見出し画像

【本の紹介】モスクワの伯爵

とあるロシアの伯爵が、革命を機に高級ホテルへ一生軟禁とされてしまう。そのホテルの中での様々な人々との交流などがメインに語られていく物語。

伯爵はホテルから一歩でも出たら銃殺刑とされているので、物語はほぼホテルの中で進行していく。これだけ聞くと悲壮そうであるとか退屈そうであるという第一印象を抱く人が多いと思う(自分もそうだった)。しかしそれは大間違いだ。

年代や関わる人々によって、一旦全てを失ったかに見える伯爵は徐々に人生を再スタートさせていく。伯爵曰く「自分の境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる」。培った教養とめげない精神とユーモアで様々な物事に対処し、人々から影響を受け、与えつつ物語は進んでいく。

なんというか、くすりと笑える場面、箴言に満ちたセリフ、読者を飽きさせない場面描写を伴いながら、あっという間に年代は進んでいく(全体で30年強ぐらいの物語である)。

訳も実に丁寧で読みやすい。これだけ一字一句じっくりと読まなければならないと感じた小説は、実に久し振りな気がする。全体で600ページ強の大長編ながら、ついつい引き込まれてあっという間に読み終えてしまった。

全体での読後感もさりながら、各章での読後感もとても良い。のんびりじっくりと味わいながら、そして我が身を振り返りながら、ウイスキーを片手にゆるゆると読める小説であった。

なんとなく自分の人生とは?的な思いがある40代後半から50代前半の人に、特に読んで欲しいと思う。下手なビジネス書や自己啓発書を数冊読むより、この物語をじっくり味わったほうが得られるものは多いと思う。


この記事が参加している募集

推薦図書

毎度ご覧頂き感謝です♪ お布施をしていただくと、僕の喫茶店での執筆時のコーヒー代になります。とても助かります。