人生が一度限りだとしても、試すのは何度だってできる。「しごとを間借り」して、小さく働いてみるプロジェクト。
もしかするとあなたは今、何かを辞めたり、諦めてしまったところかもしれない。それはきっと、自分を守るためには仕方ないことだったと思う。
そうなんだけど、それがきっかけで、自分を信じることが怖くて出来なくなってしまうことがある。
多分そんな時に、一人で考えこむことはよくない。どんなに小さくても、一歩を踏み出してみることができれば。一人で考え込まずに、誰かと話すことができれば、状況は好転することがある。
ところが、そういう場や機会が、全然ない。だからつくった。大阪の、街の小さなカレー屋だけど。
場所を間借りするように、「しごとを間借り」する。少しの時間だけ、普段とは違った世界で働き暮らす自分を試してみる。
そんなプロジェクトを今年やっていくことになった。それを「しごとの間借りプロジェクト」と名付けた。必要な人に、届いて欲しいなと思う。
アルバイトとボランティアのあいだ、という働き方。
昨年の12月に、うちの店の空いている時間に間借りで芋煮屋がオープンした。
一つのしごとを数人でシェアすることで未経験者が働くことのハードルを下げる、時給制ではなく「利益分配制」の働き方の実験だった。
それを「アルバイトとボランティアのあいだ」と呼んだのだけど、3人の若者がその実験的な働き方に手を挙げてくれた。(詳しくは前の記事へ↓)
試行錯誤の連続だったけど、この3人と過ごした半年間はとても良い時間だった。アルバイトでは無いからこそ余白を作れ、ボランティアで無いからこそ適度な責任感が生まれた。
3月末の最終営業日。半年間を共にした3人が、この間の変化やプロジェクト卒業後の自分の計画などをお客さんに発表する活動報告会をひらいた。
狭い店内、ささやかな人数で行ったのだけど、一人ひとりの発表に対してお客さんも手書きのメッセージを書いてくれた。
帰り際には「感動した」という声が。僕も、等身大で熱の籠もった皆の発表にぐっと来ていた。
「今の自分が、恥ずかしい。」
報告会の発表で一人が「仕事をやめたあと、自分がずっと恥ずかしかった」と言った。その言葉は、多くの人の気持ちを代弁をしているようだった。
仕事や学校を休んでいるとき、辞めてしまったとき。自分を恥じて、閉鎖的になってしまう人が多いように思う。
合わなかったのは、単に自分の個性と環境のミスマッチだ。自分を責めなくてもいい。
だから本当は休職・離職・中退のタイミングこそ、しっかり休んだあと、色んな人と話したり、色んなことを試したり、ミスマッチの正体をつかむために自己探求的な時間を過ごすべきだと思う。
でもそのような機会が本当に少ない。だから多くの人は、誰にも相談できずに、一人で抱え込んでいるのだと思う。
僕は半年間のこのプロジェクトを終えて、こう考えていた。「キャリアにつまづいた時に閉鎖的にならず、ポジティブに人に会おうと思える仕掛けが必要だ」と。
仕事や学校を休んでいたり辞めた時こそ、小さく試したり、色んなコミュニティを覗いてみたり、探求していく時間をつくったほうがいい。
試すだけなのに、就職先とか所属とかを、ハッキリと決めなきゃいけないのはしんどい。だから、既存のルールの「あいだ」にあたる曖昧な場が必要だった。
「一度きりの人生で失敗してしまった」。そんなことを考えてしまう時が誰しもあるかもしれないけど、何度だって試してみて、自分に合った場所を探していくことはできる。それを僕は応援したい。
小さく試して、それから考える。
このプロジェクトは「店を運営する」ことが手段で、その中で色々と探求することが目的。だから第一期では通常の営業に加えて、特別なイベントも何度か行った。
例えばメンバーの一人が弾き語りをしてみたい、と希望してくれたので、芋煮の営業中にミニライブを行った。
聴き入ってしまう透き通った歌声で、温かな時間が流れていた。
サーカスキッチンという地方への出張出店を行うネットワークを使って、奈良県吉野町の地域食堂へ一泊二日の出張出店も行った。
自分と違う時間軸や価値観で暮らす人たちと出会い、自分のことが客観的に見られるような時間だった。
今年も出店旅行は予定している。旅先の地域で、「焚き火を囲んで語らう」という対話の場もつくってみるつもりだ。
第二期メンバーを募集。
そんな、店を間借りして専門店を運営する「アルバイトとボランティアのあいだ」の働き方。今年第二期メンバーを募集することになった。
今年は、前期・後期の2回に分けて募集。6月から始まる前期は、2チーム同時にスタートする。
Aチームは、バターカレー専門店の立ち上げ運営を。
Bチームは、台湾かき氷専門店の立ち上げ運営にチャレンジしてもらう。
店を運営すること以上に、色々試しながら参加メンバー同士で対話したり自分について内省することを重視したプログラムになっている。だから、飲食業で働く予定のない人も、料理初心者の人も大歓迎だ。
詳細はこちらの募集チラシを読んでみてほしい。
プロジェクトの後半、少しだけ動画を撮っていた。一期の様子は、こんな感じだった。雰囲気を少し感じてもらえるかな。
さいごに。
雇用という働き方だけに縛られず、必要に応じて自由度の高い働き方を世の中に用意してみる。何かのルールを壊してみると、そこにハードルを感じていた人たちが生きやすくなるはずだと信じて。
今回つくったのは、「最低賃金」というルールを壊した働き方だ。労働者を守るために作られてきた最低賃金というルールは、皮肉にもチャレンジのハードルを高めてしまうことがある。それを壊すことで、新しい選択肢を必要な人に届けられたら嬉しいなと思う。
今後も「既存のルールを何か壊した働き方」を色々と立ち上げていく予定だ。
今回のプロジェクトは対象ではないけど、今、仕事や暮らしで「実はちょっとしんどい」という方。別にオンラインのプログラムや個別の相談も実施するので、よかったらその声を聞かせてほしい。
さいごのさいごに。
これは前職で僕が7年間、就労支援のしごとをしてきた中で、「本人への支援だけでは足りない」「世の中の働き方の自由度が全然足りない」と感じていたことを、やっと形にできたプロジェクトの一つです。
今回プロジェクト実施だけではなく相談窓口まで作れているのは、内閣府の休眠預金活用事業で助成をいただいたから。手弁当でやっていた所、ちゃんと体制を作れて本当に感謝しています。ありがとうございました。
一般社団法人NIMO ALCAMO 代表理事 古市邦人
22.7.7追記
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