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『山家集』/『方丈記』/『徒然草』

西行『山家集』

西行像 | MOA美術館 | MOA MUSEUM OF ART

二村山

出でながら雲に隠るる月影をかさねてまつや二むらの山〘383〙

〔時雨〕

長樂寺にて、夜紅葉を思ふといふことを人々よみけるに
 よもすがらをしげなく吹く嵐かなわざと時雨の染むる紅葉を
初時雨(はつしぐれ)あはれ知らせて過ぎぬなり音に心の色を染めにし
月を待つ高嶺の雲は晴れにけり心あるべき初時雨かな〘新古今 570〙
立田(たつた)やま時雨しぬべく曇る空に心の色をそめはじめつる
秋篠(あきしの)や外山(とやま)の里や時雨らむ生駒(いこま)のたけに雲のかかれる〘新古今 585〙
東屋のあまりにも降る時雨かなたれかは知らぬ神無月とは〘山家集 503〙

〔山家落葉〕

道もなし宿は木の葉に埋もれぬまだきせさする冬籠りかな〘山家集 494〙
木の葉散れば
月に心ぞあくがるる深山(みやま)隠れに住まんと思ふに〘山家集 495〙
 (木の葉散れば月に心ぞあらはるる深山隠れに住まんと思ふに)

〔暁落葉〕
時雨かと寝覚の床に聞ゆるは嵐に堪へぬ木の葉なりけり〘山家集 496〙
〔水上落葉〕
立田姫染めし梢の散るをりは紅(くれなゐ)洗ふ山川の水(みづ)〘山家集 497〙
〔月前落葉〕
山おろしの 月に木の葉を 吹きかけて 光にまがふ 影を見るかな〘山家集 499〙

木枯らし
山里は秋のすゑにぞ思ひしる悲しかりけりこがらしの風〘山家集 487〙
暮れ果つる秋のかたみにしばし見む紅葉散らすなこがらしの風〘山家集 488〙
こがらしに峯の紅葉やたぐふらむ村濃に見ゆる瀧の白糸〘山家集 500〙
こがらしにこ木の葉の落つる山里は涙こそさへもろくなりけれ〘山家集 935〙

旅寝する 草の枕に 霜さえて 有明の月の 影ぞ待たるる〘山家集 516〙

〔山家冬月〕

冬枯れの冷(すさま)じげなる山里に月の澄むこそあはれなりけれ〘山家集 517〙
月出づる峰の木の葉も散りはてて麓の里はうれしかるらん〘山家集 518〙

〔月枯れたる草を照らす〕
花に置く露に宿りし影よりも枯野の月はあはれなりけり〘山家集 519〙
氷敷く沼の蘆原風さえて月も光ぞさびしかりける〘山家集 520〙

〔冬月〕

霜(しも)さゆる庭の木の葉を踏み分けて月は見るやと訪ふ人もがな〘山家集 521〙
さゆと見えて冬深くなる月影は水なき庭に氷をぞ敷く〘山家集 522〙

木の間洩る月の影とも見ゆるかな斑(はだら)に降れる庭の白雪〘山家集 526〙
雪埋む園の呉竹折れ伏してねぐら求むる村雀哉〘山家集 535〙
限りあらむ雲こそあらめ炭竈(すみがま)の烟(けぶり)に月のすすけぬるかな〘山家集 547〙

淡路がた磯わのちどり聲しげしせとの鹽(=塩)風冴えまさる夜は〘山家集 548〙
あはぢ潟せとの汐干の夕ぐれに須磨よりかよふ千鳥なくなり〘山家集 549〙
千鳥
霜さえて汀ふけ行く浦風を思ひしりげに鳴く千鳥かな〘山家集 550〙
さゆれども 心やすくぞ 聞きあかす 河瀬のちどり 友ぐしてけり〘山家集 551〙
八瀬渡る湊の風に月更けて潮干る潟に千鳥鳴くなり〘山家集 552〙
千鳥鳴く江島の浦に澄む月を波に映して見る今宵かな〘山家集 553〙
千鳥鳴くふけゐのかたを見わたせば月かげさびし難波津のうら〘聞書集 126〙
さえ渡る浦風いかに寒からむ千鳥むれゐるゆふさきの浦〘山家集 562〙
月すみてふくる千鳥のこゑすなりこころくだくや須磨の關守
〔月の夜賀茂にまゐりてよみ侍りける〕
月のすむみおやがはらに霜さえて千鳥とほたつ聲きこゆなり〘神祇歌〙

〔神無月〕

神無月時雨はるれば東屋の峰にぞ月はむねとすみけ〘山家集 1111〙
神無月谷にぞ雲はしぐるめる月すむ嶺は秋にかはらで〘山家集 1112〙
神無月時雨ふるやにすむ月はくもらぬ影もたのまれぬかな〘山家集 1113〙
神無月木の葉の落つるたびごとに心うかるる深山辺(みやまべ)の里

花と見る梢(こずえ)の雪に月さえて たとへむ方もなき心地する〘山家集 1362〙
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佐竹 昭広
久保田 淳

方丈記

方丈記
<広本>
古本系;大福光寺本・前田家本 など
流布本系;兼良本・嵯峨本 など
<略本>
長享本延徳本真名本

鴨長明集
発心集(ほっしんしゅう)
無名抄
『千載和歌集(せんざいわかしゅう)』入首
『新古今和歌集』入首

ユク河ノナガレハ、絶エズシテ、シカモモトノ水ニアラズ。澱(ヨドミ)ニ浮カブウタカタハ、カツ消エカツ結ビテ、ヒサシク留マリタルタメシナシ。

行川之水不絶而然非本水。

澱浮転瀉且消且結久無留事。[真名]

【ゆく河の流れ】
【絶えずして】

【うたかた / うたがた(泡沫)】

如河駛流,往而不返,人命如是,逝者不還。是日已過,命亦隨減,如少水魚,斯由何樂!當勤精進,如救頭燃,但念無常,慎勿放逸

——漢訳《法句經·無常品》

世中ニアル人ト栖(スミカ)ト、又カクノゴトシ。

世間住家又如此。

タマシキノ都(ミヤコ)ノウチニ棟(ムネ)ヲナラベ甍(イラカ)ヲアラソヘル、貴キ賤シキ人ノ住マヒハ、代々ヲ經て尽キセヌ物ナレド、是ヲマコトカト尋(タヅヌ)レバ、昔アリシ家ハマレナリ。

諸里々棟並甍争高賎人住居、代々経不尽物共、昔有今無。


不知(シラズ)、生マレ死スル人、イヅカタヨリ來リテ、イヅカタヘカ去ル。又、不知、仮(カリ)ノヤドリ、誰(タ)ガ為ニカ心ヲナヤマシ、何ニヨリテカ目ヲ悦(ヨロコ)バシムル。ソノ主(アルジ)ト栖(スミカ)ト無常ヲアラソフサマ、イハバ朝顏ノ露ニコトナラズ。


 世ノ常(ツネ)驚(ヲドロ)クホドノ地震(ナヰ)、二三十度振ラヌ日ハナシ。十日廿日過ギニシカバ、ヤウゝゝ間遠(マドヲ)ニナリテ、或ハ四五度、二三度、若(モシ)ハ一日(ヒトヒ)マゼ、二三日ニ一度ナド、ヲホカタソノ余波(ナゴリ)三月(ミツキ)バカリヤ侍リケム。四大種ノ中ニ水・火・風ハツネニ害ヲナセド、大地ニイタリテハ殊ナル變ヲナサズ。昔、齊衡(サイカウ)ノコロトカ、大地震(ヲホナヰ)振リテ、東大寺ノ仏ノミグシ落チナド、イミジキ事ドモハベリケレド、猶(ナヲ)コノタビハシカズトゾ。


世ニ随(シタガ)ヘバ身苦シ。随ハネバ狂セルニ似タリ。イヅレノ所ヲ占メテ、イカナル事(ワザ)ヲシテカ、暫(シバ)シモ此ノ身ヲ宿(ヤド)シ、タマユラモ心(コゝロ)ヲヤスムベキ。


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徒然草

 『徒然草』が伝える説話には、兼好が居を構えていた双ヶ丘(ならびがおか)に近い仁和寺に関するものが多いが、同時代の事件や人物について知り得る記述が散見され、歴史史料として貴重なものとなっている。

佐成 謙太郎『對譯 徒然草新解』 (明治書院, 昭和二十六(1951)年)

卜部兼好

序段

 つれづれなるまゝに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。

【つれづれなるまゝに】
【ひぐらし】
【心にうつりゆく】
【よしなしごと】
【そこはかとなく】
【かきつくれば】
【あやしうこそ】
【ものぐるほしけれ】

第一段

 いでや、この世に生まれては、願はしかるべきことこそ多かめれ。

【いでや】
【生まれては】
【願はしかるべきこと】
【多かめれ】

 人は、かたち・ありさまのすぐれたらんこそ、あらまほしかるべけれ。物うち言ひたる、聞きにくからず、愛敬(あいぎょう)ありて言葉多からぬこそ、飽かず向はまほしけれ。めでたしと見る人の、心劣りせらるる本性(ほんしょう)見えんこそ、口をしかるべけれ。しな・かたちこそ生まれつきたらめ、心はなどか賢(かしこ)きより賢きにも移さば移らざらん。かたち・心ざまよき人も、才(ざえ)なくなりぬれば、しなくだり、顔憎さげなる人にも立ちまじりて、かけずけおさるるこそ、本意(ほい)なきわざなれ。

第二百二十六(二二六)段

「『平家物語』の成立についてしるした最古の文献」(『新潮 日本文学小事典』);平家物語の作者を信濃前司行長(しなののぜんじゆきなが)なる人物に措定する場合の根拠。琵琶法師についての記述。

後鳥羽院の御時、信濃前司行長、稽古の誉れありけるが、・・・この行長入道、平家の物語を作りて、生仏といひける盲目に教へて、語らせけり。

第二百三十四段

 人の物を問ひたるに、知らずしもあらじ、ありのまゝに言はんはをこがましとにや、心迷はすやうに返事(かえりごと)したる、よからぬ事なり。知りたる事も、なを定かにと思ひてや問ふらん。又、まことに知らぬ人もなどかなからむ。うららかに言ひ聞かせたらんは、おとなしく聞えなまし。
 人はいまだ聞き及ばぬ事を、わが知りたるまゝに、「さても、其人の事のあさましさ」などばかり言ひやりたれば、「如何なることのあるにか」と、押し返し問ひにやるこそ、心づきなけれ。世に古りぬる事をも、おのづから聞き洩らすあたりもあれば、おぼつかなからぬやうに告げやりたらむ、悪しかるべきことかは。
 かやうの事は、物馴れぬ人のある事なり。

第二百四十段

第二百四十一段

第二百四十二段

第二百四十三(二四三)段

八つになりし年


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