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ひき抜き 5.一時金

 2014年2月業界トップのA社から、当社の販売店Y商事を取り込む戦争を仕掛けられた。対抗措置として、Y商事東京支店販売店の主要な営業マンを引き抜き、売上5000トンを取り戻そうと画策している。敵が気づく前に、素早く秘密裏に進めねばならない。
 
 
5.一時金
 
 東京支店長以下引き抜き対象の4名には、既に当社に来た場合の処遇を提示している。勿論Y商事の現在の処遇を多少なりとも上回ってはいるが、当社の規定を逸脱するわけにはいかない。他に何か有効な手段がなかろうかと、一時金の支給を考えた。
 
・私から担当役員、営業本部長、営業室長、総務室長へのメール
Y社のT支店長と他の3人に、一時払いの移籍金(支度金)を出そうかと思います。
金額はT氏には300万円、他の3人には200万円、
彼等が迷っているとすれば、後押しにならないかと・・・
独禁法上の問題はないと確認済みです。
意見を述べてください。
 
 本当はもっと出して強く背中を押したいが、金額が法外になると、Y社が、当社の組織的で不法な引き抜きだと、訴えた場合に負ける可能性があり、多くは出せない。
 
・営業室長からのメール
  ここまでしていただければ、当然大きな後押しになると思います。
 現在の状況ですが、T氏からの回答はまだありません。
 T氏と電話で連絡を取り合っていますが、以下の話がありました。
①    A社と打ち合わせ
3月19日に東京支店でA社と話し合いをする予定。
A社は営業部長とその他数名、Y商事は専務、岐阜支店長、京都支店長・T氏・T氏の部下の予定。
②    引き抜きの件
3月24日にT氏と引き抜き対象者2名で腹を割って話をする。
 
・営業本部長からのメール
 結論から言いますと、反対です。
①    お金も重要ですが、やる気の方がより重要です。
お金は絶大な効果がありますが、効果は長続きしません。
会社規定に準じて、引っ越し支度、赴任手当などで
出した方が良いと思います。
②    金額も、T氏、その他で違うと後でシコリが残りそうです。
 
 営業本部長の反対意見は正論であり、そう考えるのが普通かもしれない。反対意見も聞いて理解したけれども、それでもなおかつ、一時金の支給を決めた、とのプロセスが重要なのだ。
 
・再度、営業室長からのメール
 今回の引き抜きは絶対に成功させなければならないと思います。
 悔いを残したくないので、過剰かもしれませんが、有効と考えられることは何でもやっておきたいのが本音です。
 
・営業&管理部門担当取締役からのメール
 小職の意見を記します。
 5千トンの損失は、
   原価アップも含め粗利・数億円減、
   業界シェア10%に低下、
   工場操業低下による製造原価全体の増、
 などを招き、会社存亡の危機となります。
 出来ることは全てやるべきです。
 
・総務室長からのメール
 基本的に支度金の支給に賛成です。
 Y商事の寝返りにより、来期以降、会社は危機的な状況に陥ることが危惧されます。それを回避できるのであれば、支度金の支給により、彼等を迎えることに賛成です。
Y商事は当然、商権を失わないよう、必死になってくるでしょう。A社も同じです。Y社を取り込んで業績が良くならなければ、A社内で問題となるはずです。
 
 総務室長のA社に対する推測はおそらく正しいだろう。今回の引き抜きが成功しても、A社の今後の反撃に要注意だ。
 
・再度営業室長からのメール
 T氏は差をつけた方がいいと思います。
 伝えるのであれば、直ぐにした方がいいと思います。
 
・私から営業室長&関係者へのメール
  では、一時金を支給することにします。
 T氏は300万、他の3名は200万とします。
 営業室長殿、直ぐに対象者に伝えてください。
 
 直ちにT支店長以下、引き抜き対象者の4名に、当社に移籍した場合の一時金の支給を伝えた。


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