【2023年12月、小良ヶ浜取材その1 富岡駅〜小良ヶ浜】
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2023年11月30日に富岡町小良ヶ浜地区の避難指示が解除されると報道があった。かつて何度か訪れており、そのエリアの空間線量率が高いことは知っていた。あんなに線量が高いところを、解除出来るのか? しかし報道をよく見てみたところ、その地区の6つの拠点(公民館や墓地)と、そこに至る数本の道路が解除されるだけだと知った。未だ人が住むことは出来ない。それを果たして、「避難指示解除」と明るいニュースであるかのように伝えるのは如何なものか…当然、実際はどうなっているのか、見に行かないわけにはいかない。12月最初の週末、JR東日本の週末パスを使って、いつものように行くことにした。
小良ヶ浜地区の今後について、僕が知ってるのは「商業施設が建つ」というものだ。汚染が酷く線量も高いので、住む場所ではなく通う場所として整備する。おそらく、双葉の原子力災害伝承館のように、コンクリで固めて出来る限り線量を低減した形で再開するのだろう。
現状、6つの拠点と道路だけ解除というのは、墓参りに自由に行けること、元の地域住民が集まる場所を作ること、それが目的なのだろう。その程度のことは、実際にどういう形で解除されるのかを知れば想定出来るはずだが、大手のメディアは一部を除いてどこも明るいニュースであるかのように扱う。こうした「復興の演出」には、正直うんざりする。
12月2日、朝6時前に家を出て、11時頃に富岡駅に着いた。一番最寄りの駅は夜ノ森駅だが、あいにく適当な時間に夜ノ森駅に停車する電車はない。なので、富岡駅から小良ヶ浜地区まで歩く。これまでにも何度か歩いた道なので、グーグルマップには頼らずに行ったのだが、逆にそれが仇となった。
最後に小良ヶ浜地区に来たのは2022年6月。しかしその場所は今もゲートで仕切られて行き止まりなので、この日は別の道から海へ向かうことにした。
実際に歩くと、道路上は除染され、0.4〜1.3μSv/hほど。しかし、道路脇の土の上まで行くと、あっという間に2μSv/hを超えてしまう。また、このエリアは今も除染中であり、土曜日にもかかわらずひっきりなしにダンプが出入りし、重機もあちこちで動いている。土埃が舞い上がる様が目に見えて、ここを歩くにはマスクが必須だ。
そんなこんなで5キロ近く歩いたところで、通れると思ってた道がバリケードで閉鎖されていたので、確認しようとリュックを開けたところ、iPadがないことに気づいた。富岡駅のベンチの上に忘れてきたのだ。慌てて引き返し、まずは奥さんにガラケーで電話。そして富岡駅脇の観光案内所の電話番号を調べてもらい、すぐに電話した。電話先に出たおじさんは、その場で駅まで見に行ってくださり、簡単に見つかった。ほっと胸を撫で下ろし、今から小良ヶ浜から歩いて行くので1時間ほどかかりますというと、「歩いて!?」と電話先でおじさんは吹き出してしまったw
必死で歩いて富岡駅まで戻ってiPadを受け取り、ひとまず自己紹介をした。絵本を描いているなら…とそこでおじさんは机から一冊の絵本を取り出した。出版社が商業出版しているものではなく、富岡町が配布用に制作した小冊子のようなもの。『大倉山のとみっぴー』と題したその絵本は、原発事故のこともしっかりと描かれており、好感が持てるものだった。虚飾に満ちた不自然に復興を煽るものより、こうしたほのぼのとして自然体なものの方が共感を呼ぶ。
しばらく休んで、さて予定変更。富岡漁港には行ったことがあるが、それは現地の知り合いの車で連れて行ってもらったもの。自分の足で行ってみることにした。
福島第二原発を撮影し、漁港に着いてぐるっと回る。富岡川の河口の方へ行くと、ウエットスーツ姿でサーフボードを抱えて海に入っていく人がいた。
疲れ果てていたが、サーフィンをするそのおじさんの姿は、何かとても清々しい気持ちを抱かせるものだった。1F周辺の海からは、トリチウムだけでなく微量のセシウム137も検出される。人によっては「汚染された海でサーフィンなんて」という人もいるかも知れないが、そんな野暮な言葉はこの人には似合わない。メディア向けにパフォーマンスでサーフィンをする小泉進次郎とは違う。「そこに海があるから波に乗る」ただそれだけのこと。
いつも取材で福島に来ると、打ちのめされて宿に帰ることが多いが、今日は違う感覚を持って帰ることが出来た。
この日はトータル24000歩。当初の予定は変わってしまったが、何だかんだで結構歩いて、収穫もあった。明日は忘れ物のないように、夜ノ森駅から小良ヶ浜を目指そうと思う。いわき駅前のLATOVのおのざきさんで肴を買い込み、一杯やって床に就いた。
<続く>
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