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『持ってこなかった男』

noteをあちこち飛び回っていたら、トリプルファイヤー吉田さんの自叙伝『持ってこなかった男』のアカウントに行き着いた。
今はもう非公開になっているが、今年2/21の発売に向けて販促用に本編の一部が無料公開されていた。今は名だたるハイセンス著名人から寄せられたコメントが載っているので見てみてください。


結論から言うと、僕はここに上がっていた一部の無料公開部分に強烈なインパクトを受け、まんまと、すぐに購入することを決意し、そのままあれよあれよとトリプルファイヤーの曲を聞くことになった。
たまったま触れた期間限定の、今となっては読めないnoteに運良く触れて、一冊のエッセイを買ったし楽曲も聞くきっかけにもなった。
僕目線で言えばあてどもないネットサーフィンで奇跡的に興奮するものに出会えて「運命…?」と感じるくらい本当にラッキーだったけれども、逆に言うと、自らの魅力に響いてくれる潜在的なサポーターに作品をリーチさせるのは本当に難しいことなんだろうと思う。

トリプルファイヤー吉田さんは、「ダイナマイト関西で勝ちあがっていた人」「呂布カルマ(呂布カルマさん)とラップバトルして盛り上げていた人」「共感百景でたまたま見かけて面白かった人」ぐらいの印象だけあって、トリプルファイヤーの曲は聴いたことがなかった。
「どう考えてもすごい人・面白い人」ということは分かっていたけれどもそこから曲を聴くということには至ってなくて、分野をまたいでお客さんを獲得していくということにも難しさを感じる(そもそも吉田さんがこんなにたくさん「面白い仕事」をしているのは、バンドのためなのか、はたまた趣味の一環なのかとかそのあたりの意図を知らないから何とも言えないけれども。あと普通に視聴者の立場になって曲を聴いてないことを偉そうに書く感じが非常に痒いんですがどうか、どうかご容赦ください)。

正確には3年位前に一度、友達がおすすめの曲があるということで「スキルアップ」のPVを見せてくれていた。
その瞬間は「これはいわゆるハイセンスだ」「いかしてるね」みたいなことを咄嗟に返したんだけれども、正直言うと映像の「血とか出てる感じがちょっと気持ち悪いな」という感想が先に来てしまって曲をよく聴けてなかったなと思う。

今は、すっかり耳にこびりついてしまって歩きながら「棒を突き刺す」と口ずさむことも増えたし、PVも曲のテイストを伝えるのにこれ以上ない世界観であるように感じる。
門外漢過ぎて本当に出しゃばったことは言いたくなさすぎるけれども、ともかく一度引っかからずスルーしてしまったものが後々色濃い存在感を持って登場する、みたいなことは往々にしてあるかもしれない。


僕は本当に音楽に詳しくなくて、ギターとベースの音の違いさえもあやふやだし、音楽シーンのことも何も知らない。音楽シーンについて話すときは「音楽シーン」という単語を口からこぼしてみたい時くらいである。
そんな僕が、2021年にもなって「トリプルファイヤーって、良いよね」と改めて言うのが、詳しい方々に「何を今さらしゃしゃっているんだ」という印象を与えかねないというのは容易に想像できる。


とはいえ2021年2月、ういろうプリンさん解散に端を発した「好きと思ったものはどんどん言っていった方が良いんじゃないの?問題」から学んだように、「好きと思ったものはどんどん言っていった方が良いんじゃないの?」とも思う。

とはいえ僕が何かここで書くことで「トリプルファイヤーさんのためになるのではないか」みたいな文脈で受け取られるのも違う、「うるせえ」と思われてしまうかもしれない(僕らを好きだという人は手放しに発信してください。僕らのためです)。

とはいえもう大人、ひいては表現者なんだから(ご容赦ください)、好きなものを好きだと、他意のないように上手に伝えることくらいできないといけない。

とはいえ


みたいな葛藤を経つつ、ともかくこのエッセイを読んで衝撃的に良かったから書くことにした。読んでて「これはすごい」って思ったものをただ伝えたかっただけ、そのハードルはいい加減どんどん下げていかねばならない。
ちょびっとだけ簡単な感想を書くのであとは本著を読んでください。


小学5年生からギターに触れた吉田少年は「自分には何かあるのではないか」という自意識でもって世間とぶつかっていく。
クラスメートから舐められてしまう現実と折り合いをつけながら、自分にはバンドがある、という砦を守りながらへらへらと傷つかないように生きていく。
いちいち言葉選びとか、自意識過剰の描写が本当に面白い。正直に書きすぎている。お世辞にも性格が良いとは言えない。でもこれくらい卑屈や自惚れの種みたいなものはみんな持ってるよな、と思わされる。ずっと笑ってしまう。特に笑った単語のうち一つだけ紹介するならば「スニーカー」。

ただただずーっと笑えるんだけれども、ラストおおよそ10ページ、全くもって結果を出せていないそれまでのバンドのスタイルをかなぐり捨て、新たなトリプルファイヤーとしてスタートを切るまでの葛藤が凄まじかった。
なかなか結果が出ない、「将来」とか「社会」が重くのしかかる。そうした窮地の中で、それまでへらへらしながら過ごしてきた生き様が、急速に新しいトリプルファイヤーのスタイルとして結実していく、その展開が本当にたまらなかった。唸った。


僕は、学生時代を毎日楽しく過ごしてきた。毎日「明日学校があるのがうれしいな」と本気で思っていた。
中学高校と、好きな女の子には振られ倒していたけれども、文化祭のクラスの出し物で、「ザ☆ピ~ス」をセンターで踊るような、まっすぐ汚れのないお調子者だった。一時期はパワプロの矢部君宜しく狂ったように語尾に「やんす」をつけてウケをとるという妙な中二病も発症していた。
今冷静に振り返ると語尾のやんすがウケているわけないだろという気もするけど、気分良く過ごしていたのは事実だった。

その反動で、芸人になってみると「陰鬱な背景やエピソード」がないことに妙にコンプレックスを抱えることになった。打ち砕かれる度に、面白い人は全員暗いところからスタートしてるのでは?という極端な仮説を立てることもあった。

とはいえ楽しかった過去をまるっと否定するなんて絶対におかしいし、自分がどういう生き様だったのかを素直に振り返った時に、爆発するヒントがあるんじゃないかという気もしてる。「持ってこなかった男」で気づかせてもらったと思ってる。
いつか僕が自伝を出せるくらい世の中にかませるような存在になっている時は、そうした学生時代もすごく意義あるものとして再構築されていることと思う。


僕の感想とか人生とかどうでも良くて、とにもかくにも読んでみてほしい。
僕が面白いと思ったんだから面白いに決まってる、みたいな自信がある。是非。

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