いま、僕はとても怒っている。あるニュースに触れて。
この思いをどうしようと思って、ここに筆を執った。

大嫌いな言葉がある。
「有名税」というやつだ。
有名にしてやったのだから、ちょっとぐらいの騒ぎは我慢しろ。
有名になったのだから、無名の人の興味関心には応えろ。
タチの悪いひとになると、「知る権利」を振りかざす輩もいる。
だが、誰が誰と結婚したとか、被害者の誰がどんな被害を受けたのかとか、そういうことを暴くことの何が「権利」なのか。それは単なる悪趣味でしかない。

スターは世界中にいる。
“タブロイド”は英語だし、“パパラッチ”はイタリア語だ。
僕はかつてオードリー・ヘップバーンについてのドキュメンタリーを作った時、
(諸事情で再放送ができないが、僕が作った中でも特にいとしい作品だ)オードリーの息子ルカさんにインタビューした。ルカさんは言っていた。「子どもの頃は、母と歩いているだけで周りに大量のカメラマンがついてきて、本当にほんとうに嫌だった。母が亡くなった今は、母と子ども時代の自分の写真がたくさんあることに、すこし感謝したりもするのだけど」なんと悲しみと笑いの満ちた、なんと素敵な言葉だろう。ここを読んで「有名税」と言いたがる人はそれ見た事かと言うかもしれない。欧米にも「有名税」、あるじゃないか!と。―――しかし違うのだ。欧米に、「有名税」などという言い回しはない。代わりにこう言う。

Penalty of greatness
Price of fame

Penalty of greatnessは直訳すれば、「すごさの罰金」。
Price of fameは直訳すれば、「名声の対価」。
似ているけれど、有名「税」との間には大きな大きな隔たりがある。
罰金も、対価も、「税」ではない。スピード違反のアクセルを踏むのは自分、物を買うのも自分であるように、罰金や対価は、自分でやった能動的行為からスタートし、それに対して発生するものだ。税は違う。能動ではなく受動、スタートは他人の視点から。子どもの頃から何も変わることなく練習を続けてきたり、子どもの頃から何も変わることなく舞台に立ち続けてきた人、ずっと歩んできた人に、突然、税を「課す」。日本の有名税は、ハリウッドスターがビバリーヒルズに豪邸を持ち、プライベートジェットで移動するような行為に対して抱かれるものとは全く違う。もっと陰湿で、隙あらば足を引っ張ろうとする、悪臭漂う手が引っ張る「税」。

ぼくはよく、有名人の方と海外に向かうロケに行く。その時、一番警戒心が高まるのは、ロケ先ではない。よく海外でぼーっとしているとスリに合うとか、ホテルも危ない、とか言う人がいるけれど、僕の場合、一番「危険」を感じるのは日本の空港だ。たとえば空港のカウンター、たとえばちょっと時間潰しに入った空港の喫茶店。そういう時に、スマホのレンズがこちらに向いているのを感じる。あれ、隠し撮りしているつもりだろうけれど全部見えています。分かっています。分かった上で、これからせっかく飛行機に乗って海外に面白い取材にいくのに揉めた記憶を残したくないから、有名人の方が「許容」してくれているのです。
なぜ、「一緒に撮っていいですか?」と聞けないのか。その写真を誰にどう見せびらかしたいのか。苛立つことが多い。だから飛行機に乗ると安心し、ロケ先に行くともっと安心する。大事なだいじな出演者さんたちを、そんな「有名税」の陰湿で臭いくさい手から遠ざけられるから。

さて。普段は素晴らしいものを見た時にその興奮を早く形にしたくて書いているこのnoteになぜこんなイヤな話を書いているかといえば、本当に心の詰まるニュースに触れたからだ。僕がその表現を敬愛してやまないかの人が、結婚をして、そして、離婚に追い込まれた。メディアの報道によって、と明確に怒りと警告を込めて。

ぼくは、結婚の報道の時、メデイアの暴走を超えた犯罪を感じて、いくつかのつぶやきをした。



そして、そこからひどいことになってしまった。
―――もう、こういうことはやめにしなければならない。
この先は有料にして、あえて「かの人」の名前も途中から挙げながら書く。
メディアの人間のひとりとして。

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