誰も私を知らない場所へ

九州大学に行きたかった。
地元は九州から遠く離れている。とにかく自分の知り合いが一人もいない土地で、一からやり直したいと思った。地元での暮らしはとてつもなく楽しいわけではなかったけれど、別にいじめ等のトラブルがあったわけでもなかった。それでも、ここではない場所で人生をリセットしたいとなぜか強く思っていた。
結局色々あって、私は九州大学には進まなかった。卒業した大学も今の職場も、地元からものすごく離れているわけではない。とりあえず満足はしているが、それでも地元にいた頃の願望はまだ消えていない。

知らない土地、後腐れが無いと分かっている土地だと自由になれる。
大学の語学研修で海外に行った時は何かから解放されたような気がしたし、とにかく言葉を覚えたくて街の人にも積極的に話しかけた。自分が日本にいる時とは違う人格になっていると感じた。究極の人見知りが裏返ると、そうなるのだと思う。そんな自分でいられることが楽すぎて、怖くなって、私は日本に戻ったほうがいいんだろうなと思った。

蕁麻疹が出るほど適応できない土地も今のところないので、今住んでいる街にずっと居続ける人生になるかもしれないし、いつかどこかに移住して抱え続けている願望を叶えるかもしれない。ただ今の職場に勤める年数が長くなればなるほど、知り合いが増えていくことになぜか嫌悪感を覚える。迎え入れられているという安心感も無くはないが、それ以上に嫌悪感が勝る。転勤があることがまだ救いだ。私が他人の目を気にしなくなれば解決する問題なのかもしれない。
稲作定住、稲作定住と繰り返す歌を聴いて、私には農耕民族の血があまり流れていないのかもしれないと思った。

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