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スーパーヒーロー、全員救わなければいけないのか問題(救済のジレンマ②MCU:まずは救うべき人々に気づこう)

part2です。
part1の記事はこちらから


前回は、救済のジレンマの概要について語らせてもらった。今回からは、数多のヒーロー作品で描かれてきた、救済のジレンマを紹介していこう。

MCU

メンツが微妙過ぎる

おそらく、世界で一番有名なヒーローシリーズだろう。私も大好きなシリーズだ。

※フェーズ3までは。

本シリーズにおけるに救済のジレンマだが・・・正直、現状殆ど描いてこなかった様に思える。

というのもMCUでは、救われない(救われなかった)人々自体、全くと言っていい程出てこないのだ。あくまで焦点となっているのは、救われた人々と、彼らを救ったヒーロー達のみ。

仕方がない。救済のジレンマは、扱いが非常に難しいテーマだ。仮に誰かを救い、誰かを救えなかったという事実を作ってしまうと、そのヒーローの威厳や、正義の味方としての説得力が失われてしまう。明るい作風が比較的多いMCUにおいて、救済のジレンマを描くのは非常にリスキーだったのだ。



一方、シリーズではっきりと、救済のジレンマに触れた作品も2作品だけある。
※フェーズ4以降は飛ばし飛ばしなので、他にこのテーマを扱っている作品があったら教えてください。

ブラックパンサー

オコエがあだ名じゃなかった時の衝撃

本作で描かれたのは、技術の独占による格差だ。主な舞台となる"ワカンダ"は、アフリカに位置する、最先端の科学力を持った超先進国である。しかし外部には”発展途上国”と偽りながら繁栄してきた歴史がある。理由は、自国のオーバーテクノロジーを他国が悪用し、戦争が激化するのを防ぐためだ。確かに道理は通っている。ただ裏を返せば、隣国で起きている飢餓や貧困といった問題を無視し続けたことになる。その技術を使えば解決できたかもしれないのに。

本作はそんな、技術の格差で救われなかった人々と向き合うことがテーマとなっている。主人公でありワカンダの王である"ティ・チャラ"が、自国が目を背けてきた問題に対し、どのような決断をするのかが肝なワケだ。

ファルコン&ウィンター・ソルジャー

もうちょいバッキーを優遇してくれ

本作では、"移民問題"を通して救済のジレンマを浮き彫りにした意欲作だ。時系列は『エンド・ゲーム』の数年後で、"フラッグスマッシャーズ"というテロ組織との戦いが描かれる。そのテロ組織の目的と動機が、非常に興味深いものとなっている。

彼らは元々難民だったのだが『インフィニティ・ウォー』ラストで人口の半数が消滅したおかげで、住処を得ることができた。しかし『エンド・ゲーム』で人口が復活したことで、元々住んでいた住民の居場所を確保しなければいけなくなり、強制立ち退きを命じられる。そんな状況から、自分達の居場所を改めて確保するために、彼らは戦っているわけだ。

かつてアベンジャーズが倒した、サノスの正義によって救われた人々もいたという事実。そして今までヒーロー達はその事実に気付けなかったという皮肉。キャプテン・アメリカの意思を継いだサム(ファルコン)は、今後彼らとどう向き合っていくかが見所となっている。

両作は、"これまで人知れず苦しんできた人たちを救おう"というメッセージで共通している。自分たちが守ろうとしてきた市民の命が、気づかないうちに掌からこぼれていて、それを改めて拾おうとする物語なわけだ。素晴らしい。私好みのアンサーだ。今後も彼らが抱える救済のジレンマに、目が話せない。

一方で懸念もある。上記2作で、これまで手が届かなかった人々を救おうというアンサーを描いてしまった以上、以降のシリーズで命を見捨てて人々を救う物語を描けなくなったからだ。勿論、ヒーローのあり方は人それぞれ異なるので、あくまでワカンダ国とサム(ファルコン)に限った話ではある。ただし、両者ともアベンジャーズでも中枢に位置するメンバーなので、彼らの信念を守る、あるいはあえて背いた上で、ファンを納得させるアベンジャーズを描くのは至難の極みだろう。

特に現在、マルチバースサーガが進行中だ。中でも『ロキ』や『アントマン&ワスプ:クアントマニア』にて、平行世界同士の衝突により、両方の世界が崩壊する可能性が示唆されている。現状、その問題を解決するには、どれか一方の世界を消滅させる以外に方法がなく、このままだと平行世界間の戦争は避けられない。

となると、宇宙規模という前代未聞の救済のジレンマが描かれることになる。自分の世界を守るために他の世界を滅ぼすのか、両方の世界を救う道を見つけるのか・・・こんなの期待するしかないじゃないか!




いや、下手に期待しないほうがいいな。サノス枠のカーン死んだし(社会的に)。そもそも次回のアベンジャーズ作る前に打ち切りなんてのも全然あり得るしな。

頼むー!キャプテンアメリカシリーズだけは最後まで走り切ってくれーい!。

余談。本記事を読んで「この筆者はフェーズ3までのMCUを、救済のジレンマから逃げたと批判している」と受け取った読者もいるかもしれないので、一点補足させてほしい。

確かに、これまでのMCUは救済のジレンマに極力触れないようにしてきた。一方で、一貫して描いて来た正義もある。それは"目の前で困っている人は、必ず助ける"だ。

例えば『キャプテン・アメリカ ファーストアベンジャー』のとあるワンシーン。主人公スティーブが超人になる前の時代だ。教官が訓練の一環で、ランニング中の訓練生達に、空の手榴弾を投げる件がある。それに気づいた訓練生達は、慌ててその場から逃げる素振りをするのだが、スティーブだけは唯一、手榴弾の上に覆い被さり、爆発の被害を抑えようとしたのだ。

他にも『マイティ・ソー』でも似たようなシーンがある。それは終盤、弟ロキが仕向けた怪物デストロイヤーが地球に襲来した際。敵の圧倒的な強さに仲間が倒れていくのを見て「自分だけ殺せば良い」と、己の身を差し出した。

この2人は、自己犠牲を以て人々を救おうとしたという点において共通している。彼らだけではない。ピエトロ・ヨンドゥ・ヴィジョン・ブラックウィドウ………みな自身の命と引き換えに大切な何かを守ろうとした。

彼らにとって守るべき対象は、「眼の前で危機に瀕している人々」であって「知らないどこかで苦しんでいる人々」ではない。それが、MCUなりの正義なのだ。本記事では、救済のジレンマの重要性を説いているが、ヒーロー物で必ずしも描かなければいけないテーマというわけではない。ヒーローによって描かれる正義が異なることを留意したうえで、引き続き本シリーズに付き合ってくれると嬉しい。

※「自己犠牲のせいで、そのヒーローが生きていれば救えるはずだった、未来の危機を防げなくなるのでは?」という側面もあるのだが、話すと長くなってしまうので割愛。

──次回に続く






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