2024年4月3日午後-法務委員会参考人質疑-岡村晴美参考人

武部新議長


次に、岡村参考人、お願いいたします。岡村参考人。

岡村晴美弁護士


名古屋で弁護士をしております岡村晴美と申します。弁護士になって17年目になります。取り扱い分野はDV、性虐待、ストーカー、その事件が8割。残りの2割で職場のパワーハラスメント、セクハラ、学校のいじめの事件を担当してまいりました。
離婚事件に関しては、これまで1500件ほどの相談を受け、受任した事件は600件ほどです。DV事件を担当してきた弁護士として、今回の改正に反対の立場からお話いたします。ここ数年、困難女性支援法の成立、DV防止法の改正、性犯罪に関する刑法改正など、困難や暴力にさらされている女性の支援法の整備が進められてきました。しかし、支援の現場にいる私達はそれを実感できてはいません。
現在DV被害者は受難のときを迎えています。日本ではまだまだ男女の賃金格差が大きく、ワンオペ育児という言葉に象徴される通り、性別役割分業意識が残り、経済的に劣位に置かれる女性の多くは家庭の中でDVを受けても、子供を育てるために我慢を重ねるという現状があります。
DVには身体的暴力はもちろん、精神的暴力、性的暴力、経済的暴力、社会的隔離などの非身体的暴力を含みますが、それが社会に周知されているとは言い難く、身体的暴力が重いDVで、非身体的暴力は軽いDVであるという誤解があります。
DVの本質は支配です。暴力は手段、海外ではドメスティックバイオレンスという言葉を改め、ドメスティックアビューズという言葉が使われるようになっているそうです。DVに関する理解のもと、子連れ別居したことを、そこだけ切り取って連れ去り、実子誘拐などと非難する風潮が生まれています。
DV被害者に対して、誘拐罪での刑事告訴や民事裁判、被害者側弁護士に対する懲戒請求、自分こそが連れ去られ被害者である旨をSNS等で発信し、配偶者や子供、その親族の写真や個人情報を公開するなど、加害行為が別居後にも終わらず、むしろ復讐にも近い形でエスカレートするケースが増えています。
離婚や別居でDVが終わるという時代はもう終わりました。適切な言葉がないのですが、海外ではポストセパレーションアビューズというそうです。日本においても非常に深刻な被害が生じていますが世間に知られていません。
離婚後もパパもママもという言葉は心地よい響きですが、離婚後も子供を紛争に巻き込み続ける危険性について真摯に受け止めなくてはいけません。共同親権制度の導入を求める人たちの中に、離婚後の子供に対する養育責任を果たすことを目的としている方もいるでしょう。しかし、親権を権利と捉え、強く親が権利を主張して、自分の思い通りに子供に関われないのは、単独親権制度のせいであるという誤解に基づいた主張も散見され、家事事件の現場で紛争性を高めているという実態があります。
例えば、未成年者等の健全な育成を監督するために、別居親が面会交流を求め、面会交流の不実施について違約金を定めるよう主張するなどした事案では、監護状況の監視を目的とする面会交流は必要性がないばかりか、子を別居親と同居人との間で精神的に板挟みの状況に起きかねないとして子の利益に反すると判断されています。
また、別居親が同居人に対し、父子断絶をもたらした、質疑もできず監護親として不適格などと非難を繰り返し、年3回、1回2~4時間の面会交流を認めた審判を足がかりに、間接強制を繰り返し申し立てるなどした事案では、その抗告審において、別居親と子との面会交流は禁止されています。
これらの事案は、共同親権制度が導入された場合に、共同から除外されるのでしょうか?共同親権制度の必要性について不信感を根拠に監視し合うということにあるようにも解されており不安でなりません。2010年代以降、家庭裁判所の面会交流について積極的に推進してきました。
2011年の民法改正で面会交流が明文化され、2012年、裁判官が論文発表すると、面会交流は原則実施論と呼ばれる運用となりました。調停の席で、どんな親も親は親、虐待があったからこそ修復をしていくことが子供のためという説得がなされ、DVはもちろん、虐待も、子の拒否すらも軽視されて、同居親にとっても子供にとっても非常に過酷な運用がなされてきました。
法制審議会では、2010年の調査に基づいて、離婚直後は紛争が激しいが、3年とか5年で落ち着いてくるということが紹介されていましたが、2011年以降、実務は様変わりしています。家族の問題の根本は人間関係です。離婚後に面会交流ができる人は自分たちで自由にやれています。規律とか約束とかなく面会がやれているのがベストなんです。

それができない人、つまり自分たちで決められない関係にある人たちが、法律裁判所を使います。その結果、困難な事案ほど面会交流の細かい取り決めが求められ、審判で命じられるということになりました。
面会交流時の殺人事件や面会交流中の性虐待事件も起こっています。これは極端な事件ではありません。氷山の一角です。このような実態を踏まえ、2020年、家庭裁判所は運用を改め、ニュートラルフラットの方針を示しました。
原則例外ではなく、ニュートラルフラットとそういう公平なことを言葉を2個も重ねて事案に向かうということが提案されたのです。面会交流は子供のために良いものという推定のもと、DVや虐待などの不適切ケースは調査によって除外できるという考えで、弊害を生じさせてきました。これは共同親権制度の導入を考えるときにも参考にすべき経験です。
新規の協働は子供のために良いもの、そういう推定に基づいて、原則共同親権と解釈することは子供の利益を害します。共同親権制度の賛否が聞かれることがありますが、私は共同親権か単独親権かという問題の立て方に違和感があります。
離婚後の父母の父母と子の関わりをどう考えるかという問題であり、法制度のあり方にはグラデーションがあるはずです。現行法では、離婚後の同居親が親権を行使する場合、つまり子供のことを決める場合、単独でもできるし、別居親と一緒に決めることもできます。
1人で決める。つまり単独親権と相談して決める。つまり共同親権、これを選択して行使することができます。しかし、共同親権制度が導入され、共同親権が適用されれば、単独で行使することは、例外事由に当たらない限り許されなくなります。
つまり、同居している監護親が1人で決めることができなくなるということです。他方の親に拒否権を与えることになるのです。単独行使ができるのか、単独で行使するというようになるのかというのが共同親権問題の正しい捉え方です。
父母の意思疎通の困難さを軽視して共同親権を命じれば子に関する決定が停滞し、裁判所がDVや虐待を見抜けずに共同親権を命じれば、DVや虐待の加害が継続することになるということを深刻に捉える必要があります。他方で、日常の監護に関する共同の規定は、現行法においても、民法766条という規定が既に存在しています。
共同養育に関しては、当事者間で協議ができないときには、裁判所が審判で命じることができます。親権の有無と面会交流の実現とは別の問題です。面会交流については、非合意型の審判制度を認めつつ、親権という子供に関する決定に関わる規律については、父母双方の合意がある場合のみ共同行使を選択できる現行法こそ子供のために最善で最適解の落としどころだと考えます。
今回の法改正は、子供の養育責任を果たさない親に責任を果たさせるものではありません。子供が別居親に会いたいときに会える手続きを定めたものでもありません。同居人の育児負担を減らすものでもありません。男女共同参画を進めるものでもありません。選択肢が広がって自由が増える制度でもありません。父母が協議して、共同親権を選べるようになるという説明がなされることがありますが、それは論点ではありません。
それに反対している人はいないんです。共同親権制度は、自由を広げる制度ではありません。相談して決めることができそうな人たちにとっては必要がなく、相談することができない、対立関係にある人ほど強く欲する制度。それが共同親権制度です。
親権の共同行使の合意すらできない父母にそれを命じたところでうまくいきません。第三者機関がサポートできるのは、双方に合意がある。面会交流、限られていることに留意する必要があります。DVや虐待が除外されなければ、共同親権は支配の手段に使われる可能性がありますが、改正法に抑止策はないに等しいのが現状です。
法制審議会の家族法部会で要綱を決議した際には3名の反対1名の棄権があったものの、多数決で採決されました。これは多様な意見を取り入れてということが先ほど大村先生から言われましたが、端々にある極端な意見を聞いて中庸を取ったというのではありません。DV被害者やシングルペアレント支援者の意見がただ単に切り捨てられたということになります。
どうか国会で慎重に議論してください。法制審議会で中心的な役割を果たした棚村まさよし議員は取材に対し、共同親権が望ましい場合の基準や運用については、十分な議論ができなかったと述べています。結論ありきで議論が不十分なまま推し進めるのは絶対にやめてください。
反対や慎重な検討を求める声がたくさん上がっています。2024年1月、弁護士有志から法務省に対して慎重な議論を求める申し入れを行いました。その際にも多数の切実な声が寄せられました。代表的なものを二つご紹介します。
一つは、ごく普通の離婚の場合でも、共同親権制度の導入は子供のためにならないという点、離婚というものの本質は、元夫婦間の信頼関係の決定的な破綻、信頼が破壊された父母間が法的手続きを利用している、信頼関係にない父母による共同親権は子供のためにならない。
二つ目、共同親権制度に対する深刻な懸念の声を届けても、真摯な対応はなく、皆失望していますという点、現行法でも何ら共同養育をすることに問題はない。相談者・依頼者から、深刻な懸念の声を聞いている。フォローケアの担保をなくした法制化はあり得ません。
2024年2月に実施された弁護士ドットコムのアンケートでも、要綱案に8割が反対という結果が出ています。法案提出前の議論についても、8割が議論は尽くされていないと回答しています。離婚の現場はどう変化するかという問いに対しては、紛争が長期化する。対立が深まる取り決めが細かくなるトラブルに繋がる結婚や離婚を諦める人が増えるという声が寄せられています。
子供にプラスになるという意見は、子供の養育に協働していく意識が醸成されるという理念的なものにとどまるのに対し、子供にマイナスになるという意見は、保育園入園妨害など、子の福祉に反する状況が発生する、養育心が進学や病気の際に速やかに方針決定できないなど、子供の生活に直結しています。
導入されようとしている改正は問題が山積みで15分の間に指摘し尽くせるものではありません。最も懸念されるのは、共同親権制度が適用された場合、同居中であっても別居後であっても、他方の親の許可が必要となり、許可を取らなければ違法とされ、慰謝料請求されるということになることです。これを抑止する手当がありません。
ポストセパレーションアビューズの武器が無限に加害者に与えられます。対策なく法改正されることになれば、家族法はストーカー促進法嫌がらせ支援法となりかねません。
裁判所の人的物的の資源の拡充もなく、規定が先行することに対しても大きな懸念があります。現在でも火災をパンクしています。2ヶ月に1回も期日が入りません。共同親権制度が導入された場合、共同親権か単独親権か共同親権にした場合、監護者を定めるか定めないか、監護者を定めなかった場合、監護の分掌、教育は父だが両派など取り決めをするのかしないのか。またまた平日は休日は知事などの監護の分掌の文書をするのかしないのか、複数申し立てられた項目の採否を家裁が全て判断することになります。これは多様性の反映ではありません。制度の複雑化です。そしてせっかく決めても、共同と決まった場合に問題が生じれば、家裁に持ち込んで決めてもらう必要が生じ、今後に備えて単独親権を求める申し立ても併せて起こることでしょう。そして単独と決まっても、また今度は共同への親権者変更が起こされる可能性があります。
祖父母と第三者の面会交流が認められたことによる面会交流事件の件数の増加、審理の長期化も避けられません。中間試案に対する各裁判所の意見にも争点が複雑化し、審議が困難で長期化し、申し立てが乱用されるという意見が随所で上がっていました。これは容易に推察できる具体的かつ深刻な懸念です。
現場の感覚で申し上げられるなら、裁判官調査官の増員は2倍3倍では足りません。過重な事件を抱えた家庭裁判所が迅速に審議を進めようとすれば、原則共同親権の運用に流れ、説得しやすい方、つまり弱い方に痛みが強いられ、子供やDV被害者の意見が封じられることになるでしょう。
現場から声を上げても、意思決定機関に届くすべがなく、今回このような機会を賜りましたこと、本当にありがたく思います。今回お出しした資料が166ページにも及んでおりまして、議員の皆様におかれましては大変ご迷惑なことかもしれません。しかしこの半分は私ではない、現場の弁護士の切実な声を集めたものになっています。すごく大切な法案です。ぜひお目を通していただきたいと心より思います。以上が私からの報告です。ありがとうございました。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?