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400字小説

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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。2024年1月1日午前7時オープン!
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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「くそったれの世界」The Birthday

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「くそったれの世界」The Birthday

「ホントは死んでない」酔うと亡くなったチバユウスケのことばかりをニイミは話す。「チバよりカッコいい男はいない」と公言している。そんな気持ちが強いから、美人なのに不思議と男が寄りつかなかった。40代独身、女、女、女。

ニイミの相手をするのはユウタで、ふたりは友だち。ニイミは男女の友情は成立すると考えている派。「お前よりきれいな女はいない」とユウタもふざけて言う。いつも通り、ふたりでカラオケ、狭い個

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Dynamite Walls」Hayden

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Dynamite Walls」Hayden

新宿中央公園に20年くらい行っていない。夜に行為に至ったことをシゲルは今でも覚えている。夏だったなって。ユウコにはあれ以来会っていない。最後になった夏。

もしシゲルが東京へ旅に行くことになったら新宿中央公園に行くだろうか。多分、行かないとシゲルは答える、多分。東京に行ってもTDLしかいかないだろう、家族と。それにあそこは千葉。東京駅構内すらからも出ずに、東京をスルーして、旅。

妻はユウコのこと

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「BRIAN DOWN」Thee Michelle Gun Elephant

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「BRIAN DOWN」Thee Michelle Gun Elephant

「ザ・ローリング・ストーンズは結成当初はブライアン・ジョーンズっていうヤツがリーダーだったんだが、奇しくもストーンズによって葬り去られた男として有名」というような意味のことをベッドの中で裸の男に言われた。優梨はSixTONEにしか興味がないのでどうでも良かった。早く時間が来ないかとうんざりしていた。ただ天井の顔のようなシミを無で見つめている。それでも男は話すのをやめない。

「ザ・ビートルズは去年

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ハイブリッド レインボウ」the pillows

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ハイブリッド レインボウ」the pillows

29歳。人生を劇的に変えられるとしたら今しかないと。ユミオは新しくギターを買い、新しいエフェクターとギターアンプも買った。やめようと考えていたバンド活動は続けることに。過去最大の動員数を記録した日比谷野音以上のライブすることを目標に設定。メンバーに嫌われてもいいから、ナアナアではなく、してほしいことを言ったり、嫌な役割も引き受けて、小言も言うようになった。「お前、どうしたんだよ」って当然メンバーた

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Born Slippy(Nuxx)」アンダーワールド

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Born Slippy(Nuxx)」アンダーワールド

「2回鳴り終える前に全部済ませないと死が待っている」ってあずみは言われてわけがわからなかった、当然。キックの音が気持ち良かったのが救い。

でも、いつかテレビで見たときはイメージと違ってがっかりした。アレがターニングポイントだったのかもしれない。「両手を挙げて祝福のポーズを」とか「大声で叫んで祝祭の誓いを」とかってこともついでに言われて、いよいよ追い込まれた。「生きてるとわからないことばかりね」と

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「No Surprises」レディオヘッド

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「No Surprises」レディオヘッド

「マキコちゃんがレディオヘッド好きだって言うから聴いてみたけれど、さっぱりわかんなくてさあ」

太一は洋楽を聴かない。

「別に無理して好きになろうとしなくていいんじゃね?」

要次は淡々と返す。人の恋愛には興味がないタイプ。コーヒーが苦くて顔もしかめない。続けて言う。

「恋なんてめんどいだけじゃんかよ。俺は静かに暮らせればそれでいい」
「マキコちゃん、かわいいと思わない?」
「そうだな、めんこ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「People of the Sun」レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「People of the Sun」レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン

「俺にとってのギターヒーローはジミヘンでもジョン・フルシアンテでもないんだよな。ましてやエリック・クラプトンなんて胸クソ悪いだけだ」

雨が降り始めたサブウェイの軒下で、店を出るなり殿宮は語り出した。「それよりも雨」と和史は思ったけれども、口には出さずに話に乗っかる。

「で、殿宮さんのギターヒーローって誰なんスか?」
「お前は?」
「え、僕ですか。ええと~、吉兼聡さんかな」
「誰それ?」

雨の

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Free Satpal Ram」Asian Dub Foundation

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Free Satpal Ram」Asian Dub Foundation

A「club snoozerってあったよね」
B「雑誌なくなっちゃったね、随分前に」
C「club snoozerはまだ続いてるんじゃね?」
A「ナニ情報?」
C「Twitter情報」
B「Xな」
C「いまだにTwitterって言っちゃうもんな」
A「ある種、抗いたいんですよ」
C「我々のTwitterを返せと」

朝5時のマクドナルドでだべってる。40歳にして音楽のオールナイト・イベントに参加し

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「WEATHER REPORT」フィッシュマンズ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「WEATHER REPORT」フィッシュマンズ

有名ミュージシャンのバックバンドを務める高樹は天気予報を信じないでホテルからひとりで外出。この全国ツアー中、雨が降ったことがない。曇り空ながら快適な気温で足取りは軽かった。ただコンサートホールに向かうまで後ろをついてくる女が気になっていた、途中から。

本番での演奏はメリハリを利かせて控えめに淡々と、でもギターソロは派手に行う。コンサートの中盤、ふと外でつけてきた女を発見。顔を見た覚えがないのにわ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「The Rockafeller Skank」Fatboy Slim

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「The Rockafeller Skank」Fatboy Slim

馬車馬のように夜通しで踊ったあの夜のことを光一は明確には覚えていない。いつもなら酒を片手に女漁りをするのだったが、その夜だけは音楽に身を捧げた。ミラーボールがまわっていたのか覚えていない、でも踊りまくった記憶だけはある。女から肩を叩かれてナンパされても無視して踊っていたんだ。その理由を記すことほど野暮なことはない。光一は時計を見ることも忘れて、気持ちよく跳び跳ね、冗談半分でツイストし、両腕を突き上

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「透明少女」ナンバーガール

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「透明少女」ナンバーガール

首夏の或る日に少女は少年とまぐわったあと、その帰り道で死んだ。そんな自分を悲しくは思わなかった。少女には親がいなかったから。むしろ、幸せだったのかも知れない。

少年は突然の少女の死に動揺して夏の間、部屋に閉じ籠もる。青春を無駄にしてはいけないと誰も言わなかった、ただ存分に泣いた。ゲームでマシンガンを手に入れて繁華街に出てぶっ放した。でも、誰にも当たらずに弾は事切れた。神に祝福されている気持ちにな

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Wet Sand」Red Hot Chili Peppers

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Wet Sand」Red Hot Chili Peppers

肌寒い海辺で砂の城を作るふたり、恋人の関係。同性同士だから男性でも女性でも関係ない。ただひとりはオワリで、もうひとりはエイエン。ズブズブに海水に浸ったスニーカーが変色。太陽は真上にあり、人生を照らす。

「多様性って何かな」
「ぼくたち、わたしたちには、知らないことだよ」

ディレイして海面で蒸発する言葉。波打つ海は永遠に思える。

「今、この瞬間も若さを失っている」
「永遠なんてないんだ」

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Trark1」Regurgitator

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Trark1」Regurgitator

飲み会の乾杯挨拶を急にフラれて戸惑った。でも、そこは演劇の経験を生かして、平静を装う観音。「カート・コバーンが亡くなってから30年の時が経ちました。わたしはまだ生まれていませんでした」と言い始めても、誰も顔をしかめるような人はいなかった。観音は続ける。

「でも、カート・コバーンが生まれる前からこの会社はあります。それはどういうことかわかりますか?」

そこで「んん?」と顔を歪ます人たちが出だす。

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「MO’FUNKY」ズボンズ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「MO’FUNKY」ズボンズ

「早く着いたよ」のLINEをタケルに打って、ドリンクバーを適当に4品持ってきて、ミモトは一気にガブガブする。甘いコーラはもちろんのこと、苦いブラックコーヒーでもお構いなしに飲みまくってハイに。

「急がないでいいよ」のLINEをしたのにも関わらず、タケルが早く来ないかなって楽しみに。コロナ禍前からずっと会っていないのだ。その分、タケルは年を取っただろうがミモトもそうだから、イーブンだと考えた。

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