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【詞】ラストシーンの向こう側

僕らの最深部のあの夏は欲しがったって手に入らない
最初から無いものだって思った方がいっそいいのかと思ったりもしたよ
よくある話を積み上げたその何気なさを振り返ることしかできないのだと


自転車に乗ってどこまでも行けそうさ
風に髪を泳がせて、全力で息を吐いたあの人の背はあの時のまま
段々自分だけ大きくなって、街と変わって、


あれから何年目のだっけ すっかり世界は別の物
時には恍惚とした日々に笑ったりもするけれど
記憶の中のあの人は僕に振り返らずに
眩しい後ろ姿だけを見せてはとけ込んでいった


僕らの最深部のあの夏は欲しがったって手に入らない
ラストシーンの向こう側に気付けば僕は居たみたいだよ
よくある話を手元に寄せたその何気なさを振り返ることも寂しいのだと


紙ヒコーキを飛ばしてどこまでも行けそうさ
心はいつも海岸沿い、音の無い凪のように緩やかで
段々自分だけ波打って、波打って、やがては変わって


あれから何年目のになるっけ すっかり世界は別の物
時には雪降る道のりに笑ったりもするけれど
その分記憶のあの人は薄れていってしまうから
眩しい後ろ姿だけ靡かせてはとけ込んでいった


あれから光の青い方ずっと追っていたんだって
すっかり世界は別の物 それでも視界は前に伸び
あの人の居る遠くの街との縫い目が解けてくれますよう
ラストシーンの向こう側にも愛を込めて


自転車に乗ってどこまでも行けそうさ
風に髪を泳がせて、全力で息を吐いた



詩集 "あのひと" より

これも壮大な詞になったと思いました
エンドロールのような雰囲気がありますね

今は会うことのない懐かしい人を思い浮かべ、時の流れを感じるみたいな
そうした文章になっています
また、詩集のタイトルと同じ"あの人"というワードも出てきます

イメージ的に「夏の幽霊」という詞と似ている部分もありますね

「夏の幽霊」の方が後に出来たのですが
夏をイメージすると文章が壮大になることが多いです


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