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京都を暮らすように旅した7日間〜8日目〜親愛なるT女史へ。

いよいよ最終日の今日もすがすがしい夏空。タイトルに7日間と入れているが、7泊8日の旅だったので時空のバグが起きている。アホだ。

檜の五右衛門風呂をとても気に入った私は、朝風呂を堪能すべく気合いで早起き。最高のスタートだ。

T女史はおしゃれさんなので、滞在中は毎日違う洋服を着ていた。最終日の今日は白地にレモン柄のスカート。すらっとして涼やかな彼女にとてもよく似合っていた。

一足先に身支度を終えた徳子と私は、縁側に腰掛けて庭を眺める。

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「この、真ん中に置いてある石なんだろう?」
「ここから先は立ち入り禁止とか?」
「外国人には絶対伝わらないよね」
「あえて書かないのがわびさびのなのよ」
などと他愛のないおしゃべりに興じる。

ワコールさんの熱量を感じる宿だったから、人生で初めて「お客様の声」アンケートを熱心に書いた。本当にいい宿だったということ、HPの写真はもっと実物の魅力を伝えられるようなものにしてほしいということ(写真を変えるだけでも予約増えそう…)をしたためた。

北野天満宮へお参りに

名残惜しくも「京の温所」をチェックアウトして、市バスで北野天満宮へ。T女史は人生の節目節目で参拝しているそう。もう、粋な女というか「歩く粋」よ。あなた。

入口に到着すると、T女史は集中しているのかとても静かに、そして颯爽と境内に向かっていく。私と徳子は後ろで「T女史、ゾーンに入っちゃってるね」「うん、入ってるよこれは」などとひそめきながら後ろに続いた。

北野天満宮といえば梅の名所だが、夏は七夕飾りが境内を彩ることをはじめて知った。

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花手水も美しかった。数年前は見た覚えがないから、昨今のブームにぬかりなく乗っているのかもしれない。T女史が宿の花瓶に生けたヒメヒオウギもある。

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お参りを済ませてから、水を買おうと自販機スペースに立ち寄る。そこにあった和歌をふと見上げて「百人一首かな?」「達筆すぎて読めない」などと話していたら、

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T女史が頓狂な声を上げた。

「こ、これ全部絵じゃなくて織物なんだって!!!」

そんなまさかと思って目を凝らすと、マジだ。紙ではなく、文字も絵もすべて織り上げられている。

目立たないところにあった額縁に、西陣織の組合の作品である旨が白地の布に金色の糸で記されていた。読ませる気、ないだろ。

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この度で何度も痛感したことだが、京都のあまりに壮大なスケールの歴史と文化資本に、思わず笑ってしまう。そしてこれ見よがしにアピールしないところにも、京都のいけずを感じたのだった。

高島屋で親子丼

我々より滞在日数が少ない徳子リクエストの親子丼を食べようということで、バスで高島屋の「八起庵」へ。卓上の山椒をたっぷりかけて。結構な量だったけど、ぺろりと食べてしまった。この旅で確実に胃袋は成長した。

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T女史が「鴨せいろ」も食べてみたいというので、さらに鴨せいろを1つ注文する。よく食べる女たちである。

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ぎをん小森でつめたいおやつ

お昼ごはんを食べ終えてすぐ次の店に向かう。祇園四条の「ぎをん小森」で、「森ちゃん(仮)」と合流した。彼女は関西に住む我々の友人で、出国前のT女史に会いに来たのだ。

風情のある座敷に通され、徳子と森ちゃんは抹茶ババロアパフェ、T女史はわらび餅とアイスグリーンティー、私は甘夏かき氷を注文。

この日は本当に暑かったので、つめたくてさっぱりしたかき氷が本当においしかった。

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運ばれてきた時点ですでに溶けかかった抹茶ババロアパフェを見て、「抹茶のナイアガラやん~~~」とつっこむなど、ゆるい時間を楽しむ。

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そんな調子で甘味を堪能してから、花見小路を歩く。お茶屋街に徳子が以前バイトしていたお店があって、「おかみさんが仕込み中に下ネタを言ってくるのが嫌で辞めた」とかねてより聞いていたため、折角なのでその店の前を通らせてもらった。「ここがあの下ネタおかみの店か…」と笑ってしまった。

そのまま南へ下り、建仁寺の中を通って、森ちゃんとはお別れだ。京都駅に移動し、お土産を買う徳子を待つ間、T女史と私は駅構内の小川珈琲でアイスコーヒーをしばく。隣に星野珈琲もあったけれど、折角の京都だからね。

連日歩き回った疲労が一気に襲ってきて、眠気がすさまじい。戻ってきた徳子と合流し、新幹線の3人掛け席に座る。最初こそ「楽しかったね」などと話していたものの、あっという間に眠りに落ちていた。

新幹線を降りて、「次に会うのはT女史の出国日だね」と話して案外あっさり解散した。

旅の終わり

京都に1週間も滞在するなんて、人生でそうないだろう。懐かしい場所でエモさにどっぷり浸れたこと、京都の新たな一面を知れたこと、変わらぬ友情をさらに深められたこと。

このまぶしい日々を、今後の人生で何度も記憶から取り出しては慈しむと確信する。

そして8日間一緒に過ごしたT女史について。彼女のやさしさ、気さくさ、ユーモアのおかげで、この旅が素晴らしいものになったことは言うまでもない。

彼女について、忘れられないことがある。

T女史と新潟に旅行し、バスに乗った時。下車したばかりのカップルの座席近くに小さな荷物があった。もともと置いてあったのか忘れ物か判別がつかず、私はぼうっとしていた。

時間調整のためか止まっているバスの中、T女史は「さっきの人たちのものかな」とそわそわしていた。ついに立ち上がってバスの窓を開けて、すでに遠くなりつつあるカップルに「すみません!これ忘れてませんか!」と大きな声で訊ねたのだ。

そのとき私は、T女史の親切心と誰かのために即座に動ける行動力に、大げさではなく心から「すごいなあ」と思った。

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T女史の仕事は、使命感がなければなかなかできないことだと思う。その仕事のために、彼女はこの先5年間をいくつかの国で過ごす。日本とは人種も文化も歴史も宗教も違う国々だけれど、彼女なら大丈夫だと思っている。

親切心と、気さくさと、やさしさと、ユーモアは世界中どこの国の人にも伝わるからだ。そのどれもを持っている彼女なら大丈夫。

5年後、広い世界を見てきたT女史の話を京都で聞けることを、いまから楽しみにしている。

できれば夏の夕暮れの鴨川デルタで、スミノフと金麦を片手に聞きたいな。

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