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「消滅する自治体で豊かに生きる」広域"文化"経済圏という新しい地域のあり方

「文化をつくることで、経済圏ができる」

先日、10年ぶりに発表された「消滅可能性自治体」。地方創生が掲げられて久しいですが、全国的に人口減少に伴う厳しい現状が突きつけられています。50の自治体にまたがるエリア北海道の東・道東も、もちろん例外ではなく半数以上の自治体が該当しています。

一方、6期目に入ったドット道東の事業を続ける中で小さく実感に変わっていることがあります。
広大なエリアに人と町が点在する中にあって、その結節点をつくりたいとさまざまな事業をおこなってきました。その中で自治体の枠を越えた道東というアイデンティティが醸成される、つまり文化がつくられることで経済圏ができているのではないかという実感です。

アイデンティティや暮らしを結節点に経済をつくっていくことを「広域”文化”経済圏」と名付けました。
減っていく中で、いかに豊かに生きるのか。これからの地域のあり方について考えています。

 GWいかがお過ごしでしたか?早くも新年度は1ヶ月が過ぎましたね。年度末に向けて忙しくなることが多いドット道東ですが、春は少しだけ落ち着く季節。今年度はどういう1年にしていくのか、仕込みや体制づくりをしながら、この1年を乗り越えるイメージをしています。

2024年3月撮影
2019年創業時の写真 若い、細い(おれ)

2019年に創業したドット道東は今期で6期目に入りました。

前期は「冬コミット」として、農家である吉田拓実さんが冬の農閑期に働いてくださったことを含めると一時的にメンバーが10名に増えました。
「理想を実現できる道東にする」というビジョンの元、少しずつ広域で緩やかな連帯をつくる事業を広げています。

緩やかな連帯ができていった一つの大きな要因は、人口減少に伴い先細っていく危機感を共有できたから。
人口が限られ広域に町と人が点在する道東において仲間づくりがしづらいからこそ、自治体も業種も年代も人同士が「道東」という言葉でつながれたのだと思います。

町はいきなり消えるのではなく、きっとじわじわと当たり前にあったものがなくなっていく。そんな危機感や閉塞感にいち早く反応し、一緒にアクションしてくれた方々に支えられて今があるなあと思っています。

道東で起こっている現象

先日、10年ぶりに「消滅可能性自治体」が発表されました。道東には50の自治体が存在し、そのうち半分以上の29市町村が該当(釧路 7/8、十勝 6/19、オホーツク 14/18、根室 2/5)。この10年の中で脱却した自治体を含めると41市町村。データ上は厳しい結果になっています。

北海道の東・道東は九州より一回り小さい面積に90万人弱の人口。中核都市の人口も20万人を下回る規模。さらに2045年までに、この人口は60万人台になるという推計が出ています。
ただでさえ極めて人口密度が低いエリアに関わらず、今後それは一層加速する未来が待っています。

ドット道東ではこれまで、道東のアンオフィシャルガイドブック「.doto」の出版、道東の求人情報メディア「#道東ではたらく」、道東の未来をつくるコミュニティ「DOTO-NET」など、常に道東という主語の元、事業づくりや情報発信をおこなってきました。
ご一緒させていただいているクライアントさまも「道東」という言葉をブランドやPRに組み込むことでターゲットやファンの母数を増やしています。
自治体単位では人口・知名度が限られる中で、包摂され自分ごとにできる主語を使うことでで裾野が広がっていることを感じています。

少しだけ事例を↓

Brasserie Kont

創業前からご一緒させていただいているクラフトビールを作っているBrasserie Knotさんでは「DOTO」というビールが道東圏内でしか飲めない・買えないというルールを設けられています。
WEBでも購入できないため(他のビールは域外での販売・通販可)、道東に来ることが、このビールを楽しむための条件になります。
現在は道東各地の空港や道の駅でも広く販売されていて、お土産や地域の方のビールとして愛されているブランドです。

Stay DOTO!

「Stay DOTO!」はコロナ禍で旅行が制限される中、改めて身近な道東内の旅行促進を目的としたキャンペーンでした。それぞれのとっておきの写真を投稿してもらうことで、域内での人の循環を高めました。
キャンペーンの景品も地域ごとにオリジナリティーのあるものをキュレーションしたり、キャンペーン後も「#StayDOTO」のハッシュタグを使いポストしてくださる方がいます。

地域の人事部

経済産業省が提唱する地域ぐるみで人材獲得を目指す「地域の人事部」事業において、道東という単位で人を呼び込む事業や手法が評価をいただいています。
地域外の人材に対して、市町村や個社単位でのアプローチに苦戦する中、幅広く道東という単位で呼びかけることで裾野を広げ、道東にゆかりのある方たちのコミュニティを形成し、一定の成果が出ています。
昨年末には中小企業庁長官と意見交換させていただいたり、事例集(P21〜)にも掲載いただきました。

みんなでつくる中国山地

 他地域の事例ですが、お世話になっている中国山地編集舎さんで出版されている年刊誌「みんなでつくる中国山地」は山陰・山陽といった区分けによらず、中国山地が横たわる5県にまたがる圏域で活動をされています。
過疎発祥の地と呼ばれる島根県益田市周辺の方々がボードメンバーになっていて、ドット道東も日本最北・最東端の極地で事業をおこなっている身として、どちらも辺境から起こっているムーブメントということが興味深い点です。

広域「文化」経済圏というあたらしい地域のあり方

広域にまちと人が分布する道東において、隣のまち、隣のエリアは遠く、その中での域内循環や相乗効果がそもそも生まれづらい環境がありました。

それに加えてこれまでは(いまもその多くは)、北海道内で言えば基本的な動線や消費の目線は都市部(札幌や旭川)に向いています。一部の都市とその他過疎地域という1対nの、ある種支配的な力関係と構造が存在しています。

道東という単位で括ることの良さは1対nではない、オルタナティブな選択肢やポジションが築けるという点にあるのだと思っています。
自治体単位の人口や経済の規模は限られこれからも縮小していく中で、ひとつの塊として一定のボリューム感や母数を見込むことが成果がでていることを少しずつ実感しています。

それは単なる単位でしかなかった「道東」という単語が固有名詞、つまりアイデンティティの一つになっていく過程でおこっていきました。
手前味噌ですが、ドット道東の事業はそんなきっかけの一つになっているのだと思っています。

住んでいる町にとどまっていたアイデンティティを広域を包含する自分ごとに変えていく。そうすると、アイデンティティを軸に点在していた地域や人が緩やかに連帯し始めることがわかりました。
今まで行ったことのなかった隣のまちに遊びに行ってみたり、離れた地域の事業者間で協業・取引が始まったり、周辺自治体が商圏に変わったり、広域のプロモーションにスケールメリットがでる。
これは広域にまちと人が点在する道東において、これまでは起こりづらい(イメージしづらい)現象でした。

ヒトモノカネが広域で循環し始めるという現象が起き、道東というアイデンティティを軸に繋がる経済圏が出来始めていることを感じてます。ぼくらはこれを「道東文化経済圏」と呼びたいと思っています。

人口が減っていく中でも豊かに生きる

「広域経済圏構想」は一帯一路を掲げる中国が陸路や海路、エネルギー、サプライチェーンなど物理的なインフラを整え巨大な経済圏をつくろうという構想です。

一方、いま道東では物理的な接続に依らずとも、アイデンティティを軸に緩やかに連帯していくだけで広域の域内循環や相乗効果、イノベーション(新結合)の萌芽がうまれ始めています。
インフラを整える、お金を突っ込む、そういったトップダウンのカンフル剤だけではなく、暮らしや消費や生産が変わり始めていることを実感しています。
これはつまり、アイデンティティを醸成するということでその上に経済圏が立ち現れるということではないでしょうか。

そこに暮らす人々が存在を認知しつつも、朧げなアイデンティティの輪郭を際立たせていく。その中でヒトモノカネが域外に漏れ出ることなく広域で循環している社会は広域の文化による経済圏を広域「文化」経済圏と呼べるはずです。

冒頭の「消滅可能性自治体」はたしかにショッキングなニュースかもしれません。しかし、日本全国で等しく人口減少が起こっている中で、やるべきことは自治体間の移住競争によるゼロサムゲームではなく、共生のはず。
人口は増えていかないという前提の元、減り続ける中で豊かに暮らす方法を模索するべきなのではないでしょうか。

既存の地域間の連携によってスケールメリットを享受する広域文化経済圏の概念において、興味深いのは自治体の人口増減に左右されないという点です。
ぼくであれば地元である北見市の人間であり、北見市を含むオホーツク海沿岸のオホーツク地方の一員であり、道東の人であり、北海道民でもあり、日本人で、地球に暮らしています。
アイデンティティはレイヤーのように個人の中にいくつも内包され、一つに絞られるものではありません。自分ごとにできる範囲では、緩やかに連帯し、スケールメリットがうまれます。

それぞれの地域で人口減少していく中、地域間の緩やかな繋がりによって経済を回していく共生のスタンスは、これからの地域のあり方のひとつだと感じています。この概念や道東の事例が少しでも人口減少に苦しむ地域の方々の参考になったら嬉しいです。

ドット道東では道東というアイデンティティが醸成される文化づくりの事業道東文化経済圏に寄与するビジネス、この2軸を展開しています。
このnoteではアウトラインのみになりますが、具体的な事例は個別にまだまだ存在し、それらが複雑に絡み合って道東文化経済圏が形成されています。
研究材料としてもおもしろいと思うので、興味のある方はぜひご連絡ください。

「理想を実現できる道東にする」というビジョンに加え、今後はこの道東文化経済圏という概念を加えたミッション・バリューを策定したいと考えています。こちらも出来次第お披露目するかもしれません。

それではまた!

編集:那須野達也

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