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マーダーミステリーの短評(第9回)

オッドタクシー ショー・タイム

オッドタクシーファンであれば作品の雰囲気をうまく再現したマーダーミステリーとして楽しめるでしょう。細かいところに原作とつながるネタがいくつも仕込まれています。
オッドタクシーを知らない人でも、プレイ自体には支障はありません。

ただし純粋にマーダーミステリーという面だけを評価すると平々凡々で、ありきたりな作品です。
オッドタクシーは現代日本が舞台で、現実の範囲内での非日常つまりミステリーを扱っていますが、マーダーミステリーも殺人事件や法に触れるような個人の秘密という非日常を扱っています。
どちらも日常生活からはかけ離れているのですが、ベクトルが似通っていることで、「マーダーミステリーの中のリアルとしては当たり前」になっています。

それでもある1点に関しては、ほかのマーダーミステリー作品では見られないユニークなポイントがあります。
ただマーダーミステリー初心者がプレイしうるIPモノで含めるべき要素ではありませんでした。
リアルの差に着目する視座は新しいのですが、それはマダミス666のような作品で行うべきことで、IPモノで行うのはマーケティング的に望ましくないでしょう。

夜の蛙は眠らない

マーダーミステリーというよりは推理アドベンチャーゲームを遊んでいるようなプレイ感の良作で、「青春を駆け抜けるマーダーミステリー」というキャッチコピーにふさわしい作品です。
ココフォリアをうまく利用した演出も秀逸で、エンターテイメントとしての完成度は高いです。

ただし一般的なマーダーミステリーとはプレイスタイルが異なるので、ガチガチの推理や駆け引き、オーソドックスなマーダーミステリーを望む方は期待外れに終わります。
またいっそう質を高めるという点では、ココフォリアとDiscordを行き来する必要があり、いまプレイヤーがどちらに注目すべきかがはっきりしないためにせっかくの演出を見逃してしまう可能性があります。プレイヤーの意識も散漫になってしまうため、この点を改良できればさらに没入感が高まります。

凍てつくあなたに6つの灯火

プレイヤーが担当するキャラクターの秘密と目標が自キャラと大切な人を合わせて実質的に2倍で、カードの枚数も多く、ゲームの展開も多層的でかなりやりごたえのある作品です。
まさにゲームマーケットで受注生産のみで販売というマダミス666の購入者層にマッチした難易度とボリュームです。それゆえにプレイの機会はあまりないでしょうが初心者には向いていません。

キャラクターの満足度はおおむね高いのですが、あるキャラクターだけは心情と目標が一致していません。優先度の問題ですが、作品のテーマを考えると物語の没入感を最優先した方が作品にはマッチしているのではないでしょうか。

廃城の錬金術師

白地図に探索結果を書き込んでいくという、往年のTRPGを彷彿とさせるほかに例を見ないプレイスタイルです。
これを楽しいと感じられるかどうかがこの作品の評価を大きく分けます。

ゲームバランスはかなりシビアです。
犯人探しの推理、ボードゲーム的な要素、プレイヤー同士の駆け引き、物語の体験が詰め込まれているので、マダミス666という購入ターゲットを絞った企画だからこそ実現できたハードコアな作品です。
それを乗り越えられれば大きな満足度が待っていますが、挫折すると未消化感が残ってしまいます。

ポケットの宝物

GMレスでプレイできる工夫がしっかりしていて犯人探しの導線もシンプルで、その意味ではマーダーミステリー初心者でも楽しめます。
ただし犯人探し以外の設定で違和感を覚える箇所がいくつかあり、全体のゲーム体験としての評価を落としています。

1つはプレイヤーキャラクターにとっては疑問でもなんでもないことが、記述の不親切さでプレイヤーへ混乱を生じさせている点です。これによって不毛な議論が生し、結果として本筋の議論が逸れてしまっています。
もう1つはストーリーの矛盾点で、これは力量や考察不足から生じています。
ゲーム終了後に解説はあるものの、肝心な箇所がなに1つ語られていません。
ピークエンドの法則に則るのであれば、せっかくの良いところを帳消しにしてしまっています。

蒸気の街には薔薇が咲く

ユニークな世界観の中でプレイヤーの思惑が交錯するよくできた作品です。
世界観、キャラクターの個人目標、犯人探しと取り扱い方を誤るとまとめきれないアクの強い要素が見事に調和されています。
別の世界線、別の結末を見たくなる魅力が備わっています。

全体的には楽しかったという感想で終わるでしょうが、惜しむらくはキャラクターの満足度が低いであろう人物がいることです。
プレイヤーは平等で1度しかプレイできないので、満足度はなるべく均一化させてもらいたかったです。

をとめのつどい

誰しもが犯人になるというシステム、かつそれが公言されているのはおそらく初めての試みでしょう。
戦後の女学生という舞台設定は興味深いのですが、作中で十全に生かされているように感じられなかったのが残念です。

エレベーターアンソロジーの総評

マーダーミステリー業界で名が知れたクリエイター陣が「エレベーター」というテーマでそれぞれの作品を出すということで、面白い作品、実験的な作品がプレイできるのだろうとかなり期待していました。
5作品がセットで5000円というのはオンライン作品としては強気な価格設定ですが、オンライン作品の価格帯は割安なので、このアンソロジーをきっかけに価格帯の見直しが起こるかもしれないと予想していました。
結果的にはそれらの期待は裏切られてしまいました。
個別の評価は別途で述べていますが、どれも有料作品としての及第点にも至れていません。『シャークマーダー』のようにネタ作品であることがわかっていればまだしもそれすらなく、しかもネタシナリオだったとしても『シャークマーダー』より数段劣っています。

ともに

文章の質、キャラクター造詣、推理導線はいずれも概ね質が高い佳作です。
ただややもすると一方的な展開になりえる点は気がかりです。
エンディングについてはクリエイターの業を考えると、必ずしも作者の筋書き通りにならないのではとも感じましたが、そこはプレイヤーの解釈次第ではあります。
エレベーターアンソロジーの中では個人的に最も質が良いと感じました。といっても及第点レベルではありますが。

双塔の悪魔

ワンアイデアで押し切ろうとした作品。60分かけるのであれば推理を積み重ねる演繹的であるべきですが、そのようには感じられませんでした。
キャラクターは個性的で楽しめました。

ア・ラソンスール

マーダーミステリーで最も大事なのは終わった後の納得感ですが、それが感じられませんでした。ほのめかしはあるとはいえメタ思考も含まれていて、なんでもありと感じられる部分があり、ミステリーの基礎を悪い意味で覆しています。
文章の質は高いです。

暗闇のエレベーター

アイデアには面白い要素もありますが、重要な1点においてそもそもマーダーミステリー風ではあっても、マーダーミステリーとして成立していません。
また推理に必要な要素が十分に出そろっているとはいえず、思いついたアイデアをまとめてみたというお遊びレベルの作品と感じました。

2050年宇宙エレベーター

ともかく説明が足りていません。プレイヤーキャラクターが知っていることをプレイヤーが知らないため、推理が無駄に迷走して本線の推理が進みません。
どの箇所も一言、二言を付け加えるだけでずいぶん変わるはずで、この文章量で完成となったのかが残念です。

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