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5千円を握りしめて昼飲みというユートピアを目指す

8月の日曜日。

夫は車で出張、1歳と3歳のこどもと家で過ごしていたら発狂しそうになったので、なんとかその場から脱走することにした。
実家の母に無理を言ってこども2人を預かってもらった。感謝。


貯金もごくわずかしかない、でも家にいたくない。

そうだ、酒をのもう。

「金がないが、外で酒をのむ。」
この因果関係が崩壊した思考で
私はひとまず家を出ることにした。

家を出る支度をする。
こどもたちがギャオスで両足にくっつきまくるので、化粧などできない。

クッションファンデを顔に10ぽんぽん、アイブロウをシャッーくらいだ。苦し紛れのリップをかばんに入れて、アイロンもかけていないシャツワンピースに着替えて自転車にまたがった。

10時に自転車でこどもを実家に届け、最寄り駅から2駅離れた。

家にいたくないとき、物理的に離れると気分は楽だ。



財布には5000円ちょい。
これで闘おう。心は決まった。


昼営業の居酒屋は11:30オープンだったため
パン屋さんに入り、イートインコーナーに座ることにした。

子育てあるあるだと思うが、気付いたら朝ごはんを食べ損ねていた。
パンとコーヒーで腹を満たしながら本をよんだ。

岸田奈美さんのエッセイだ。
「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」

気を抜いたら声がでるくらい面白いから、気を抜かないためにとにかく背筋を伸ばしてみた。


ありがたいことにだいぶ落ち着いた。
静かな環境で、おいしいパンとコーヒーを飲みながら1人。
好きな本も読める。

幸せの形が、ここに、あった。


コーヒーのおかわりもしちゃったので、1350円かかった。
さて予算は、のこり4000円とした。


昼飲みのできる居酒屋さんに、いざ出陣。

猛暑で35度の中を歩いて店に辿り着いた。
お店の前の看板に飲み放題60分、100分とある。

なんと100分1200円。

嘘やろ事案だ。神に愛されてる。
天をちょっと仰いだ。ガッツポーズはやめといた。

テーブル席に着き、店員さんに飲み放題について遠慮がちに聞いた。
初めて知ったかのように照れながら少し迷う自分を演出して、100分を選択。

こういう、うまく説明できないよくわからん行動をする自分が好きだ。
しかし、次は堂々とありたい。どうせ100分を頼むのだから。


飲み放題のテーブルには、タブレットが置かれ
画面の左上に飲み放題の時間が表示される。至れり尽くせりである。

お酒の種類を把握し、残り時間と相談しながら飲みたいもの全て飲むのだ。
海賊である。



さあ、プレイボール。

8月の甲子園期間中に、子育てに疲れた私は家を離れて1人で昼飲みだ。
高校球児達に申し訳なくなる思考の隙もなく、
タブレットを操作し生ビールをたのんだ。


アサヒスーパードライがきた。

このために生きてきた。仕事終わりの一杯よりもおいしいかもしれない。

昼に1人で酒を飲む。
しかも外で飲むなんて、何年ぶりだ。


1人目の妊娠よりも前だし、コロナ禍の前だ。

昼から飲む酒は全てを許せる力を授けてくれる。

とりあえずこども2人にイライラする自分を一瞬で許した。

立て続けに3杯のみ、ちょっと落ち着きたいのでウーロン茶を1杯はさんだ。

ここらへんで、頭の中の「孤独のグルメ」の井之頭五郎が顔を出す。
五郎さんをご存じない方がいたら申し訳ない。

「俺は今何が食べたい?何の腹だ。」と自分と静かに向き合うのである。

黒板に書かれたおすすめ料理の中から出し巻き卵を選んだ。

水分の多い小葱の入ったふわふわの出し巻き卵を、湯気が出てるうちに全部いただいた。レモンサワーと共に。

レモンの主張がやさしいレモンサワーと出し巻き卵が合うのだ。あつあつの出し巻き卵と冷たいシュワシュワのレモンサワーのマリアージュ。

生きててよかったと感じ
今、ここに全集中した。


今日は徹底的にしたいことをする日だ。
満足なんかしてやらんぞ。


予算内で楽しくのむことを決めたので、もう自由だ。なんでもできる。
「よし。やったるぞ、このやろう。」という強い気持ちでで私は「ホクホク丸ごと揚げニンニク」を頼んだ。

揚げニンニクって、めったに頼まない。仕事上厳しいからだ。
餃子ならまだなんとかブレスケアでいけるが、揚げニンニクはニンニクそのものだ。

病院で働いている看護師がにんにく臭を漂わせているといろいろ問題がある。
患者さんは絶食の人もいるし、化学療法で吐き気が止まらない人もいる。
患者さんだけでなく、医療者間でもにんにく臭をぷんぷんさせている人と働きたくないだろう。

しかし、私は今休職中だ。一歩踏み出す時だ。


店内のBGMは流行りの曲が流れていた。
出し巻き卵あたりで、BTSのジョングクのSevenが流れたとき
嬉しくて、横揺れしそうになったがこらえた。


我が推し、BTSの【Dynamite】が流れた。
そしてタイミングよく店員さんが
丸ごとほくほく揚げニンニクを持って登場した。

頭の中の全私がスタンディングオベーション。
ここで、Dynamiteが流れてきてくれてありがとう。
センスしかない。

大人なのでしずしずと「ありがとうございます。」と
にんにくを持ってきてくれた店員さんに伝えた。
実際は興奮冷めやらぬので
目を見開いて鼻の穴も少し広がってにやにやを抑えた顔だ。

こりゃのってきた



ところで、私はニンニクを多量に食べるとお腹のガスがとんでもないことになる。汚い話をして申し訳ないが
ガスの回数も、刺激もすごい。

以前、腸の動きが鈍る妊娠中にニンニクを食べて、
夫にニンニク禁止令をだされた経歴もある。

そんなこんなで、わたしの屁は兵器と化した。
お腹の調子が戻るまで3日かかった。家族よすまん。

奇しくも8月21日はDynamiteがリリースされて3周年だ。
その次の日にDynamiteに触れたnoteが書けて少しうれしい。



Dynamite Garlicだけではまだ終わらない。

ホクホクのにんにくをつまんでいると向こうのテーブルから
「お客様、枝豆は3人前でお間違いないでしょうか。」が聞こえてきた。
おや。そのテーブルは2名様だったはずだ。

すぐに向こうのテーブルを見たい気持ちを抑えてドキドキしながら聞いていると「はい、3人前ください。」と
少し前の会話から数学や情報科学科の教授っぽいと思ったお客さんが言った。


枝豆を人数分以上頼む人を見たことがない私はそわそわした。

しばらくして、斜め前のテーブルに目を向けると

枝豆がラクダのこぶのように盛られていたので、必死に表情を整えた。


1人前を3つではなく、3人前を1つにしたパターンだ。

こちらに背を向けて座っている教授の手が、

ぐわっと枝豆を自分の皿に入れていた。枝豆好きの教授だった。



私は、お酒でお腹がぷくぷくになっていたが、
枝豆のこぶを見て、揺さぶられるものがあったので
心の声に従い迷わず枝豆を頼んだ。お腹と相談して1人前だ。


調子に乗って、よくわからんが楽しそうな緑の飲み物も頼んだ。
青りんごサワーだ。

最後に飲んだのはいつだろう。大学の飲み放題だろうか。

こうしてテーブルの上が緑になった。満足である。

オールグリーン


3700円でめちゃくちゃ満たされた。


こうして5000円の予算はなくなった。


しかし4年以上振りに1人で飲むという奇跡が
私にエンジンをかけた。
ダメな大人のお手本のように、流れるようにスムーズに
ATMでお金をおろした。

残金が千円の位になったがもう恐怖などない。

カラオケだ。

カラオケの受付で
「学生さんだったら学生証をお願いします。」と言われた。
照明の暗さが引き起こしたマジックか、彼の視力が低かったか、乱視か。

33歳2児の母、ご機嫌である。


8人が座れそうなソファーの部屋だった。

壁際にはフロントと繋がる電話よりも高い位置に空気清浄器があった。
クーラーが渋くてなかなか効かないので21°にした。

アルコールのメニュー表にもイイ渋みがある



1人カラオケだ。

やりたい放題だ。


終盤に中島みゆきの「ファイト」をうたった。

ライブバージョンだ。ご本人様が見える。

なんと中島みゆきが画面の向こうで発光している。

もう歌えなくなった。

ハンカチの1/4が湿るくらい泣いた。


短期間ですぐ荒む私の心が、確かに今癒された。
オールクリアとなった。


自分の決めた予算を超え、

夕方に自宅の最寄り駅に着き、

飲酒したので自転車を押して家に帰った。


ユートピアはあった・・・としみじみした。


口臭を抑える特効薬として
信じてやまないブレスケアを
トータル6粒飲んだが追いつかなかった。

揚げニンニクの勢いをまだまだ感じた。
なので出張から帰ってきた夫にユートピアしたことはすぐにばれた。

昼、飲み放題、100分で1200円を伝えたら
「せ、せんべろを超えてる。」と驚き、おれも行きたい!!!と
顔面が言っていた。

夫もまた、酒が好きな海賊である。

今度は夫も一緒にユートピアすると約束した。


次の日は軽く二日酔いだったが
こどもたちをせかすことはなく穏やかだった。(私比較)

ユートピアの効果はすごい。


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