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「バンドデシネ」だから、太陽のジリジリ感が伝わってくるカミュの『異邦人』

「今日、ママンが死んだ。」というショッキングな書き出しで有名な、アルベール・カミュの『異邦人』。
そのバンドデシネ版を読んでみました。

バンドデシネとは主にフランスなどで出版されているスタイルの漫画ですね。
コマ割りはされているのですが、左から右に読み進めます。
日本のマンガやアメリカのコミックのように、ダイナミックな動きでスピーディーに読ませるというよりは、静的な1コマ1コマをじっくりと眺めていくような感じでしょうか。
フランスでは「第9の芸術」と言われているようで、様々な作家と作品が存在。
日本ではベルギーの『タンタンの冒険』などが特に有名です。

今回読んでみた『異邦人』は、主人公のムルソーが母親の死を知るところから物語が始まります。
その後、旧友との再会と旅行、そして旅先で犯した殺人とその裁判までが、どこか他人事のようなムルソーの視点で描かれている作品です。
初めて読んだ際、私は正直ムルソーに対して「なんだコイツ…」と思ってしまいました。
しかし不思議と嫌悪感だけでなく、場面ごとになぜ彼がそのような態度を取ったのか、不可解な発言をしたのか、興味を持って読み進めることができました。
それと、アルジェリアという国の、砂浜のむせかえるような暑さが伝わってきたのを覚えています。

バンドデシネ化ということで、作者のジャック・フェランデスさんの美しい絵と青柳悦子さんの邦訳が作品のイメージをより鮮明にしています。
カミュと同郷の作者だからこそ描ける風景により、アルジェリアやフランスに全く馴染みのない私にとってさえも、作品が強く現実味を帯びて伝わってきました。
本作はいわゆる「名著を漫画にして読みやすくしたもの」というだけで終わっていません。
原作の地の文は主人公ムルソーの一人称で書かれていました。
このバンドデシネでは、原作で地の文として書かれていたモノローグが吹き出しになっていたり、そのままモノローグになっていたりと、丁寧な作品の再構築がなされています。

また、コマごとにあまり構図を変えずに描かれるバンドデシネは、”じっとり”とした『異邦人』の世界観にマッチしているように感じました。
時折コマとコマの間、ページ中央付近に大きく描かれる港町やビーチの背景は、何気ない会話や悲惨な事件が起きた場所はどんなところなのか、鮮やかにイメージさせてくれます。
水彩画でやさしいタッチだからでしょうか、背景をイメージする時の脳の負担が、通常よりなんだか軽いような気がします。なんとなくですが。

そんなやさしい絵がついた『異邦人』。
読んで感じたムルソーの印象は、やはり「なんだコイツ…」でした。
でも、そんなムルソーを取り巻く人々の発言は、どういう意図があろうが彼にとってはノイズだったのかな、と彼の表情を見て思いました。


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