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症例振り返り17 頭部外傷で見落とすと危ない首のこと。外傷性頚髄損傷は骨折がなくても起こりうる。

月1回の日直にいってきました。

救急外来はコロナとインフルで賑わっています。さすがに発熱も飽きてきたぞと思いつつ見落としがないよう引き締めないとと頑張ってきました。

そんな発熱外来をPPE着ながら回している最中に他の先生から相談を受けました。


症例:高齢男性の頭部打撲

施設で暮らす、ADLは車いすで移乗は何とか自力でできる高齢男性。

昨夜に転倒して前頭部をぶつけて、今朝は車いすに座るとずり落ちそうになり食事も普段自力で食べられるのが介助が必要で、若干むせるようになったよう。

意識は普段通りだけどそもそも意思疎通はかなり難しい方で、両手の筋力が施設スタッフから見ても普段より落ちているとのことでした。。

元々低Na血症で塩化ナトリウム内服しており、頭部CTで問題なく採血でNaが普段より少し低めなので低Na血症での症状でしょうか?とコンサルトを受けました。

頭部外傷での頭と首

頭部外傷に慣れていない初期研修医がはじめに学ぶことは、「どのような頭部外傷で頭部CTを取るか?」だと思います。

これに対してはカナダ頭部CTルールニューオーリンズ基準なんかが有名ですかね。

そしてちょっと慣れてきた初期研修医だと、「外傷を負った原因はなんなのか?」に着目することができるようになり「一過性意識障害」「転倒前からの体調不良、麻痺」なんかを病歴から探ることができるかもしれません。


だいたいこの2点は、普通の初期研修教育がなされている病院であれば身につくんじゃないかと思います。


そこまでいって自身がついた時に足元をすくわれるのが「首」です。

そもそも頭部画像を取るか取らないかっていう視点でのスコアリングがあることで、余計に盲点と化している気がしますが「頭をぶつければそりゃ首にもくるよな」って簡単に想像できますよね。

症例のその後

コンサルトされたプレゼンで、「前頭部外傷」+「両手の筋力低下」から頚髄損傷を疑いました。

頭蓋内病変では原則片側性の麻痺が出ますが、頭頂部病変であれば対麻痺はありえます。今回は頭部CTは陰性でした。

身体所見を取ると、四肢の病的反射は陽性で反射は減弱していました。急性の錐体路障害では反射亢進しないことがあります。

ネックカラーを装着して頚椎CTを撮影したところ、骨折や脱臼はなく軽度の辷り症がありました。

非骨傷性頚髄損傷と考え、すでにせん妄気味になっていることや全体像からは保存的加療となると予想されましたが放射線科の空き状況や家族説明のことなど考え緊急でMRIを撮影した。

結果MRI T2強調画像で頚髄内に信号変化を認め、非骨傷性頚髄損傷の診断で保存的加療の方針となった。

非骨傷性頚髄損傷(Spinal cord injury without radiographic evidence of trauma:SCIWORET)

・画像評価で頚椎損傷の所見のない頚髄損傷のこと
・元々小児で言われていたが、65歳以上の男性でも多い。
・受傷機転として転倒による軽微な頭部打撲が多い(参考
・治療は保存的加療か手術加療かは明確に決まっていない。
・急性の浮腫などを抑える目的でのステロイドも明確なエビデンスはない

整形外科の先生から聞いた話で勉強になったのは浮腫によりさらに脊髄損傷が広がる可能性があるということ。逆に言うと受傷から数日後に脊髄損傷の症状が出うるので注意する必要があるなと思いました

まとめ

・頭部外傷では①頭のこと②受傷の契機に加えて③首のことまで考える。
・骨折や脱臼がなくても非骨傷性頚髄損傷という病態がある。


参考

Bonfanti, Laura et al. “Adult Spinal Cord Injury Without Radiographic Abnormality (SCIWORA). Two case reports and a narrative review.” Acta bio-medica : Atenei Parmensis vol. 89,4 593-598. 15 Jan. 2019, doi:10.23750/abm.v89i4.7532

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