見出し画像

寝るのか、寝ないのか。それが問題だ。

赤ちゃんがうまれる前、まだ奥さんのおなかが大きかった頃、僕はときどき「こんにちは、あかちゃん♪」と口ずさんで、気分を盛り上げていた。

1963年(昭和38年)にリリースされたこの曲は、作詞・永六輔、作曲・中村八大の黄金コンビによって作られ、梓みちよさんが歌って売上 100万枚を超える大ヒット。これをモチーフにした映画やドラマまで作られたという。

赤ちゃんがうまれた後、さらに気分を盛り上げようと『こんにちは赤ちゃん』を Spotify で聴いてみた。すると後半、思いもよらぬ展開になっていることに気づく。

こんにちは 赤ちゃん おねがいがあるの
こんにちは 赤ちゃん ときどきはパパと
ホラ ふたりだけの 静かな夜を
つくってほしいの おやすみなさい
おねがい 赤ちゃん
おやすみ 赤ちゃん わたしがママよ

梓みちよ『こんにちは赤ちゃん』より

「おーねーがい、あーかーちゃん」のところ、梓みちよさんの歌唱が鬼気迫っていて驚いた。でも実際、赤ちゃんと暮らしてみると、この「おーねーがい」の感じ、とてもよく分かる。

寝るのか、寝ないのか。それはわが家の一日を決める大問題だ。
昼間に赤ちゃんが寝ることは、われわれ夫婦に自由時間ができることを意味する。夜に赤ちゃんが寝ることは、われわれが睡眠を許されたことを意味する。

うまれたての頃は「『寝ててくれたらいい』なんて、思うこと自体かわいそう。おれは起きてても全然かまわんぞー」と粋がっていた。でも、それから何度「おーねーがい」の気持ちになったことだろう。

睡眠が暮らしのキモになることは、うまれる前から分かっていた。
奥さんは何冊も本を取り寄せ「安眠のコツ」を調べていた。

当初は「フランス式」といって、泣いてもじっと観察して手を出さない形でやっていこうと思っていた。そうすることで、赤ちゃんが自分で寝ることを学習するのだ。素晴らしい。これでいける。今日から僕らはフランス人だ。オー、シャンゼリゼ。

しかし、実際やってみると、ここはまぎれもなく日本だった。観察しても、寝ない。シャンゼリゼ通りも凱旋門もどこへやら、抱っこして必死に揺する日本人夫婦の姿がそこにあった。

「時間をきっちり決めて、スケジュール通り動くといい」というアドバイスもあった。これも全くその通りだと思ったが、産後のくたびれ果てた奥さんとなにもかもがはじめての育児に計画性を求めるのは、無理があった。結局「来た球を打つ」式にひとつひとつ対処しているうちに、なんとなくリズムができた(それでも「夜にしっかり暗くしてメリハリをつける」のは効果があったようだ。昼には寝ない赤ちゃんも夜に電気を暗くすると、長い時間、寝るようになった。)

それ以外にも、ネットで検索すると、無数の「寝かしつけ」に関する情報があふれている。それだけ多くの両親が「おーねーがい」状態にあるのだろう。『こんにちは赤ちゃん』は全ての親の気持ちをとらえた、見事な曲なのだ。

ちなみにこの曲、もともとは永六輔さんが中村八大さんの第一子誕生の際にプレゼントした曲だそうで、歌詞も違っていたそうだ。

「はじめまして 僕が親父だ」

こうなると『こんにちは赤ちゃん』がゴリゴリの昭和になってしまう。
そういや、僕は自分のことを「親父」とは思わないなあ。令和だからかな。

記事を読んでくださって、ありがとうございます。 いただいたサポートは、ミルクやおむつなど、赤ちゃんの子育てに使わせていただきます。 気に入っていただけたら、❤️マークも押していただけたら、とっても励みになります。コメント、引用も大歓迎です :-)