テックウェア導入マニュアル

ツイッターでテックウェアに関するつぶやきをしたところ非常に反応が多くて驚いた。アウトドア系ファッションの流行も息が長く、テック系ファッションも次第に認知されつつあるのだろう。あとアクロニウムのデザイナーと何かと絡んでたコジプロの影響もあるんだろうか。

その一方で、コーディネートの要素と考えると、テックウェアは選ぶのに難儀する人も多い。アイテムそのものにアクが強く(ただしこれは誤解されている側面が強い。詳細は後述)、ともするとイタいコスプレに堕す危険があるからだ。現在、最もコーディネートの参考として用いられるであろうインスタも、#techwear とは名ばかりの極端なコスプレ衣装によって汚染されていて、ファッションとして取り入れるための情報が少ないのが現状である。このnoteでは、テックファッションを自分のクローゼットに取り入れる際の、一つの尺度を示したいと思う。

なお、「テックウェア 」というジャンルそのものについてはこちらのnoteにて掘り下げているので興味を持った方はこちらのnoteもどうぞよろしくお願いします。


1 アクロニウムみたいな服 ≠ テックウェア

テックウェアと聞いて真っ先に思い浮かぶブランドがアクロニウムであることは論を待たない。このnoteを読んでくださっている読者の方も、アクロニウムが常に念頭にあることと思う。ただし、アクロニウムも、テックウェアというカテゴリの一部に過ぎず、世にはアクロニウムとは全く異なるコンセプトで高機能と魅力的なデザインを両立させているブランドが数多く存在するのだ。

「いやいや、私は黒くて、たくさんのポケットやかっこいいラインの切り替えが入ったヤツ、要するにアクロニウムみたいな服が欲しいんですよ」という理屈もよく分かる。しかし、残念ながらアクロニウム以外にアクロニウムのようなアイテムを作っているテックウェアブランドは存在しない。アクロニウムではないアクロニウムみたいな服は、十中八九テック(機能性)を犠牲にして、アクロニウムの表面的なデザイン真似ただけの粗悪品である。アクロニウムが欲しいならアクロニウムを買うしかないのである。

2 テックウェアとモドキを見分けるシンプルな方法

まずブランド自身が「テックウェア 」と名乗っていないこと(重要)。更に、高機能素材を使っているかを見極めよう。具体的には自社開発素材以外なら、GORETEX、ショーラー、TEIJINなどなど、アウトドアウェアに実績のある生地を用いているかを確認しよう。例えばゴアテックス社は自社製品を使用するためには様々な制約を課しており、それがプロダクトの信頼性の担保となる。(アクロニウムが唯一無二なのはあの複雑なディテールやパーツがありながらゴアテックスの審査を全てパスしているからだ)

自社素材についても、特殊な素材を自社開発できるアパレルブランドは限られているし、ブランド側も盛大にアピールしているので見分けるのは容易である。素材について撥水、防水加工などと申し訳程度でお茶を濁しているアイテムは見た目だけのエセテックなので、コスプレ用途ではなく日常着として活用させたいのなら避けるのが吉である。

3 テックウェアの実像

そもそも「テックウェア」とはファッションにおける様々なスタイルの中に独立して存在するカテゴリではなく、機能や素材研究などの実験的要素を突き詰めた結果、既存のカテゴリの極北に位置したものが「テックウェア」として認知されただけでなのである。代表的な3ブランドについて見てみると、ヴェイランスは、アウトドアウェアの雄「アークテリクス」の、ストーンアイランドシャドウプロジェクトも、名前の通りUKスポーツカジュアルブランドの「ストーンアイランド」から派生した1ラインに過ぎない。「アクロニウム」のデザイナーerolson Hugh(エロルソン・ヒュー)氏も、スノボウェアのバートンなど名だたるアウトドアブランドでの経験によって認知され(先に示した2ブランドも共に氏が関わっている)、現在の立ち位置が成立しているのである。畢竟「テックウェア」は極めて歴史の浅いカテゴリかつ、一般的なファッションのカテゴリの延長に存在しているだけの「言ったもん勝ちジャンル」である。よって、最初にどのテックウェアブランドを取り入れるか迷ったら、今の自分がしているスタイルの延長上に存在するブランドやアイテムを選べば良いということである。

4 実際にテックウェアを選ぶ

テックウェアという言葉が極めて恣意的なものであることは分かってもらえたと思う。だからこそ自分の好みのスタイルや生活様式、既に所有しているワードローブにマッチするテックウェア、言わば「リアルなテックウェア」を選択することが大切なのである。そこで、テックウェアとして挙げられるブランドそれぞれが、どういう立ち位置なのかという事を独断と偏見でざっくりまとめてみた。

5 代表的なテックウェアブランド解説

大きく「スポーツ」「アウトドア」「ミリタリー」「ビジネス・ワーク」の4カテゴリの配置と、主な採用素材、カラー展開の豊富さでカテゴライズしてみた。あと代表的なアウターの値段帯も付した。

【 インポートブランド  】 

アクロニウム https://acrnm.com画像3

カテゴリ:アウトドア・ミリタリー  値段:アウター18万円〜   カラー:モノトーン   主な採用素材:ゴアテックス、ショーラー、ポーラテック             

テックウェアのイメージを決定付けたブランド。サイボーグニンジャでありサイバーパンクである。最新鋭の素材に実験的な機能を合わせたアイテムは中二病ギリギリの奇跡的なバランスを保っている。値段も最高額帯に属すが、最近海外でプチ炎上したので青天井では無くなった。アイテムの使用感については、私の過去noteをご覧下さい。

ヴェイランス  https://www.veilance.com画像1

カテゴリ:ビジネス・ワーク、アウトドア  値段:アウター10万〜                        カラー:シーズンカラーあり  主な採用素材:ゴアテックス

最近までアークテリクスの名を冠していたが、2019シーズンよりそれが外れロゴの書体も変わった。現デザイナーは日本人である。アクロニウム と双璧を成すテックウェアブランドだが見た目は正反対の超ミニマルな佇まいでこれまたアクロニウム以上(?)にファンが多い。カラーは基本ブラックだが、シーズン毎に特別カラーもリリースされる。色名が毎度センス抜群なので是非英和辞書で調べてみよう。詳しいアイテム紹介は過去の投稿をご覧下さい。

            


ストーンアイランドシャドウプロジェクト 

https://www.stoneisland.com/jp/stone-island-shadow-project/stone_island_7119shadowproject_section画像5

カテゴリ:ミリタリー 値段:アウター10万〜 カラー:カーキ、ベージュ等豊富  主な採用素材:自社開発の実験素材

 アクロニウムのエロルゾン氏が手がけるライン。値段帯はアクロニウムより低め。ならアクロニウムっぽいアイテムが安く手に入ると思いきや、スタイルは全くの別物。シルエットはベーシックかつカジュアル。カラーもブラックだけでなくカーキやベージュなどカジュアルな雰囲気が強い。その一方で暗闇で玉虫色に光るブルゾンや上画像のデジタルグラフィックを織り柄で表現したダウンなど、シーズン毎に気の触れた加工を押し出す点でも有名。特殊な素材やカラーリングなど、本家ストーンアイランドの実験場的趣が強いブランドである。Tシャツのグラフィックは「いかにも」な感じなのでアクロニウムっぽさを求めて買うのはアリだろう。

byborre (バイボレ)https://byborre.com

画像5

カテゴリ:スポーツ 値段:アウター8万〜10万程度 カラー:マルチカラー多し 採用素材:自社開発ニット素材8bitなど

ゴアゴアしているものが多いテックウェアブランドでは異彩を放つニットブランドである。極めて特殊なニット生地が売りであり、織りのパターンがランダムは組み合わされたウェアはスポーティだが、どこかユーモラスな温もりも感じられる。最近ゴアテックス社の認証も下り、アディダスや水沢ダウンとのコラボも話題。日本でも取り扱いが急に増えた個人的には今一番勢いがあるブランドである。私も夏冬それぞれアウターを所有している。糸にインサレーションを混紡していて防風性がありながら柔らかな肌触りで、一般的なナイロンのソフトシェルやフリースとは全く違った趣で愛用している。それについては気が向いたらnoteにまとめようと思う。

【 ドメスティックブランド 】

DESCENTE ALLTERRAIN(デサントオルテライン)allterrain.descente.com

画像6

カテゴリ:アウトドア  値段:アウター 5〜15万 カラー:ブラック中心  採用素材:デサント自社開発素材、水沢ダウン

スポーツブランドDESCENTEのテックライン。コンセプトやアイテムは明らかにヴェイランスを意識している。一方でギミックも豊富で、一つ一つのギミックに名前が付けられ解説されているところはアクロニム的である。アウターはソフトシェルが中心で、水沢ダウンも現在このラインから発売されている。ダウンの最高額品が10万を超える程度で、シェルジャケットなら5万台から手に入るなど、他のブランドと比べるとかなり値ごろ感がある。ヴェイランスとアクロニウムの中間と言うと聞こえは良いが、なぜかテックウェアを語る界隈では影が薄い。優等生的プロダクトより、どこか突き抜けたものが無いととテック好きの琴線には触れないのだろうか。ともあれテックの入り口としては良いのでは。

MOUTRECONTAILOR (マウトリーコンテーラー) 

画像5

カテゴリ:ミリタリー 値段:アウター10万〜 主な採用素材:ショーラー社 カラー:ブラックのみ

whitelineを手掛けるデザイナーの新ブランドである。紹介するテックウェアブランドの中では最もミリタリーの要素が強く、カラーも潔くオールブラックである。値段もかなり強気で、フラグシップアウターは18万とアクロニウムにも引けを取らない。テックウェアブランドとしては珍しくニット小物が充実していて、コーデュラウールの表地にサーマルフリースを裏地に貼り付けた手袋は、即完売を繰り返している。

TEÄTORA(テアトラ) https://teatora.jp

カテゴリ:ワーク・ビジネス 値段:ジャケット7万〜 主な採用素材:ソロテックス(TEIJIN)カラー:ブラックのみ

オフィスで着用するテーラードジャケットにテックウェアの発想を持ち込んだブランド。隠しポケットが大量にあるデバイスジャケットにイージーパンツを合わせたスタイルが有名。アイテムのバリエーションはほぼ固定され、使用素材でバリエーションを作っていくのは実にテックウェア的ではある。柔らかな素材はパッカブル仕様で実際着心地も良い。ただしナイロン一枚地のテーラード型特有の問題があるので本当に職場でイケるかはよく考えた方が良い。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?