作品「4 路地」



4 路地


私が
耳の人と出会ったのは
ひっそりとした
路地奥の喫茶店だった

休日の昼下がり
店へ行くと
たいてい
その人はいた
いつも
白いうつわで
珈琲をすすっていた
二、三度顔を合わすうちに
話をするようになった

印象に残った言葉を記す
 
 木曜日の
 珈琲はおいしい

 路地奥では
 十九世紀が続いている

 世界が一つになって
 よいことは一つもない

私が詩を書いていることを知ると
その人は
 だから
 ここに避難しているんだね と
指摘した
そして
はっと何かを思い出したように
ポケットから
どんぐりを取り出し
 お守りになるよ と
手渡してくれた









『耳の人』(BOOKLORE)
『歩きながらはじまること』(七月堂)

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