リターンマッチ書道
年初に書き初めをした。
現在の勤め先には労働環境に関する問題は特にないが、なぜか「ブラック企業の居酒屋みたいなイベント」を好む気質があるため、みんなで書き初めをすることになっていた。
仕事を楽しくとかスキルアップとか健康とか、そういう当たり障りのない語を書くのがお決まりだ。
私は、年始に本来存在しないはずのやる気をお飾りででも見せてしまうと仕事の重みが増してしまうことを警戒し、「とても落ち着いて行動する」みたいな平坦なテンションの知らない禅語をググって書いた。
急きょ勃発した自己表現の場で、虚のやる気を見せることだけはどうしても避けたかった。
やる気と言えるほどの突出したやる気がない故に、誠実さを見せることにしたのだ。
人間捻くれていると一周回って素直になるパターンもある。不思議だね。
歳とってきたからか最近そんなんばっかだね。
とにかく無難で平坦な性質を持つ語を書いた。
でも、本当は書きたかった。
次々と壁に貼られていく無難な抱負たちを目の前にした時、明らかに書きたいものがあったのだ。
前歯破壊です。
この会社ヤバイやつがいるな。
誤解されたら困るしもうちょっと具体的にしようかな。
好きなんだよな愚地克巳。
特に、グラップラー刃牙初登場シーンでラガーマンの前歯を破壊しているシーン。
もっと書いちゃおう。
会社の壁に貼っちゃいけないやつ。
お婆さんの涙はギリギリ大丈夫かもしれないけどこれはダメだろう。
概念的かつ嬉しい。
単位。
諺っぽいのとか好まれるし諺っぽくしようかな。
かなりモラルがなさそう。
漢字一文字も人気の題材だ。
一文字でガッとくるやつってなんだろう。
虫をつけると大抵の漢字はちょっと嫌になる。
いかにも習字っぽい字ばかりではつまらない。
今度はラフな感じの題材はどうだろう。
拷問屋さんのメニューだ。
漢字がいっぱいで長いのも、漢詩の書みたいでカッコいいんじゃないか。
五言節句の前半だけとかよく書道で書かれているようだ。
素手で輪ゴムをちぎる早さを競う選手権です。奮ってご参加ください。
せっかくだから緊張感がある作品も欲しい。
ピリっとするな〜。
今度は書いた字をスキャンして調整する。
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お湯にさっと潜らせたシンプルな味なしガムを味わえる。
↓↓↓
元は違う店名だったが、時折カウンターの向こう側に「テルミンを演奏する小僧」が出るということで名前が変わった。害は特にないし、テクニカルな座敷童ということにしているそうだ。
あたくし、ない看板職人と申します。
番組の題字っぽいのもやってみよう。
やはり筆文字の題字といえば大河ドラマだ。
風林火山、天地人、直虎。
力強く、書き手のエネルギーをそのまま感じる素晴らしい題字の数々。
そんな大河ドラマの題字に想いを馳せて筆を持つ。
生、という漢字を美しく書こうと真剣に向き合ったのは初めてかもしれない。
学校で書道をやるような時期には、こういう字を一生懸命に書くのが正直照れくさかった。
陰キャの性質として当然だが、それでも大人になるといろんなことに対する恥が薄くなる。
私は大人になったのだ。
いい字が書けた。これは明らかに名作。
このような荒々しいタイプの字は一見簡単そうに見えるが、10回くらい半紙に書きなおしても全然ダメだったので、B3サイズのでっかいクロッキー帳いっぱいに書いた。どうやらこういうのはデカく書かないとダメらしい。
爽やかな、春を感じる字。
始まりの字。
筆が乗ってきた。気持ちが良い。
外に出よう。
こうなったらアレがやりたい。
ショッピングモールとかにいる色紙書く人。
本格的な道具は持っていないので、携帯に適した色紙と写経用の筆ペンを持って出る。
リクエストをきいてみよう。
そろそろ無性にでかい声も出したいし。
ヘイヘイヘイそこのお姉さん!!!!
すみませんがちょっとお時間いただけますか。
私怪しいものではなく先ほど趣味として書道を始めた者なのですが、練習にあなたの好きな言葉をひとつ書かせてもらえませんか?
お忙しいところすみませんねえ。
ありがとうございます。さて、どの言葉にしましょうか。
スッ。
全然見たことない言葉だ。
急にこういうの出てくる人ってすごいな。
書いたことない漢字がある。
上手に書けるかしら。
お待たせしました。
これをあげます。
お忙しいところお時間をいただいて申し訳ない。
ありがとうございました。
さようなら。
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