門とする分野を決定します。

31の分野(メジャー)があるのですが、全部おもしろそう。今、興味あるのは、心理学、言語学、宗教、人文科学、ですが、2年間いろいろ学びながら、進む分野を決めたいと思います。

大学での時間を通して、自分が世界とどう向き合っていけるか考えていきたいので、そこに少しでも近づけるように学べるのを楽しみにしています。

後輩へ。そして新陽の先生たちへ


-- 近年、一般入試よりも総合型や推薦入試で受験する生徒が増えています。総合型選抜で合格した経験者として、そして何より新陽の先輩として、後輩たちへアドバイスをお願いします。

自分が受かったのは、ICUと合っていたからだと考えています。相性で受験を乗り切った感覚があるんです。すごく正直に願書を書こうとしました。そして、それを認めてくれる大学だったから合格したと思っています。

実は、願書の下書きを見てもらった時、先生たちから「これでいいの?」と確認されたこともありました。自分自身も「こうやって書いたほうが受かるかな。」と思う言葉はたくさん浮かんだのですが、「正直に書いてダメなら合っていないだけ」と思ってすべて切り捨てました。願書は”自分を表現する場”と思うくらいがちょうどいいし、それを認めてくれる大学に行けばいい、と。

努力も大事ですが、大学に関しては正直、合う・合わないがあるので、不合格した時には「落とされた」と感じるかもしれないけど、「この子にはもっと合う大学がある、と思って落とした」ぐらいに受け止めればいいと思います。

どの大学であっても、どの道を選んでも、その道を自分で選んだということが一番大事。だから、世の中が決めた優劣を自分の中に持ちこまないほうがいい。総合型選抜の割合が増え、自分で選ぶということが一層求められるようになっている気がします。

でも受験については、アドバイスというより「私がこうした」経験談でしかありません。

むしろ後輩たちに伝えたいことがあるとすれば、なによりも、生きているだけで素晴らしいということです。みんなちょっと頑張りすぎだと思う。学校生活も受験も大事ですが、苦しいことを乗り越えて毎日生きていること、ただそれだけでえらいと思うんです。

それから、受験は親との関係も大事だと感じました。親は子どもの幸せを願っているものなので、自分のためを思って勧めてくれる道はあるし、一方で親に反対されたけど押し切った、という話も友達から聞きます。

成功する道と、幸せになる道は違うかもしれないけど、親の気持ちを理解した上で自分で選ぶことが何よりも大事なのだと思います。出来ればぜひ、ご両親を大切にして欲しいです。


-- 最後に、先生たちへメッセージを。

ただただ感謝してます!

新陽で良かったと思う理由の一つは、先生たちとの出会いです。

みんなの進路が徐々に決まり挑戦が実を結んでいったときに、「新陽だからできた理由はなんだろう?」と、ふと考えたんです。

新陽にいると当たり前すぎて気付かないことで、これが普通だと思っていたのですが、夢物語みたいなことを言っても否定せず、聞いてもらえないこともなく、「どうやったらできるか」一緒に考えてくれる先生たちでした。

それから、人として向き合ってくれた先生がたくさんいたことも、新陽だからだったと思っています。誰かの人生に大きく影響を及ぼすような出来事が溢れている現場にいて、いつも生徒を導いてくださる先生たちを尊敬しています。

先生たちのあのエネルギーはどこから来るんだろう、と不思議に思うほどで、仕事もほどほどに・・・と思ってしまいます。赤司さんも身体を大切にしてくださいね。

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【編集後記】
インタビューの後、「さっき直接言えばよかったのですが」とメッセージをくれました。そこには、「ゆたかさんに続き、赤司さんという、2人も素敵な校長先生に出会うことが出来た3年間で本当に良かったと思います。良いタイミングに良い出会いがある人生で喜びを感じます。」と書いてありました。
私の方こそ、最初に送り出すのがイコロさんたちの学年である幸せに、そしてこの素敵な出会いに感謝しかありません。彼らを見ていると、自分ももっと頑張ろう!と背中を押されます。

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