結婚式と準々決勝振り返り

ぬめっと敗退した後、さあリスタートを切るぞという中で最初にネタをやる機会となったのは、宇野家の晴れ舞台、双子の弟君(おとうとぎみ)の結婚式余興であった。
準々決勝を終え、気もそぞろにネタの準備をしたけれども、「双子」という強力なメインウエポンを振り回せば良い感じに盛り上げられるんじゃないかと思った。一度打ち合わせて、台本を仕上げて、当日ガストでもう一度打ち合わせて臨んだ。宇野の革靴がなぜか部分的にボロボロに砕け散っていたのが少し気がかりだったけれども、まあ大丈夫、きっと素敵な時間になると思い一時解散した。宇野は親族として一足先に式場に向かい、僕は3時間半ほどのインターバルをぷよカップの配信を見たり、出井さんがゲストの今夜も星が綺麗ですね配信を見たりして過ごした。

荘厳な式場に足を踏み入れ、お着替えルームに通され、そこで宇野と合流した。その表情は明らかに硬く、不穏な声で「会場の雰囲気的に、あんまウケないかもしれない」とこぼした時にはM-1に引き続いての敗退を覚悟した。
式場の手前まで通され、品のある会場スタッフの方からの「あら、クリスマスカラーで素敵ですね」との言葉に「そうです、冬に活躍することをコンセプトにしてましてね」みたいな苦しい軽口を返し、品のある小さな微笑みをいただくなどしながらも、頭の中では「これは、厳しい戦いになるやもしれないな」というじめっとした不安を抱えていた。
ところがまあ杞憂もいいとこで、会場に飛び出すと存外にすこぶる温かく優しい空間で、ぽんぽんぽーんと気持ち良く笑ってくださってとっても心地良かった。全然ウケた。僕の姉の結婚式に付き合ってもらった時も感じたけれども、身内ウケ(まさに)のパワーは舐めたもんじゃないなと実感した。賞レースで名を上げることもともかく、ものすごく渇望するところだけれども、目の前の、親族の方々の期待に応えてハッピーな時間の手助けをするのもまた、お笑い人間として素敵な経験だよな、などと思いもした。
先日の敗退が良い塩梅に幸せなムードで上塗りされたようだった。無論、この悔しさを忘るまじ、早々に総括してまた歩みをスタートしていかねばならない。


とにもかくにも準々決勝に立とうという後ろ向きでありながらも着実なムーブを経て、「ひょっとすると、ひょっとするところまで仕上げられたかもしれない」という思いを胸にぶつかった舞台であったけれども、まあ確かに、本当に確かに、なるほど確かにという塩梅に高過ぎる壁であった。結果発表後よりも出番を終えた直後の方が全然悔しさは強くて、あれこれ振り返りはまだ済んではいないけれどもわりあい早く切り替えは出来ているんじゃないかと思う。ハイレベルな空間を肌で感じられたのは非常に良かった。
今はまだあずかり知らぬ、コツコツと善行を重ねた先に天から届く贈り物なのか、黙々と掘削を続けた先に湧き出る温泉なのかは分からないけれども、そういうまだ見ぬウルトラCを決めないことには飛び越えられないように感じた。確かに感じたんだけれども、そうしたアクロバティックな自分を想像してワクワクするくらいには若々しく、ゴリゴリやっていけるような気もする。エネルギーはまだまだある、決して無尽蔵ではないけれども、火を焚べて焚べてやっていくしかない。「甘っちょろいのかもしれないな」と思う自分もいるけれども、良くも悪くも結果がものを言う世界でしかないから、しれっと、それでいて強かに、めちゃめちゃ面白いと言われるところまで持って行けたらと思う。

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