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MIMIJIRU

トンツカタン櫻田さん企画、『MIMIJIRU』(耳汁)というライブに出演させてもらった。渋谷スターラウンジ、チェルシーホテルというライブハウスで、お笑い芸人のネタとアーティストさんの歌を同時に楽しんでもらえるというライブだった。

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数年前にもお笑いと音楽の融合的なライブに出させてもらった経験があったんだけれども、その時はまだぺーぺーもペーペーだったこともあり、ライブハウスに集まったお客様をろくすっぽ盛り上げられず、5分〜10分の間ネタという名の細い音声を届けるにとどまってしまった苦い思い出があったものの、事前に櫻田さんに聞いているかぎりでは「このライブは『ブレナイ』みたいなもんだから、気楽に出てくれたら良いよ」とのことだった。

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数年前に打ちひしがれた思い出もすっかり忘れていて、当日の当日まで「『ブレナイ』に出るみたいに、1本今持っている良い感じのネタを披露して、企画に出るようなら良い感じに楽しく盛り上がっていけば良いかな」くらいに考えていた。
しかしながら、初めて訪れた渋谷スターラウンジの外観は当然のようにめちゃめちゃライブハウスであったし、正面ドアを開けると出演バンドの方がめちゃめちゃリハで演奏なさっていて、雰囲気ある客席と雰囲気あるステージ、雰囲気ある楽屋に入ると端の端の方で少しでもスペースを使わぬよう縮こまるように着替える宇野を見つけ「ああそりゃちっとも『ブレナイ』じゃないわな」と察した。僕も端の端を取り合うように荷物を置き、息を止めるように着替えた。

芸人は5分間、バンドの方は30分間の出番を交互に繰り返していくような形で、僕たちの出番はOPMC直後のトップバッターであった。察するに、お笑いチームとして舐められないためにもしっかりやるじゃんを見せる必要があるな、と勝手に緊張感を高めてしまった。
行きの電車では「今日は『ブレナイ』なわけだし、まあ自己紹介もそこそこに3回戦で披露した至極のキラーチューンをお見舞いするかな」くらいに思っていたんだけれども、ステージ上のレイアウトとか、マイクの活かしとか、初めましての方への易しさとか、もろもろ鑑みて乱暴に決まりきったネタをそのままやって良いわけがなかった。企業パーティーの前座の時くらい綿密に流れを想定して、企業パーティーの前座の時くらい「最悪どうにもならないかもしれないな」という覚悟で臨むこととなった。
飛び出していった舞台でお客さんに尋ねてみたところ、8割か9割はアーティストさん目当ての方々だった。少数派だったお笑いフリークのみなさん、とっても心強いよと思いながらも、多数派の皆さんも存外にとても暖かく受け入れてくださった。ヒリヒリしつつも楽しくできた。ブレナイとは何もかも勝手が違ったけれども、ブレナイくらい楽しかった。

5分の舞台でお役御免となったので、少しだけ見学させてもらってから帰ることにした。ウエストランドさんのネタでも言われているところだけれども、芸人というのは5分やそこらで一仕事終えて疲れたみたいな感じになるのが滑稽だと思いつつ、何はともあれ終わってよかった。


バンド組のトップバッター、ナードマグネットさんのステージを見させてもらった。渋谷に向かいしな、数曲聴きながら偉そうに「かっこいいな、良いな」とか思いながら来たんだけれども、生で見る演奏はもう、それはもうえぐかった、めっちゃ良かった。「Mixtape」という曲に切なくなった(本当はその他の曲もめちゃめちゃ高まったんだけれども、タイトルをしっかり認識して覚えていた曲がこれだった、その他の曲にもめちゃめちゃ高まったし、「Mixtape」に切なくなった)。

合間のトークで僕たちのくだりを拾ってくださったりとか、「OPでもっと話したかったけれども、プロの芸人さんの中にいるとなかなか話せなかった、悔しい」と振り返っている様子とかがとても好印象で、なんだか嬉しくて、それはそれとして、一切関係なく、演奏がただただえぐかった。めっちゃかっこよかった。
さっきまで、僕らの時間に優しく、温かい目で見守ってくださったお客さん方が、それはもう心の赴くままに揺れていた。優しいから盛り上がっているんではなくて、ただただ、身体が欲しがっている魅力的な音を一思いに受け取っているようだった。
一応は出演者として後ろからちょこんと見させてもらってますよというスタンスを取った手前、手をガンガン上げて音に乗ることはかなわなかったけれども、控えめでも揺れながら聴く音楽はとても気持ち良かった。最前列で激しく、うっとり、激しくうっとり音を浴びることができたらどれだけ気持ちが良いだろうか、と思ったりもした。

「まあまあ、そもそも音楽を聴きに来ている方々だったわけだから、そんなに卑屈になることないじゃない」とかは思いつつ、あーーーこれと同じくらい、素晴らしいエンタメを我々は提供できているんだろうか、などと考えたりもした。今回は渋谷スターラウンジであるけれども、場所を移してナルゲキとかバッシュとかバティオスで、同じくらいうっとりするような時間を届けられているのか?と思った。ベクトルの、向きは当然違えども、等しい大きさのものを打ち出せているんだろうか、どうなんだろうか。

好きな音楽はあっても、ライブに足を運んだことがなかった。音楽に限らず、お客さんとして何か生のエンタメを追いかけた経験がほとんどなくて、しいて言えば劇団かもめんたるだけは「これは見逃してはならない気がする」という思いのままに絶対毎回見に行くことを胸に誓っているんだけれども、今日のナードマグネットさんのステージと、手を高らかに上げるお客さんを見てなにかそういう、「絶対今日この瞬間を見逃すまい」みたいなエネルギーを感じた。
奇跡のように、今日この数分のステージに出会った高校生が、この数分のステージを日々の暮らしの中で少しずつ反芻したり、折を見て強烈にフラッシュバックしたりを経て、結果的に後々の人生に大きく影響されるみたいな、そういうエネルギー、僕らにあるんだろうか。

そういうところに立ってしまうと途端にしゃらくさくなってしまうのがお笑いの難しいところだったり面白いところだったりするから、今日の思い出は思い出として、僕らは僕らとして基本に忠実に「今日、こんなこと言ったらめちゃめちゃウケるかもしれない、めっちゃ滑っちゃったらどうしよう、ふふ」ぐらいの感じで臨んでいけたら良いような気もする。いつも通りやっていく。「『ブレナイ』の企画コーナーで~さんが放った意味分からんアドリブが面白すぎたお陰で就活に成功しました」みたいな人がいるかもしれないしな、知らんけど。

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